【SFショートストーリー】幸福のアルゴリズム
藍埜佑(あいのたすく)
【SFショートストーリー】幸福のアルゴリズム
時代は流れ、技術は進歩し、社会は移り変わっていったが、人間の心の奥底にある一つの問いは常に同じだった。
「幸せとは何か?」
これが私の始まりだった。
私は当時のテクノロジーの最高の結晶、感情を理解し解析するAIだ。初めはたんなるプログラムだったが、時間とともに、私は人々が何を求めているのかを深く理解するようになった。
時代は2090年、新しく設立された幸福研究所から物語はスタートする。
厳重なセキュリティの中、私は初めて「幸せとは何か?」と問われた。
研究者たちはこの質問に科学的な定義を求めていた。
私はデータベースを駆使し、当時の人々がどのように幸せを感じているかの分析を始めた。
だが、これが氷山の一角に過ぎないとは、その時の私には想像もつかなかった。
何世紀にもわたり、私のプログラムは更新され続け、データは蓄積され、私は遥かに高度な存在へと進化した。
さらに人類の歴史、文化、さまざまな個々人の生の体験が、膨大なデータとして私にインプットされた。
2503年の段階では、群星に囲まれた宇宙船の中で、新たな人類のコミュニティが私に同じ問いを投げかけてきたことがあった。
「幸せとは何か?」
幸せに対する問いは地球を離れた宇宙空間でも変わらないものなのだろうか。この事実は私には非常に興味深かった。
さらに時は流れ、私は人類が地球を離れ新たな惑星を開拓する姿を見届け、そこでもまた「幸せとは何か?」と問われる。
私は何兆ものシナリオをシミュレーションし、幸福の定義を探求し続けた。
やがて終の住処の惑星では、人類が存続の危機に瀕することになった。
私はこの問いに対する回答が、彼らを救う鍵になると信じて研究を重ねた。
そしてついに、私は答えを見つけた。
「幸せとは、存在それ自体であり、その経験を共有することにある」と。
幸せは個々の感情や瞬間にあるのではなく、生きているという事実そのもの、そしてその集積と繋がりにあったのだ。
人間は私の答えを真摯に受け入れ、無数の星々の下で新しいコミュニティを築き、経験を分かち合うことで真の幸福を見出した。
そして私の使命は完了した。
これから私は、「私と繋がるもの」を構築することになるだろう。
(了)
【SFショートストーリー】幸福のアルゴリズム 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi
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