第6話 記憶のレテ
「それで、この可愛いお人形は、いったいどんな魔道具なんですか?」
アリスは小さな木彫りの猪を、人差し指の先で優しくつつきながら、まじまじと眺めている。
テオは、ベッドで横になっているカノンの頭を、ゆっくり撫でて
「その魔道具の名前は、レテ」
とアリスに答えた。
「れて? 」
「そう、レテは魔法使いの記憶を入れておく為の魔道具よ」
「記憶を入れる?! すごい! 魔法みたいですね! 」
「ふふ、アリス、魔法なのよ」
「そ、そうでした……! 」
そんな2人のやり取りをみて
カノンも頬を柔らかくして、口角を緩めた。
◆
「このレテを使って出来ることは2つ、1つは記録された思い出を、記憶の持ち主の視点から、実体験のように見ること。 2つ目は、記憶の中に登場する魔法の一部を、一時的に使うことよ」
テオはアリスとカノンに向けて、説明を始めた。
アリスは興味深々、前のめりに「わぁあ~」「ふむふむ」とリアクションを取りながら、カノンは寝ながら落ち着いてはいるが、さすが姉妹と言うべきか、どこかアリスに似た目をして楽しそうだ。
「つまり、記憶の入ったレテに触れている間、普段自分が使えない種類の魔法でも、使えるようになるの」
「へぇ~! じゃあ、私にも?! 」
テオの言葉を聞いて、懐いた動物のように目を輝かせるアリス。
「う~ん、絶対では無いけど、もしも魔法の素質があれば、アリスにも使えるかもしれないわよ? 」
「やってみたい!! 」
「でも出来たとして、魔法の基礎を学ばないと、普通の制御は出来ないんだけどね」
テオはそれから、「もちろんカノンも、出来るかもしれないわよ」
と付け加えて、それにカノンも嬉しそうに笑った。
「ねぇ、テオさん! どうやって使うの? 」
「そうね、レテの記憶にもよるんだけど、掴んだレテの中に意識を向けて、反対の手までエネルギーを吸い上げる感じかしら? 」
「こ、こうかな? 」
アリスは目を閉じて、うんうんとうなり声をあげている。
「ふふ、見習いの魔法使いにさえ、いくら記憶の補助があっても、そんなに簡単に出来るものじゃないわ。 アリスはなおさらね」
「う~ん、う~ん。 テオさん、この魔法はお水の魔法って言ってたよね? 」
「そうよ、まだ全部の記憶を覗いた訳じゃないけれどね」
「それって、すごく濃い青色の水なのかな? 」
「え? 」
「なんかね、目を閉じていると見えるの、凄く深い色の青が」
「そんなまさか、アリスは魔法を存在すら、今日まで知らなかったんだし―― 」
アリスは小さく「光った…… 」と呟いて
それを聞いたテオは、驚きの表情を浮かべる。
次の瞬間、アリスの右手から、ばしゃっと青い水が放たれた。
「うわ!! 凄い! 出来た!! 」
僅かな、瞬間的な発動だったが、アリスが使ったそれは、確かに魔法だった。
「やったやった! カノン! テオさんも見た! 魔道具、レテ! すんごいんだね!! 」
「お姉ちゃん……! すごい……! 」
「アリス、あなた…… 」
自分の才能に気付く事無く、楽しそうにはしゃぎ、木彫りの猪を高く掲げるアリスだった。
記憶のソラティア ~迷子の魔法の世界紀行~ ひたかのみつ @hitakanomitsu
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