第4話「ストーカー」
風呂上りであとは自由な時間、ゆっくりくつろぐだけだったのが不知火からの着信でそうもいかなくなった。電話を取ろうとすると丁度に着信が切れてしまう。スマホを開くと『ごめんきて』という最初のメッセージから30分が経ち何回か電話が掛かっていた。すぐいく、と返信し急いで家を出る。走ればそれこそ2分にも満たない時間で着ける。
夜はもう回っている既に景色は暗い。階段を駆け下り、夜道を駆ける。
街灯のない夜道には月明かりも差しておらず、一層暗く重く感じさせられる。そのせいか、悲観的なことばかりが頭中を埋め尽くす。それが杞憂であればいいのだが、そう考えている間に不知火のアパートに着いた。
不知火のアパートは内の格安マンションとは違い玄関ドアの材質や建て付けもしっかりしており丈夫そうだった。それにインターホンも付いていて、内と比べると防犯対策は高い。インターホンを鳴らして声を掛ける。
「不知火、俺だ」
ドアノブを回してみたところ強引に開けられた感じはしない。耳を澄ませば、こちらに近付く足音が近付いていた。とりあえず、無事らしい。
「・・・湊、くん?」
すると不知火は鍵を開けてくれた。不知火の姿を見て胸を撫で下ろす。襲われているところを助けるみたいな展開にならずに済んで本当に良かった。フィクションのように一般人が闘うなんて到底無理な話だからな。当たり前だが怖い。何をするか分からない得体のしれない者に怖がるのは人間としては正常な感覚だろう。それに俺は勇猛でも果敢でもない。もしストーカー犯と対面したらどんな見た目であろうとビビるだろう。
「遅くなって悪い。大丈夫か?」
「うん」
怯えていて全然大丈夫そうには見えないが、不知火の性格というかコミュ力だとそんな返答が来るとは思っていた。
「・・・」
「・・・」
お互いに無言で固まる。いや、分かっている。どうすべきなのかというかこの先の流れは俺が不知火の家に入って話を聞く。重要なのはそれをどっちから言い出すのかである。俺は不知火から既定路線の了承を待っているのだが、言葉が見つからないのかなんて言えばいいのか迷っているのかは知らないが彼女は固まっている。
「その、おじゃましていい?」
「大丈夫、入って」
玄関から覗いて感じていたが、不知火のアパートは割と広い。不知火の後を追ってリビングへと入る。リビングはテレビとテーブルとソファ、大きな窓にカーテンといったオーソドックスな様式だった。お互いにソファに座る。もちろん、距離は離しているというか一般的なものだ。
「それでどうしたんだ?」
メッセージのあの文と着信数、ただ事ではないかと思い焦ったが現状は特に危険は感じない。まあ、そもそも身に危険が及んだのなら俺じゃなく警察を真っ先に呼ぶだろう。
「えっと、その、視線?気配?みたいなのを感じて・・・」
なんとも曖昧なものだった。無下にはできないが、一度外に行って見回りでもした方がいいだのろうか。
『不審者と幽霊どっちの方が怖いか?』
こんな質問されたことはないが誰もが一度は訊いたことあるだろう。真面目に考えたことなど無かったが、今まさにその渦中にいる。よく幽霊なんかよりも人間の方がよっぽど恐ろしい等と耳にするが、俺の答えは後者である。俺は夜道を一人で歩くのは無理なタイプなんだ。
「不審者を見たとかではないんだな」
「うん」
もう頭打ちだ。特にできることは思いつかない。こと後は少し傍にいてやって、なにかあったらまた呼んでくれとでも言って帰ることになるだろう。
この9日間、不審者らしい人間は一人もおらずその気配すらしなかった。不知火の勘違いや思い込みの線だって俺はあると思っている。大切な人を亡くし精神が不安的な状態だから仕方がないのではあるが、もとよりそれは俺に改善できるものでもない。
「その、ごめんなさい。来てもらっちゃって」
「謝らなくていいよ。とにかく無事でよかった。あと少しいてなにもなかったら俺は帰るよ。またなにかあったら呼んでくれ」
言いにくいが故にいつ話を切り出すか迷っていたが、思わぬ助け船が入る。社交辞令で最後はああ言ったが、それこそ本当にストーカー犯が直接来るといった事態じゃないと不知火の遠慮がちな性格ではもう呼び出されはしない。もし、そうした場合が起きたら俺ではなく警察を呼ばなければいけない案件だ。
「うん、今日は来てくれてありがとう」
今は10時か。あと1時間くらいで出よう。若い男女、しかも高校生が深夜に一つ屋根の下、二人だけの状況は世間的にあまりよろしくない。
「えっと、何か飲み物を用意してくるね」
「ああ、ありがとう」
「希望とかある?」
「暖かいもので頼む」
部屋の雰囲気というか空気感がなんともいえない独特の感じがする。ストーカー犯が近くに居るもしくは来るかもしれないという緊迫感と仲が良いわけでもない女子の家に滞在しているという弛緩、二つが絶妙な均衡を保ち齟齬を感じさせる。
しばらくして台所から不知火が2つのカップを持って戻る。
「珈琲、苦手だったりする?」
「いや、大丈夫だ」
無地のカップから白い湯気が揺蕩う。テーブルに置かれたコーヒーから香りがじんわりと身体に沁み込んでいく。お湯を沸かせて入れるだけにしては、長いと思っていたが明らかにインスタントとや市販の缶のものとは香りが違う・・・気がする。あくまで素人目線によるものだが。もしかして、豆を挽くところから初めているのだろうか。
「お砂糖入れた方がいい?」
こういう本格的なものには入れないで、コーヒー元来の味わい深さとかを楽しむものなのだろうがブラックは苦手である。通ぶることもなく大人しく砂糖を入れた。
「いただきます」
不知火が窺う中、コーヒーを口に含む。不知火があまりにも気にかけているので頭の中は食レポでいっぱいで味を気にする余裕はない。流石に美味しいだけで済ますわけにはいかない。問題はこれがコーヒーだということだ。他の食べ物であれば中はサクサクとかモチモチしているとか思いつく。必死に思考を巡らせる。ああ、そういえばよくインスタントや缶にはコクとかまろやかとか記してある。後は俺の感想が的外れではないことを祈るのみだ。
「・・・おいしい」
ぽつりとそんな感想が思わず漏れ出た。普段口にしているものとは別格過ぎて口内に含んだ瞬間に考えていた内容が吹っ飛んだ。
慌てて何か付け加えようとする前に不知火が食い気味に問いかけられる。
「ほんと?」
「ああ、凄く美味しかった」
温度差があってぎこちない返答になった。まさか、美味しいと言っただけでそこまで喜ぶとは思ってなかった。
「コーヒー好きなのか?」
会話が途切れないように質問する。お互い会話に詰まったら、沈黙を通しそれはもう気まずい空気を作ってしまう。
「私はそれなり、かな」
なんとも曖昧な回答だった。
「お父さんが好きだったから、よく淹れてたの。喜んで貰いたくて沢山、頑張ったんだ」
嘘だろ、沈黙より気まずい空気になった。話に亡くなった人が出て、何て言えばいいのかてんで思いつかない。そんな不知火は少し寂しそうな瞳をしているだけなのが意外だった。もっと悲しい表情をすると思っていた。もう二度と会えない故人に想いを馳せ嘆くのかと。
「・・・1月も淹れてなかったから、上手にできるか心配だったけど、よかったぁ」
不知火の父親はきっと優しい良いお父さんだったのだろう。一人で娘を育てて、きっと仕事で手いっぱいで育児のこともあって趣味や自分の時間を回す余裕はなかった筈だ。それでも不知火を、夜霧を大切にしていて、彼女もそんな父に何かを返して上げたかったのだと勝手だがそんな風に思えた。
部屋はしんみりとした空気になっていた。そうなった理由は俺なのだろう。でも居心地はそう悪くはなかった。
自分の表情が鏡に映さなくても伝わるくらいには浮かない顔をしている。
俺の父さんも優しい良い父親だった。人一倍苦労をしていて、それでも明るい姿を子供に見せて大切にしてくれる。そんな人だった。
「み、辻川君は一人で暮らしていて寂しくないの?」
「・・・5年もすれば”慣れる”よ」
「・・・5年?」
今のは失態だった。そりゃ高校入学から一人暮らしになったと思うのが普通だろう。口を閉ざして、これ以上追及するなと無言の警告を送る。不知火も何かを察してそれ以上は、訊くことを止めた。
「私は、慣れそうにないかな。独りは辛くて苦しい」
それは、俺も同じなのだろう。独りは辛い。苦しい。耐えられない。だから、誰かといる嬉しさを喜びを幸せを忘れて、そういう風になるように努めて痛みを苦しみを和らげる。そうしてやっと我慢できるようになる。
それが、日常だと慣れる。
「辻川君は一人でいるのが好きなんだと思ってた」
一人の時間が好むのと、独りになることを好むはイコールじゃない。結局、誰かがいるから一人であることに喜びを見出せる。
「そろそろ帰るよ」
きっと答えを出してしまえば、取り返しが付かなくなる。不知火と二人でいるのは、嫌いじゃない。だから、止めてほしい。封じていたものを思い出してしまうから、日常に戻るのがとても大変で辛いから。
「あ、うん。・・・遅くまで居てくれてありがとう」
もう不知火とここまで密接に関わることは、この先きっと訪れない。談笑を交えることもない。日常に戻れば、その日の気まぐれで挨拶する程度の仲で終わる。席が隣でなくなればその関係も終わる。互いに独りになる。
だってそうだろ。俺たちは友人でも恋人でもない。ただの他人なのだから。何か"理由"がなければ関わることはありえない。
でも、何ら問題はないんだ。俺は独りで生きていける。不知火はいずれそう遠くないうちに友人や彼氏といった間柄を持つだろう。
玄関まで着いたところで不知火で再度お礼の言葉を口にする。
「ほんとにありがとう」
「ああ」
帰ると伝えてから、不知火の顔を見ることはしなかった。どんな表情をしているのか知りたくなかったのだ。悲しそうなのか、寂しそうなのか、それとも不安や安心なのか、それを知ってしまえば不知火夜霧という少女が自分にどんな感情を抱いているのか決定的に明らかになってしまうような気がしたからだ。
「はっ!?」
ナーバスな感傷を吹き飛ばす様に、目の前の現状に驚愕し素っ頓狂な声が漏れる。施錠した扉、ドアノブがガタガタと物凄い勢いで捻られている。無論、施錠している以上開けられはしない。
おいおいおい、マジか。ガチでいた。ぶっちゃけ不知火のイマジナリーだと疑っていたが本当に実在した。
「夜霧!出てきなさい!」
嘘だろ、クソ怖い。なんだよ、出てきなさいって。どういうことなんだ。
勝手に変態系だと思っていた。女子高生をイヤらしい目で見る歪んだ性欲の持ち主なのだと思い違いをしていた。
でも、これは違う。どちらかというと狂人の類に当たる。それに何故か声には怒気が含まれていた。しかも、声から想像するに30代や40代前半じゃない。おそらく50歳前後だ。
「おい!開けろ!」
そんな言葉と共に扉を激しく叩き初めた。はっ、ヤバすぎるだろ。とりあえず警察だ。俺もビビっていて気を遣ってやれなかったが後ろには不知火が居る。後ろに視線を向けると、案の定怯えきった表情をしていた。
ほんの少し自分が情けなくなった。怯える少女を背にただ何もできずにビビっている自分に。下がれ、と合図を送る。しくったな、警察呼べって言うべきだった。あの様子だと頭が混乱して冷静な判断ができない可能性もある。ここは俺が連絡した方が良さそうだ。大丈夫だ、鍵は閉めてある。扉を破って中に入られるなんてことにはならない。
ここで警察を呼んでも電話の音を訊いて逃げられる可能性の方が高い。こっちは声から年齢の大まかな予想しかついてない。だからといって俺が玄関から離れるのはリスクがある。いや、相手が大きな音を立てている以上、訊かれる心配はないか。そもそも隣の住人はこの異常事態に気付いてないのか。くっそ、上下左右の階の連中なにしてんだよ。
ただ、このまま待つのも危ない。何かないのか。理想は俺が今ここでこの男の声以外の特徴を掴んでから通報すること。次点でとにかく警察を呼んで安全を確保すること。でもそれだと手掛かりは掴めない可能性がある。もし、近隣の住民が不在だったら証言は得られない。また先送りの対応しかしてもらえない可能性がある。扉に新しいキズが付いていればいいのだが、それは今知りようがない。それにそんな希望的観測よりももっと確実なものが欲しい。
「・・・!」
どうやら、閃きというのは本当に唐突に降ってくるものらしい。
まずは深呼吸。緊張で高鳴る心臓を抑える。次にドアチェーンを引っ張り耐久性を確認する。最後にワンタッチで警察に電話できるように準備する。
ああ、行ける。アドレナリンで冷静な判断が下せていないのかは分からない。それでもこれを策と呼んでしまうほどには自惚れている。
ここはアパートで、相手は怒っていて冷静とは正反対。再度確信する。穴がないほど完璧だ。
ガチャリと敢えて大きく音を立てて、施錠を解いた。俺の策は単に相手に人違いだと思わせること。意中の人物だと思って開いたら全くの別人が出てくる。誰だって訪ねる家を間違えたと思うだろう。しかもここはアパートで、怒りで我を忘れている自分。俺を見た瞬間、茹で上がった頭が冷水を被るが如く頭を冷やすことに違いない。
予想通り、扉が勢いよく開かれチェーンロックが軋みを上げ───「い゛っだあ」
は、鼻に当たった。近すぎた、早すぎた。
「男?え、え、男?」
それはもう狼狽えた声が聞こえる。ただ涙で視界がぼやけてなにも見えない。
「あの、あの大変申し訳ありませんでした。お騒がせしました」
早口でそう言って男はジタバタと足音を立てて、数十秒後には気配がなくなった。その間、俺は痛みに悶えていた。
「やらかした」
今更、警察を呼ぶには遅くただただ取り逃した。これなら大人しく警察を呼んでワンチャンに掛ける方が良かっただろう。一連の流れ全て意味が無かった。謎の自信に満ち溢れていただけに恥ずかしい。
―1―
時計の針は11時を越し、普段なら瞼が重くなる時間だった。あの後、不知火に声を掛けリビングへと再び腰を落としていた。当然といえば当然なのだが不知火は不安そうな表情をしている。
「ごめんなさい、私何もできなくて・・・」
思い詰める不知火を見て、最後のあの件を思い出して申し訳ない気持ちが込み上げた。
「その、大きな音したけど辻川くん、大丈夫だった?」
「怪我とかはないから大丈夫だ」
心の傷は増えたが、あれは他傷というよりも自傷であった。
「それより幾つか分かったことがあるんだ」
不知火に報告すると共に情報を整理しないといけない。警察への通報は、それが終えてからでもいいだろう。あくまで予想だがあの男は今日中には現れることはない。
「まず、一つ目なんだが不知火をストーカーしている男、声からして多分50歳前後くらいだと思う」
「え、?」
不知火が困惑の色を見せる。その理由は恐らく俺と同じだろう。ニュースで知りえたストーカーのイメージに過ぎないが、主にアイドルといったタイプの芸能人がよく被害を受けていて、その理由の大半が恋愛感情を拗らせた結果というのが俺のイメージだ。一般人でもそういう被害に合いはする。だがその場合、芸能人と違って一般人は何かしらの直接的な接点があるはずだ。そうでなければ、相手に好意を抱いて恋愛感情を持つなんてことにはならない。
「不知火は50歳前後くらいの男と最近何か接点を持ったことかあったか?」
「ううん、ない」
「じゃあここ数年で、どんなに小さなことでもいいから何か思い当たることは?」
「私、田舎から引っ越しして今の高校に通っているから、ないと思う」
何とか当たりを付けたかったのだが、不知火には思い当たる節は全くないらしい。
「アルバイトとかしてる?」
「してない」
他に何かあるか?人と交流を持つ場所、それこそ学校だが相手は50歳前後だ。教師とか用務員が思いつく。それなら、すぐに片が付くが釈然としない。なら、接点はなく一目惚れということになるのだろうか。片思い、恋愛感情、好意、頭でその言葉を反芻するが、漠然とした違和感が付きまとう。それに、やはり50歳というのはおかしい。あくまでイメージに過ぎないが大体は20代から40代前半だろう。
そうか、それ以前にストーカーというイメージがあの男には合わない。あんな大胆な接触もそうだが、奴は激怒していた。不知火に対する愛を感じない。例え、それが歪んでいて憎しみや怒りに変わり果てていたとしても好意という分類に当たるものを、その残滓を何ら感じなかった。だったら、行為それこそはストーカーだとしても俺たちがよく想像するものとは別なのかもしれない。
「誰かにキレられるようなことをした覚えってあるか?」
配慮のない物言いだと気づいたのは後の祭りだった。
「・・・ない、と思う」
一瞬、変な間があった。キレられるようなことなんて大体は自分の失態なのだから隠したいと思うのは仕方がない。それに、それが直接関係あることとも限らない。きっと、不知火にも何か知られたくないことがあるのだろう。俺がさっき黙って隠したように。知人に知られたくないことでも危険がある以上は警察には話せるだろう。
「そうか。とにかく警察には通報した方がいい」
「今から?」
「いや、いつでもいいと思うけど」
正直、今は勘弁してほしい。いくら正当な理由があったとしても、俺が深夜にいるのはマズい気がする。それに直ぐに通報しなかったことも含めて咎められそうである。あと、明日に事情聴取をされて休日が奪われるというのもある。
「そっか」
話はそこで終わった。後は後日、不知火が警察に連絡するのだろう。
不知火がとても不安そうだった。掛けてやる言葉は残念ながら思いつかない。彼女からすれば、誰かも分からない男に訳も分からず家まで押しかけて来て怒鳴られて、なにをしてくるか分からない。不安を感じるのも仕方がないことだろう。
俺は緊張も和らいできて、流石に眠くなってきた。不知火がとても不安そうなのが刺さるが、そろそろ帰らないといけない。というか帰りたい。
「俺は帰るよ。多分だけど、今日中には来ないと思う」
奴は不知火の部屋を間違えたと思い、また明日から調べようとするはずだ。少なくとも今日中は安全だ。そう考えればあれはファインプレーだったのかもしれない。・・・それはないな。
「えっ、・・・うん」
「明日、すぐにでも警察に連絡した方がいい」
そういってリビングから出ようとした。
足を止めた。上着の裾から僅かな抵抗を感じたから。それはとても弱々しく、ささやかで、そして震えていた。
「不知火?」
「・・・ダメ、いかないで」
すぐそばにいなければ聞こえないほど、小さい声だった。
不知火の方を向けば、彼女は俯いていた。
「ご、ごめん。ごめんなさい」
そういう彼女の瞳はどこか濡れていて、不安に満ちている。目をそらして、気が付かなったフリをすればこのまま帰れるのだろう。遠慮がちな彼女にとってあれは精一杯のSOSなのだ。勇気を出して頑張って、そのために色々なことを我慢して捻りだした想いを、俺のくだらない”感情”で無下にするわけにはいかない。不知火がそうした様に、それに俺も応えなければいけない。
「不知火が安心できるまで、傍にいる。だから、心配しなくていい」
本当に最近の俺はおかしい。いつになったら日常に戻ることになるのだろうか。少なくとも今日は家に帰れなそうだ。
難アリぼっち二人はとてもめんどくさい @YutoK
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