第21話 フォイフォイからの挑戦状?おっけーね!


 それから少し時間はかかったが、ドーブルスの冤罪疑惑にかかわっていた貴族令嬢たちとの話もほぼ纏める事が出来た。とはいってもほとんどはその実家との交渉になったが。

 ヨツンヴァインに対して陳情していたドーブルスが手を出したという冤罪については表向きには年相応の恋愛、慕情による嫉妬にすることに着地させた。

 お貴族様達の家も冤罪疑惑に関わっていたという事が明るみに成れば体面的にも良くないのでそれよりはマシだろう。


 ……ただし、後から話を蒸し返したりした場合備えて冤罪の証言、冤罪に関するゲロ吐きの記録を長所として作成しつつ、困った時には俺が個人的に出来る範囲で1度だけ手助けをしてやる、という餌も与えることも忘れない。

 王の御前で暴れまわった俺の助力1回、という鬼札を握れるのは魅力だったようで落ち目のヨツンヴァインへの義理立てよりも実利をとるあたり、まぁ貴族様なんてそんなもんである。


 いつでも暴露できるだけの証拠を握りその封印と引き換えに首根っこを掴ませてもらった。お貴族様側からしたら冤罪疑惑からの飛び火を回避しつつ有力な切り札を1枚手に入れることができるので渡りに船という様子で飛びついてきた……申し訳ないがヨツンヴァインには全責任をひっかぶってもらう事になるがそこは自分で蒔いた種だ、ケツは自分で拭いてもらうとしよう。


 もちろんこれらの裏取引についてはドーブルスが知る由もないし、知らなくてよいのだ。汚れ仕事や腹芸は俺の方が向いているし、チートのおかげで嘘が通じない俺の本領が発揮されるしね。


  そんな権謀術数の中で、絡みに来るフォイフォイをおちょくって遊ぶ中の癒しになりつつあった。反応が面白いのでついついからかい尽くしてしまうのだ。

 後はヘイゼルとも行動を共にすることが増えた。婚約者なので学校が終わった後にお茶会をしたり、休日に街に繰り出したり。こういう所は世界が変わっても同じなんだなとちょっと苦笑してしまう。

 そして今日は、学園のテラスでヘイゼルとのんびりと放課後ティータイムをしていた、のだけれど……。


「ハーッハッハ!こんな所にいたのか騎士カストル!今日はドーブルスはいないようだな!!それとヘイゼル、直接会う機会が無かったので遅くなったが婚約おめでとう」


 はい出たフォイフォイ。日をおかず絡みにに来るけどヒマなんだろうか??


「はい、タージマルお兄様ありがとうございます」


 素直にお礼を言うヘイゼルに腕組みをしてうんうんと頷くフォイフォイ。今更だけどフォイフォイってプライドが高い割に他人に対して寛容だよなぁ。フォイフォイって呼んでるのも最近はスルーするようになったし人の順応力ってすごいよねー。


「イェーイ、フォイフォイ見てるー?」


 折角なのでヘイゼルと肩を組んでフォイフォイにピースサインをしてみた。ヘイゼルは小さく悲鳴を上げて驚いていたが、なすがままにされている。……実はやっておいてなんだけど俺も恥ずかしかったりする。


「あぁ、見ているよ騎士カストル。仲が良いのは良い事だ!」


 ……素で返されるとこちらも恥ずかしいので困るフォイ。とりあえずヘイゼルを話して居住まいを治すと、顔を真っ赤にしたヘイゼルも俯いてしまっていた。悪いことしちゃったかなぁ?


「オホン、冗談の通じないフォイなんだから……。で、フォイは何しにテラスへ?」


「うん?通りがかったら君たちの姿が見えたから声をかけておこうかなと思って」


 特に理由のない挨拶が俺達を襲う―――!!じゃないけどなんだろうこのフォイから感じるフォイみ。


「そりゃどうも。でもフォイフォイ、俺の事を魔力5の騎士とか言ってた割に俺に対しても、――――普通に接しますよね」


 ヘイゼルに対しても、という言葉は飲み込んでおいた。ただ、ヘイゼルとフォイフォイの態度をみるにこの2人も割と普通に話している様子は感じたんだよなぁ。


「当然だ。魔力がいくつであってもこの国の臣民なのだからな、それはそれ、これはこれなのだ」


 ……へー、なるほど。頭の上に燦然と輝く『○』に頷く。

 魔力5の騎士を連れて挑戦をするドーブルスに対して王位継承戦の相手としてライバル心はあるけど、それと民草臣民への配慮はまた別であると。

 ヘイゼルに対しての接し方もそういう所から来てるんだろうね。

 器が小さいのか大きいのかよくわからないけどフォイフォイの派閥がフォイフォイを盛り立ててるのはフォイフォイのこういう所なんだろうなぁ。


「へー、フォイフォイしっかりしてるフォイ。えらいフォイ」


「騎士カストル、君はヘイゼルを娶ったら私からしたら義弟になるのだぞ?もう少し自覚を持ちたまえ、まったくドーブルスは従者を甘やかして……ふむ、そうだ良い事を思いついたぞ」


 何か名案を閃いたというようににやり、と笑うフォイフォイ。その面構えが完全にアスキーアートにされてる魔法世界の映画のスリなんとか寮生のキャラの顔なんですがそれは。


「王族としてではなく一個人として、君に一対一の決闘を申し込もうカストル!君が私に敗れた場合には……王族の子供がマナーを叩き込まれる王子合宿に参加してもらう!!」


「王子合宿!!!あ、あの過酷な合宿にカストルを?!」


 ヘイゼルが戦慄の表情を浮かべているけど、それ王子たちの間では常識なんだ??


「フフフ、テーブルマナーからダンスまで、社交界に必要なあらゆることを一か月で骨身に染みるまで覚え込まされる恐怖の合宿だ!!

 君には合宿でドーブルスの騎士として、ヘイゼルの伴侶として、もちろんこの僕の義弟として恥ずかしくない振る舞いを教え込まれてきてもらうとしよう!!

 この僕ですらあまりの辛さに寝小便をしてしまうほどだ、覚悟したまえ」


 え、何?ヘイゼルがそんなガクガクブルブル震える位にキツイ合宿なの?!でも今は、そんな事はどうでもいい、重要な事じゃないのだ。今フォイフォイが口走った事を聞き逃さない……俺じゃなきゃ聞き逃していたね。


「エーッ?!フォイフォイが……タージマル・フォイゲンフォーライド王子が寝小便したのォー?!?!?!」


 という訳で周囲にも聞こえるように大仰なリアクションとともに驚いてみせると、周囲の生徒も


「タージマル王子が……?!」


「寝小便?!」


「お漏らし……!!」


 と俄かに騒めいた。フォイフォイがアルェー!?という顔で周囲を見渡し、顔を真っ赤にして声をあげ訂正する。


「こ、子供の頃の話だ!!まだ中等部にあがるまえの子供の頃の話だ!!」


「エーッ!?でもお漏らししてたんですよねフォイフォイ!!」


 首を傾けて舌を出し、120億円ぐらい馬券を紙くずにしそうな馬の顔真似をしながらフォイフォイをいじると、顔を真っ赤にして去って行った。うーん、今日もフォイフォイはフォイフォイしていた。

 まぁフォイフォイが挑戦したいというのであればこちらも別に断る理由もないし、折角だからフォイフォイと一戦交えてみるのもおもしろそうだと思った。


 心配するヘイゼルに笑顔で返しつつ、部屋に帰って今日の顛末をドーブルスに話すと、俺とフォイフォイの一騎打ちについては個人としてと言っているなら勝っても負けてもあくまで個人の範疇でおさめる人だよと言っていた。ついでに合宿について聞いたら一言だけ、


「あの合宿は思い出したくない……」


 と言って震えていた。

 ……マジかよお前ほどの奴がそんな心の傷を受けるなんて。まぁ勝てばいいのだ、フォイフォイ相手だしな!!なんとかなるなる!……これはなんとかならなかったりNTRされるフラグだからやめよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

廃嫡された魔力5のゴミですが、婚約破棄されたスパダリ王子を助けたら懐かれて成り上がりが止まりません。 サドガワイツキ @sadogawa_ituki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ