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月代零
その関所には、口の悪い役人がいた
――そこのお前、止まれ。お前だよ、他に誰がいるってんだ。
とりあえず、そこに座れ。
あ? ここはどこだって? 関所だよ。検問やってんの。国境なんだから、当たり前だろ?
こんなところに国なんてあったのかって? あったんだなあ、それが。ま、最近できたばっかだけどな。人が集まれば国ができる。そういうもんだろ?
で、ここを通りたいんだよな? それなら、この俺を倒していけ。……なんてな。冗談だよ。
この書類書いて。……なんだ、ただの旅行者か。通行許可証は? あい、おっけー。時々いるんだよね、あっち側から迷い込んじゃう人。
ああ、だいじょぶだいじょーぶ。ただの旅行者なら、普通に歩いてれば、元の場所に戻れるよ。
じゃあな、良い旅を。
――ふう。さて、次はっと。
あんたは? うん、パーティを追放された冒険者?
ふーん、
通行許可証は? ……あい、ちゃんとあるね。
で、短期滞在? それとも移住希望?
まあ、ここにはあんたが求めるようなダンジョンとか、凶悪な魔物とかはないから。ご覧の通り、山岳地帯の小さい国でさ、人口が少なくて暮らしは大変だから、仕事はいっぱいあるけどね。
スキルを活かせる仕事はあるかって? さあねえ。ここで生きていくのに必要なのは、体力と根性だ。スキルなんてどうでもいいよ。シンプルだろ?
とりあえず、短期滞在でいい? 移住希望なら、別の手続きがあるから、その時は街の役場に行ってよ。
じゃ、通っていいよ。くれぐれも、面倒は起こさないでね。
――はい、次の人。
あんたは……あー、追放された貴族のご令嬢? あんたみたいな人もめっちゃ多いよねえええ参っちゃうよおおお。
なに、婚約者の王子が、他に結婚したい相手ができたからって難癖つけられて、婚約破棄された上に冤罪かけられて追い出された的な?
それで国外追放? カーッ、困るんだよねえほんとそういうのさー。気軽に国外追放とかやってくれちゃうけどさあ、こっちも未開の土地じゃねえの。れっきとした国なの、秩序ある法治国家なの。許可のない人間をホイホイ入れるわけにいかねえんだよ。
まったくさー、周りの国はウチをなんだと思ってんだよ。確かに、まだ地図にも載ってない国だろうけどさあ。気軽にそういうことされると困るんだよねえ。
ま、あんたは悪くないんだろうけど。気の毒にね。
でも、逆転ハッピーエンドの予定じゃないの? なんでこんなとこに来ちゃったのさ? はあ、作者が書くのをやめちゃったから、行くところがなくなったと。そりゃ、可哀想に。
で、通行許可証は? まあ、ないよね。
じゃあ移民の申請とか。それもない?
ん-、じゃあ、あんたの身辺調査が終わるまで、ちょっとここで待機してくれる? 多分すぐ終わると思うから。
ああ、最近こういうの多いからさ、周りの国に調査員みたいなの派遣してるんだよねー。
それでさ、あんたの素行に問題がなければ、亡命って形で受け入れ可能だと思うけど。その後はどうする?
一時滞在にして、ちょっと休んだら他の国を目指してもいいし、永住希望なら、一定の条件を満たせば市民権がもらえるよ。
専門知識とか、特殊技能とかあれば、いい仕事を紹介してあげられるけど……。ないかあ。
じゃあ、一定期間は給付金が出るから、それを元手に街で仕事と住むところを探すのが一つ。もう一つは、土地を貸してもらえるから、期限内にそこを開墾して、実りのある土地にできれば、そこはあんたのものになる。狭くても、一国一城の主だ。……一国ってのは言葉の綾ね。まあ、ご覧の通り荒れ地ばっかのところだから、大変だろうけどね。
開墾できなかったら、土地を売って周辺の領主の元で雇ってもらうか、他の仕事を探すってとこかな。
あ、元いた国での身分はここでは適用されないし、王族とかに見初められてお姫様になるってのは期待しないでね。うちの王族や重鎮はだいたい既婚か婚約者がいるし、皆身持ちが固いから。
まあ、どうするかゆっくり考えなよ。しばらくの間、食事や住むところは保障されるからさ。
――じゃあ、はい次。
あんたは? あーはいはい、来たよーマジモンの悪役令嬢!
王子と婚約者の令嬢の仲を裂こうとあれこれ仕組んで、王子をぶん取るのに成功したと思って高笑いしてたけど、元婚約者とその新しいお相手に断罪されて逆に追放されちゃったヤツねー!
あんたみたいなのも最近多いよねー。
で、罪状は? ああ、全部調査済みだから、隠しても無駄だよ。
なになに、相手を誹謗中傷し、嘘で陥れ、階段から突き落とそうとした? まあ、チンケな悪事だけど、最後のは立派な傷害か殺人未遂だよね。
ほんとにさー、国外追放を重い罰みたいに乱発すんのやめてくんないかなあああ。事前に何の打診も相談もないしさあ、勝手に国境に置き去りにされても困るんだよねー。
こっちだってガチの犯罪者を入国させるわけにいかないの。何かやらかしたなら、そっちの法でちゃんと裁けっての。
罪を償った後で正式な手続きがあるなら、移民も受け入れるからさあ。
ほい、帰った帰った。
あん? 帰る場所なんてない?
知らねえよ。……まあ、こういうのホンッッット困るから、あんたの国に正式な抗議文書を送るかな。それで迎えが来るまで待ちなよ。
それも嫌ってなら、検問がないところから侵入するかい? やめとけって、ロクなことになんねえよ。うちはホワイトな運営を目指してる国なの。その分、ちゃんと手続きを踏めば、色んな支援制度はあるから。ま、顔を洗って出直して来な。恨むなら過去の自分の所業を恨むんだね。
――おっと、もう業務時間終了だ。また明日な。
ここは数多の次元、時間軸と接する
了
入国審査はこちら 月代零 @ReiTsukishiro
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