EITOエンジェル総子の憂鬱(仮)30

クライングフリーマン

おみくじ『大凶』ゲーム

 ========== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 南部(江角)総子・・・大文字伝子の従妹。南部興信所所長の妻。EITOエンジェルのチーフ。

 南部寅次郎・・・南部興信所所長。総子の夫。

 大前英雄管理官・・・EITO大阪支部の管理官。コマンダー。総子からは『兄ちゃん』と呼ばれている。

 足立祐子・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。

 石動悦子・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。

 宇野真知子・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。

 丘今日子・・・EITO大阪支部メンバー。看護担当。元レディース・ホワイトのメンバー。

 河合真美・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。

 北美智子・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。

 久留米ぎん ・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトの総長。EITOエンジェルス班長。

 小峠稽古 ・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。

 和光あゆみ・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ブラック7のメンバー。

 中込みゆき・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ブラック7のメンバー。

 海老名真子・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ブラック7のメンバー。

 来栖ジュン・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ブラック7の総長。EITOエンジェルス班長。

 愛川いずみ・・・EITO大阪支部メンバー。EITOエンジェルスの後方支援担当になった。

 本郷弥生・・・EITO大阪支部、後方支援メンバー。

 大前(白井)紀子・・・EITO大阪支部メンバー。事務担当。ある事件で総子と再会、EITOに就職した。

 芦屋一美(ひとみ)警部・・・大阪府警テロ対策室勤務の警部。総子からは『ひとみネエ』と呼ばれている。

 芦屋二美(ふたみ)二曹・・・。三つ子の芦屋三姉妹の次女。陸自からの出向。総子からは『ふたみネエ』と呼ばれている。オスプレイやホバーバイクを運転することもある。後方支援メンバー。

 芦屋三美(みつみ)・・・芦屋グループ総帥。EITO大株主。芦屋三姉妹の長女で、総子からは『みつみネエ』と呼ばれている。芦屋三姉妹と総子は昔。ご近所さんだった。

 小柳警視正・・・警視庁から転勤。大阪府警テロ対策室室長。

 真壁睦月・・・大阪府警テロ対策室勤務の巡査。

 指原ヘレン・・・元EITO大阪支部メンバー。愛川いずみに変わって通信担当のEITO隊員になった。

 佐々一郎・・・大阪府警テロ対策本部所属。定年退職して南部興信所に転職した横山元警部補の後任として、EITO連絡係をしている。

 幸田(月山)澄子・・・飲み屋の女将。幸田所員と結婚した。

 友田知子・・・南部家の家政婦。芦屋グループ社員。

 用賀哲夫空自二曹・・・空自のパイロット。EITO大阪支部への出向が決まった。二美の元カレ。


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 = EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す =

 ==EITOエンジェルズとは、女性だけのEITO大阪支部精鋭部隊である。==


 1月1日。午後1時。EITO大阪支部。会議室。

 副総監が、全国に初詣火付け犯に注意を呼びかける前のことである。

「みんな、昨年はご苦労でした。ようここまで頑張った。3が日はゆっくりしてええで。事件が起こらん限りな。」

「コマンダー。そんなこと言うたら、逆に呼び寄せてしまいません?」と、ジュンが言った。

「そやな。そんなら・・・。」大前は、入り口に向かった。

「そこからヤルンかい!映画の撮影か!!」と総子は突っ込んだ。

「ははは。まあ、過ぎた時間は戻らんわ。あ、肝心なこと言い忘れるとこや。紀子。」

「はい、あなた。」「職場で『あなた』はアカンやろ。」

「チーフかて『兄ちゃん』言うてるやないですか、コマンダー。」と、今度は、ぎんが突っ込んだ。

 大前は、紀子から渡された一枚の紙片を出して、言った。

「みんなに、お年玉や。EITOからって言いたいとこやけど、オーナーから振り込み指令が出て、コレがその明細。」

「あ。金額が書いて無い。」と悦子が言い、「コマンダー。不味くないんですか?ブラックマネー?」と稽古が言った。

「アホ。個人情報やないか。わしの分が少ないのがバレるやんけ。」

 皆は、爆笑した。

 マルチディスプレイに何かが映った。小柳警視正だ。隣の通信室から、ヘレンが言った。

「大阪府警のテロ対策室からです。繋ぎます。」

「EITOの諸君、コマンダー、チーフ。あけましておめでとう。おめでたくない報せがある。今朝、大阪府警広報室に、変成器、つまり、ボイスチェンジャーで声を変えた、犯行声明があった。これがその音声だ。」

 おみくじを10枚集めろ。『大凶』だ。場所が違うおみくじだ。木の枝に括っているのはNGだ。神社仏閣に頼んでズルするのも無しだ。勿論、大凶出るまで引き直しもダメだ。ゲームが完成するまで人質は預かってやる。集まったら、記者会見をしろ。趣味の悪い男より。

 ]

「趣味の悪い男より、だって。本当に趣味悪い。」と、弥生が言った。

「警視正。何か文章みたいな・・・。」と、総子が言った。

「さすが、チーフだな。文章を読んだんだ。アルフィーズの類いかも知れん。」

 小柳の言葉に、大前は「闇サイトですか。声紋分析して、電話した人間を万一特定しても、黒幕には届かんやろうなあ。」と、大前は言った。

「どうするね、大前君。」「えと・・・おみくじ代、こっち持ちですか?」

「今の黒幕は、紀子君だな。必要経費は、お金持ちのオーナーの判断じゃないのか?」

「すんません。しかし、『大凶』の確率って低いですよね。それにどこに参拝に行けば引けますかね?」

「まあ、宝探し、だな。」「宝探し、面白そうね。皆退屈しないお正月迎えましょ。皆、社務所や寺務所で領収書貰って来るように、経費は出すわよ。大凶の分じゃ無く、引き直しがないなら、大した金額じゃない。そこがミソね。」と、入って来た三美は言った。

 午後2時。大阪府警。テロ対策室。

「何か分かったか、真壁。」と小柳警視正が尋ねると、「はい。」と応えて、真壁は顔を上げた。

「おみくじの縁起の良い順番ですが、2種類あります。『大吉、中吉 、小吉 、吉、末吉 、凶 、大凶』の7段階のものと、『大吉、中吉、小吉、吉、半吉、末吉、末小吉、凶、小凶、半凶、末凶、大凶』の12段階のものです。東京の浅草寺では、大凶は『あまりにショックを与えるため』20年以上前に無くなったそうです。2008年の資料では。総体的に見ると、千分の1程度だと考えるのが妥当だろう、と書いています。入れていないところも多いそうです。」

「ふうん。そんなものか。私と警視正が不倫する確率の方が高いです。」「悪質な冗談は止めてくれ。やはり、集めるとなると大変だな。」「いえ。簡単です。」「簡単?」

「どうやって、犯人は唯一無二の、偶然の産物の鑑定をするんでしょうか?」

 午後4時。大阪市北区。大阪天満宮。

 京都の北野天満宮もいいが、ここもいい、と言う人も少なく無い。日本一長いと言われる天神橋筋商店街が近くにあるからかも知れない。

 真美と今日子がおみくじを引く。「え?大吉。何でこんな時に。今日子は?」と真美が尋ねると、目の前で今日子がおみくじを引いた。「アカン。中吉や。」

 2人は、順番を後の参拝客に譲り、少し離れた所で、見守った。時間は1時間にしろとコマンダーに言われている。

 待ってみたが、大凶を引いたらしき参拝客はいなかった。もし、引いたら、表情で分かる。普通、『大凶』以外の『凶』は、境内にある木に括り付けて帰る。『大凶』の場合、始末に困るから、連れに相談するか、寺務所の人か坊さんに相談する。

 溜息をついて、2人は歩き出した。東京で火付け犯が流行っていると聞いて、晴れ着は着てこなかった。それは、大いに役だった。

 2人が路地を曲がった所で、尾行男が追いついた。2人で締め上げ、今日子は長波ホイッスルを吹いた。

 長波ホイッスルとは、EITOが開発した、犬笛のようなホイッスルで、作戦終了の合図に使うことが多い。

 午後4時。大阪市北区。伏見稲荷神社。

 こちらも、本家の京都伏見稲荷大社が有名だが、実は、阪急梅田本店にある。知られざるスポットだ。伏見稲荷大社の御分霊だが、やって来た祐子と悦子は、おみくじ引けないから、がっかりして帰った。

 阪急前の歩道橋まで出た2人は、尾行男を締め上げ、長波ホイッスルを吹いた。

 午後4時。大阪市生野区。伏見稲荷大明神。

 赤い鳥居が沢山並んでいるのを見たことがある美智子が、あゆみを案内してきたが、おみくじ引けなかった気がして引き返した。途端に男とぶつかった。

 伸びている男を見ながら、美智子は長波ホイッスルを吹いた。

 午後4時。堺市。大鳥大社。

 大鳥大社は、大阪府堺市西区鳳北町にある神社。和泉国大鳥郡の式内社で、和泉国一宮。正式には大鳥神社である。旧社格は官幣大社で、現在は神社本庁の別表神社。 全国の大鳥神社および大鳥信仰の総本社とされる。

 ぎんと稽古はお参りの後、おみくじを引いたが、「大吉」と「小吉」だった。だが、ぎんは「やあ、大凶やわ。どないしょう?」と叫んだ。

 急いで近寄ってきた人物がいた。何やら呟いて、ぎんからおみくじを奪おうとした。

 佐々ヤンこと、佐々一郎がやって来て、男に言った。「スリの現行犯で逮捕する。」

 駆けつけた、警備員に警察手帳を見せ、佐々ヤンは「スリの常習犯でね。やっと、捕まえた。」

 警備員達は、敬礼をした。

 午後4時。大阪市住吉区。住吉大社。

 全国にある住吉神社の総本社である。本殿4棟は国宝に指定されている。 山口県下関市の住吉神社、福岡県福岡市の住吉神社ともに「三大住吉」の1つに数えられる。

 阪堺線「住吉鳥居前駅」から徒歩すぐなので、阪堺線でやって来た。阪堺線は長い間第三セクターの会社だったが、今は南海電鉄の子会社である。

 いずみと弥生は、『太鼓橋』を渡ってお参りをした。社務所でおみくじを引くと、やはり、『中吉』と『吉』」だった。大吉はなかなか出ないと言われるが、大凶はもっと出ない。何故こんなことするのか?と来る道でも2人で話していた。

 人も多いし離れて見守るのも難しいので、いずみは、そっと入れ替えたおみくじを空に掲げて、「やだあ。大凶だわ、ダイキョウ。今年一年どうしよう?」と大きな声で言った。

 隣にいたカップルの1人が「そこに木があるでしょ?折りたたんでから結びつけるのよ。見本が一杯あるでしょ?」と言った。

 いずみが「ありがとう。でも、それって『凶』の時のルールじゃなかった?『大凶』でもいいのかしら?」と言うと、どこからか現れた男が「買い取ってあげましょうか?」と申し出た。

 警備員の格好をした大前が言った。「ちょっと、話を聞かせて貰いますか?」

 午後4時。大阪市浪速区。今宮戎神社。

 大阪七福神の恵比寿を祀る。商売繁盛の神様「えべっさん」として知られ、毎年1月9日から11日にかけて十日戎が開催される。地元では単に「戎神社」と言えば当社のことを指す。

 その『えべっさん』が近い為、初詣を兼ねて戎祭にお参りをする人も多いが、三が日には閉業という訳では無い。

 お参りを済ませた、真子、みゆきだったが、帰り際寄った電気店の近くで声をかけられた。「おみくじ、引きはりました?」みゆきは、にっこり笑って足払いをかけた。

 真子は、すかさすヘッドロックをかけて、落した。

 午後4時。大阪市北区曽根崎。露天神社(つゆのてんじんじゃ)

 通称『お初天神』。お初天神前商店街は、言わずもがなこの神社あっての界隈である。

 お初とは、身分差の悲恋を描いた、人形浄瑠璃『曾根崎心中』から、ヒロインの名前の名前である。ぎんと美智子は、お参りの後、『大凶』の話で盛り上がっていた。

「ねえちゃん達、『大凶』のお札持ってんの?譲ってくれへん?」と、いかにも不良少女といった感じの少女が近寄ってきた。

 側を通った警察官に、「おまわりさん、こいつスリです。現行犯ですよね。」とぎんは言った。

 午後6時。EITO大阪支部。司令室。

「Chot GPTで『知恵』を授けられたらしい。大凶で騒ぐ者がいたら奪え、と。府内の各神社に問い合わせると、どこも参拝客を見張る不審な若者がいたらしい。大抵の人間は、君たちと違い、所謂『そっ閉じ』で済ませるらしい。結局、偽『大凶』おみくじは不要だった。」

「そっとじって、何ですか?警視正。」「チーフ。『見イへんかったことにして黙る』ことです。」と、ヘレンが横から言った。

「真壁から教わったのね、奥さんに言いつけてやる。」と、入って来た一美が言った。

「一美ネエ、警視正の奥さん、知ってるの?」と総子が興味津々で尋ねた。「今、東京の事件で忙しい。」

「チーフ。まだ話の途中なんだが。」「あ。すんません。それで?」

「あの、府警への電話の件は『いたずら』だった。だが、あの後、もう1本電話があった。どうやら、タレコミの電話らしい。ヘレン君。再生してくれ。」

[ダイキョウ・・・・・・誘拐]

 プツンと音声が途切れた。

「前の件があるから、関連付けて『おみくじ事件』かと思ったが、音声分析の結果。前とは違う人物ということが判明している。しかし、断片的な手掛かりじゃなあ。大前君も同じ意見だろう。あ、ところで大前君は?」

「連行した後、近鉄百貨店で買い物してくるって、言ってました。いたずららしい案件やから、って。」「新婚になると、緩いな。」

 小柳のボヤいていると、入って来たばかりの用賀が言った。

「警視正。今のダイキョウって、まさかの大教大じゃないですよね。」と、用賀が言った。

「そうか。音声、途切れているもんね。アンタの出身大学だよね、自衛隊入る前の。」と、二美が言った。

 総子は不思議な顔をしたが、「ひょっとしたら、用賀さん、大阪教育大学で何かイベントあるん?」と尋ねた。

「学校のイベントじゃないけど、明日同窓会なんだ。」用賀はすんなり応えた。

 1月2日。午後1時。大阪府柏原市(かしわらし)。大阪教育大学。柏原キャンパス。

 大阪府柏原市に本部を置く日本の国立大学。1874年創立、1949年大学設置。大学の略称は大教(だいきょう)、大教大(だいきょうだい)、大阪教育大(おおさかきょういくだい)と3種類ある。また、天王寺にもキャンパスがある。

 図書館まで歩いてきた、EITOエンジェルズの総子達は、大した武装もしていない、『誘拐犯人』を確認して、30分後には、制圧した。

 EITOボーイズの格好でなく、敢えて普段着でついてきた用賀が、リーダー格に尋ねた。

「まだ恨んでいたのか、大学を。岡迫。もう過去のことなんだ。忘れろ。無理か。わざわざ総長を誘拐して責任取らせる積もりだったのか。当時の学長だった総長に。止めようとした向田もお前がやったんだな。俺達も、忘れていない。だから、誘拐なんかしなくてもいつか問いただす積もりだったんだ。どうなんですか、総長。」

 用賀の剣幕に、「君の、いや、岡迫君の言う通りだ。当時の私は保身に走りすぎた。クラス内のイジメはあったんだ。皆に言い含めて無かったことにした。そして、岡迫君は退学した。ずっと、モヤモヤしていた気持ちはよく分かった。就任予定だった総長は辞任するよ。こじつけの理由でなくてね。」

 午後4時半。EITO大阪支部。会議室。

「全くの盲点だった。卒業生の用賀君がいなかったら、解決出来なかったよ。大学の呼び名は、在校生卒業生関係者父兄によって違うんだね。その頃の『飛び降り事件』は、故人のメモしかなくて、警察も自殺として処理してしまった。他の大学の部活の麻薬事件のことが大きくて、世間も気に留めない状態だったかも知れない。チーフが録音したデータは、動かぬ証拠となった。無罪にはならないよ。隠滅していたんだからね。ご苦労様。それと・・・。」大前が、小柳警視正の言葉を引き取った。

「それと、EITO東京本部の隊員が誘拐された。今回はまだ応援要請は来ていない。勝手に行こうとするなよ、総子。」と、大前は総子の頭を撫でた。

「あ。そう言えば、一美ネエ、警視正の奥さん、知ってるの?」と、総子は無邪気に尋ねた。

「あら。総子は年中会ってるわよ、私達に顔の似た、誰かさんだけど。」と、二美は、ニッと笑った。

 ディスプレイから、昏倒する音が聞こえた。

 皆、そろそろと帰り支度を始めた。

 午後6時。総子のマンション。

「勿論、知ってましたよ。聞かれなかっただけ。おにぎりも作っておきましたからね。『夜中にお腹が減る』こともあるだろうし。」

 そう言って、知子は帰って行った。南部が振り返ると、全裸の総子がいた。

「お風呂、先にしよか。」と言って、総子は、南部の手を握って浴室に向かいだした。

 南部は逆らわなかった。逆らうと何倍にも返ってくるから恐いのだ。

 ―完―


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