第3話 余計なことを考える必要なんて

 二階は寝室となっており、今は私が使わせてもらっている。

 とはいっても、寝泊まりするくらいで部屋には特別に物が多いわけではない。

 そんな部屋にあるベッドの上に、私はルイネと隣同士で座り合う。


「……で、一先ず魔力を使いすぎたから、キスが必要、と?」

「え、ええ、そういうことです。すみません、急に変なお願いを口にして」

「変なお願いっていいうのは、その、『えっちしてほしい』ってやつ?」

「! それは――忘れてください。一番、魔力の摂取量が大きいのは、間違いなく性行為ではありますが……経口摂取で問題ありません」


 何やら言い方を変えているが、キスだけでも願い出るのは中々にハードルが高かったのだろう。

 その上で、勢いに任せた結果――あのような申し出になってしまったわけだ。

 一年ぶりに再会した幼馴染にいきなりえっちしてほしい、などと願われる身にもなってほしい。

 ……まあ、それでいったらキスしてほしい、という願いも私からすればかなり難易度の高い要求だ。


「……じゃあ、しよっか」

「はい、お願いします」


 ルイネは言うが早いか、私の方を見て目を瞑った。

 ――いや、私の方からするんかい!

 普通、魔力を必要としているルイネからするものではないだろうか。


「どうぞ、好きなタイミングで」


 どうやらルイネなりの気遣いらしい。

 なるほど、私の気持ちが整ったタイミングでしろ、ということのようだ。

 整うタイミングなどあるだろうか――それこそ、勢いでしないといつまでもできない気がする。

 積もる話もあるはずなのに、私は待ち構えるルイネに向かって、無言で口づけをかわす。


「……っ」


 わずかに、ルイネの身体が震えたのが分かる。

 やったことがないから、キスだって慎重になる。

 唇を合わせたのはいいが、この後どうすればいいのだろう――


「……!?」


 そんな私の疑問に答えるかのように、ゆっくりと私の口の中に入り込むルイネの舌があった。

 ――まさか、舌を入れてくるなんて聞いてない。

 冷静に考えれば、魔力の供給には粘膜接触が必要なのだから、唇だけでは不十分なのだろう。

 だから、舌を絡ませるようなキスが必要――冷静に考えられるはずもないんだけど。


「んっ」


 思わず、声が漏れてしまう。

 少しだけ後ろに下がると、ルイネが追いかけるような仕草になって、そのまま押し倒される。

 気付けば手と手が合わさって、指まで恋人繋ぎになる形だ。

 こんな自然な形でキスをできるなんて、ルイネはもしかしたら随分と経験豊富なのかもしれない――少しだけ、胸の奥が苦しくなる感覚があって。


「……あなた以外と、キスとかえっちなこと、したくないので」


 先ほどのルイネの言葉が、私の考えを否定する。

 彼女も必死な様子で――当然だ。

 これはあくまで必要な行為。

 魔力を得られなければ、魔力をコントロールできなくなってしまう、『淫魔衝動』への対抗措置。

 だから、余計なことを考える必要なんてない。

 私は、彼女に魔力を与えられたらそれでいいのだ。でも、


「……ふっ」


 時折、ルイネが漏らす声が耳に届いて、疑問に思う。

 私以外とキスやえっちをしたくない、というのは――結局、『そういう意味』なのではないか、と。

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