カイ◇サキ◇ナツキ

◇◇カイ◇◇


ナツキちゃんがくれた最後のチャンス。熱で倒れてダメにした俺。



いきなり姉ちゃんが立ち上がった。


「カイ、ちっと、出掛けてくるよ」


サキ姉ちゃん、電話をし始めた。


「おうタケ、約束ドタキャンして悪かったね。ああ、弟は大丈夫。お前、いいやつだな」


そうだ、姉ちゃんにも迷惑かけた。タケさんは、彼氏だ。


イブに倒れた俺のせいで、2人の初クリスマスもぶち壊した。


「タケ、お詫びに今から駅ビルでご飯おごるよ。・・それで、手伝ってほしいことあるんだ」


そして俺に笑った。


「カイ、お前のことで必死になってくれる貴重な女の子、姉ちゃんが探してきてやるからね」


サキ姉ちゃんは、母さんにも電話して、俺のスマホを大急ぎで病院に持って来てくれって言った。


そして病室を飛び出した。



◇◇サキ◇◇


カイの姉のサキだ。


カイは、子供の頃から我慢ばっかだった。


食事、遊び、学校行事、心臓が悪かったせいで、何も満足にやれなかった。


小2のとき、一番の仲良しだった男の子とは、病棟で知り合った。けど、その子は亡くなった。


小5のときには、同じ病気の女の子と仲良くなった。その子は完治したとたん、顔を見せなくなった。


中2のとき、恋心を抱いた女子もいた。カイ、その子の恋愛対象ですらないこと知って、ショックを受けた。


明るく振る舞っても、人間関係に臆病になってた。


そんなカイにも高2になって、カイを理解しようとしてくれる女の子が現れた。


ナツキちゃんだ。


カイはナツキちゃんが告白してくれるのに、3ヶ月限定の付き合いを申し出た。


普通なら馬鹿って言うだろう。


私だけは言えないよ。


あいつ、何度も傷付いてきた。完治したはずの心臓病も再発して、高校も一年遅れてる。


生きてたから御の字。そんな風に笑うけど、やっぱり不安だらけなんだ。


卑怯でも、自己防衛してなきゃ、心が持たない。それで言っちゃったんだろうね。


ただ、そんな条件を飲んだ女の子。そこまでカイに愛着がないかと思ってた。



そう思ってたんだけど、嬉しい誤算が起こってた。


12月21日、カイは改めてナツキちゃんに告白するつもりだった。それが、ナンパ男のせいで、いきなり壊れた。


けど、その流れがあったから、私はナツキちゃんに会えた。


2人で駅のホームに立ってた。


ナツキちゃん、カイの手を握って涙浮かべてた。


ナツキちゃんの、あの姿と、あの表情。2人を見て私にやけちゃったよ。


あれで嫌いなら、恐ろしい演技力だよ。



今日は24日。


カイは倒れて、ナツキちゃんとの約束をすっぽかした。


タケと合流して駅ビルに来たけど、もう5時。電話は相変わらず、ナツキちゃんに繋がらない。


約束から、4時間も経ってる。普通なら終わるよね。


けど私は期待してる。


あんなにもカイを想ってくれる女の子、今日中に探し当てたい。せめて連絡取りたい。


それさえできれば、カイが死ぬほど謝って、何とか巻き返せるんじゃないかな。


ナツキちゃんに、4回目の電話をかけた。やっぱり電源が入ってない。


駅ビルも、女の子ひとりを探すには広すぎる。


5時40分時。


少し焦ってきた。タケが探す場所を絞ろうって言った。


不人気スポット。なるほど。


一人になるには、ちょうどいいだろってタケが言う。やっぱ、悲しい人間の行動を知ってるんだよな・・


タケも親身になってくれる。私との縁は姉弟の病気。


タケは姉さんを病気で亡くしている。大学1年のとき、姉弟の話題になったとき話聞いて、他人事と思えずカイのことも教えた。


それから親しくなった。


だからタケ、カイの大変さを理解できて、カイと仲良くしてくれる。


苦しんできたカイの希望、ナツキちゃん探しを手伝ってくれる。


情にあふれて・・。あっと私の、のろけは後回し。


6時を回った。さすがにナツキちゃんも家に帰ったかもしれない。


けど、なんもかんも我慢してきた弟のため、やれることはやったげる。



屋上のひとつ下のフロアに来た。


「あ、ほんとにいた。タケ、すげーな」



ナツキちゃん、目が腫れてる。泣いた跡がある。


けど弟のカイのこと、待っててくれたんだ。


今は口に出せないけど、本当にありがとう。


「ナツキちゃん!」

「え、あ、カイ君のお姉さん」


「ごめん、こんな時間までカイを待っててくれたんだね」

「だけど、カイ君とはもう・・」


「先に言うよ。あいつ、ここに来る気だった。だけどインフルエンザで倒れた」


「た、倒れた・・」


「大丈夫、さっき目を覚まして、薬も効いてるから」


彼女のLIMEに既読が付かない理由、解ってくれた。


なんで3か月限定で付き合おうって言ったか、私から明かした。


「私、嫌われてなかったんだ・・」


「ごめんねナツキちゃん、あいつ、傷つきすぎて、ナツキちゃんの気持ちが嬉しくても、自信が持てなかったんだ」


ナツキちゃん、怒るかも知れないと思ったけど、もう1個暴露した。


カイはナツキちゃんの告白、罰ゲームと関係なくて本気って知ってたこと、言ってしまった。


カイ、ごめんな。これ、言っておかないとダメな気がした。


ナツキちゃん、疲れたんだろう。気だるい声で答えた。


「・・カイ君、私のこと騙してたんですね」


「私からも謝る、ごめん」



「お仕置きです・・」


「ナツキちゃん?」


「カイ君に謝ってもらいます。そして・・来年、クリスマス、やり直します」



「・・・それって」



ちょうどいいタイミングでカイの手元にスマホが届いたみたいだ。カイからメールきた。


『スマホの画面から目を離すな』。それだけ返した。


手がかかるカイのこと、ナツキちゃんにバトンタッチしよ。


「おいタケ、今夜、お前のアパートに泊めろ」

「え、サキ、いいのか・・」


「恥ずかしいから、もう言わない。勝負パンツも履いてないし、嫌なら帰る」


タケにしっかり手を握られた。


タケ、分かってるよな、私、初めてだからな。おい、タケ。


この日を待っててくれたタケに引っ張られ、どんどんナツキちゃんから遠ざかる。


ナツキちゃん、あとは頼んだーーー。弟をたーのーむー。



◇◇ナツキ◇◇


サキお姉さんが彼氏に連行され、嵐のように去っていった。


顔を真っ赤にして・・


カイ君、本当は知ってたんだね。私が本気で告白しようとしたってこと。


騙したね。


後日、お説教。


だけど、私も悪かった。自分の勇気のなさを棚に上げて、勝手に想像ばかりしてた。


彼だって、大きなハンデを抱えてて不安だったんだ。


一回だけでいい。私が頑張らなきゃ。



今、病院に行っても面会はできない。



まあいいや。


電話しよ。


カイ君の中で今日はもう、私が彼女じゃなくなってても関係ない。


3ヶ月限定彼女?


嘘つきカイ君が言い出した約束なんて無効。シカトだよ。


電話でいい。


最初に言わなきゃいけなかったこと。1秒でも早く伝えたい。


ぷる・・電話が繋がった。


『・・あ、ナツキちゃん、今日は、ごめ・・』

「それ、あとでいい」


『え・・』


「今の私達に、一番大事だと思うこと・・。一回だけ言うよ」


顔が熱い。深呼吸した。


弱気になるな。勇気出せ、私。




「あのね、カイ君、大好きだよ」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

気が弱い私は罰ゲームと勘違いした彼と3ヶ月間だけ付き合うことになりました とみっしぇる @kyontama

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ