カイ㊦
ナツキちゃんと植物園に行って、幸せな気分を味わった。
それから1ヶ月。
やっぱり、ナツキちゃんといるのが楽しくなってた。
諦める準備しなきゃいけないのに、好きな気持ちは加速していく。
『最後は、俺がフラれたことにして』。この一言が言い出せない。
親友のヨーコちゃん、カリナちゃんの彼氏とも仲良くなれた。
12月に入って、もう少しだから、よろしくって言った。
そしたらナツキちゃん、言ってくれた。
『・・そのあとも、友達でいてくれたら嬉しいな』
嬉しいのと、彼氏役が終わるのが悲しいのとで、何も言えなかった。
口を開いてたら、教室で涙が出てたと思う。
その日の帰り、ナツキちゃんが手を繋いでくれた。嬉しすぎて、力を入れて握り返してしまった。
慣れてるやつなら、ここで彼女を引き寄せて・・
結局、そのまんま帰った。
期末テストが終わった。最後にクリスマスプレゼントを渡そうと思いついた。
こんな俺のプレゼントを受け取ってもらえるか、心配だった。
そのとき、重要なことに気付いて、自分の部屋でひっくり返った。
床の上にドーンって!
俺とナツキちゃんの3ヶ月目の日って、決めてなかった。
クリスマスイブって、ナツキちゃんの中では付き合ってる日なの、すでに終わった日なの?
でかい音に、サキ姉ちゃんが慌てて部屋に入ってきた。いつも、俺の心配してくれる。
すげえ面倒をかけてきた。モテるのに、俺の世話を優先してくれて、遊べなかったのも知ってる。
今年、大学2年になって、初彼氏ができた。一番喜んでるの俺だ。
姉ちゃんには、ナツキちゃんのこと話してる。一緒に出掛けるくらい、仲良しなのも言ってある。
そしてここで、3ヶ月限定で付き合ってること明かした。
罰ゲームと勘違いしたふりをしたことも白状した。
自分に自信が持てないのと、体の不安のことも言った。
ナツキちゃんに、俺が都合のいい形で付き合ってもらってる。
こんなの許されない。
姉ちゃんに怒られるかと思った。罰ゲームのことだけ、あきれられた。
けど、優しい顔になった。
「誰だって完全じゃない。自信満々の人も、めったにいないでしょ」
「けど、俺なんかじゃ・・」
「体は弱くても、なんかいいって感じたから、カイを告白相手に選ぼうとしてくれたんでしょ」
しっかり気持ちを伝えなさいって、言われた。
そしたら、LIMEで21日に会いたいって伝言が来た。
即答した。
◆
21日。
ナツキちゃんが、わざわざ学校の外で待ち合わせたいって言った。
俺もちょうど良かった。きちんと好きだって言って、プレゼントを渡す。
特別な形ってことは、決別の話かもしれない。苦しいけど、それは俺が言い出したこと。
これ以上は、ナツキちゃんに甘えられない。
5分前に着いたら、もうナツキちゃんがいるのが、遠目に見えた。
変な男2人に絡まれて、腕を掴まれてた。まだ距離はあるけど、体が動いた。
走った。ナツキちゃんを助けなきゃ。間に入ると、ナツキちゃんが泣きながら、俺の後ろに隠れた。
ちょっと全力で走っただけで胸が苦しい。幸い、周りの人が騒ぎだして、男達は逃げた。
片方の男が去り際に、俺の胸をちょんと押した。
それだけで尻もちをついた。
ナツキちゃんを安心させるためにも、立ち上がらなきゃ。
まだ足がカクカクしてる。
ナツキちゃんが膝付いて、俺の腕を引き寄せてくれた。
なんとか立ったけど、よろけた。
結局はナツキちゃんに肩貸してもらって電車に乗った。
電車を降りて、俺が元に戻ったの見て、安心したナツキちゃんの目から涙がこぼれた。
こんなに俺のこと、心配してくれる女の子がいるんだって思うと、胸がいっぱいになった。
最後は、サキ姉ちゃんの車のとこまで来て、見送ってくれた。
悪い男からナツキちゃんを引き離したけど、守られたのは俺の方。
「で、クリスマスプレゼントは渡せたの」
「・・あ」
サキ姉ちゃんに言われて気付いた。ナツキちゃんに見惚れて、きちんと話もできてない。
ダメな俺。
22日の終業式の日。
本当は、ナツキちゃんに会ってもらおうと思ってた。なのに、高熱が出た。
感覚的に風邪だと思う。
最初から定期検診が決まってた日。終業式は休む予定だった。
学校にいなくても、ナツキちゃんには熱出たの知られていない。
だけど会いに行けない。昨日、俺の左胸を押されたこと、すごく気にしてた。
熱と心臓に関連性なくても、気にさせてしまう。
2日後の24日に会いたいってメールが来た。頭がぼ~っとしてて、OKの返事を返すだけで精一杯だった。
絶対に、24日までに体を治す。
23日になっても熱が下がらない。けど、24日にはナツキちゃんに会いたい。解熱剤飲んで、家族には熱も下がったって嘘ついた。
心配してくれる家族には申し訳ない。
24日の朝、体中が痛い。無理に起きた。約束は午後1時。今は午前7時。それから・・あと・・なんだっけ。
喉カラカラ・・
キッチンに行って、サキ姉ちゃんに「水、飲みに・・」
膝ついた。
そこから、記憶がおぼろげだ。
・・・・
最低だ。
今、目が覚めたら午後4時。高熱だったから、病院に担ぎ込まれてた。
過去の病気があったせいで、ベッドが用意された。調べたらインフルエンザ。心臓には問題なかった。
ナツキちゃんとの約束の時間から、3時間も過ぎてる。
身体は朝より楽になってた。なんとか、身体を起こした。
「カイ、どうしたの」
「姉ちゃん・・、俺のスマホ」
ここは病院、スマホは家。俺、こんな大事な日にナツキちゃんとの約束をすっぽかした。
サキ姉ちゃんは、面会禁止なのに、こっそり病室に来てくれてる。
ナツキちゃんの電話番号は覚えてる。サキ姉ちゃんのスマホ借りて、番号打ち込んだ。
けど、『電源が入っていないか、電波が・・』のメッセージ。
終わった。
ナツキちゃんとの3ヶ月、9月24日にスタートした。
ナツキちゃんの中では、昨日の12月23日で終了だったんだ。
きっと、優しいからサービスで今日1日くれたんだ。なのに、俺が行かないで終わらせた。結果、着信拒否みたいなもんかな・・
情けない。
ここから飛び出してナツキちゃんとこ行きたい。
だけど、パジャマにコートを羽織っただけで、病院に運ばれた。履き物はサンダル。
腕には点滴の針も刺さってる。
サキ姉ちゃんが横にいてくれるのに、泣きそうになってる。
ただただ、ナツキちゃんに、申し訳ない。
彼女を傷付けた。
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