Chapter 7 終演
あたりを見回すと、もこもこした金の毛玉が階段を降りていくのが視界の端で捉えられた。
私は二人を遠巻きに見ていた子たちにごめんねと断りを入れつつその間をすり抜け、転ばないように、かつ急げと何度も自分に言い聞かせながら走った。
「ロッティ!」
玄関ホールまでやって来た彼女がこっちを振り向いた。間に合わないかと思ったわ。
ロッティは相変わらず、気の抜けたほほ笑みを浮かべている。
「どうしたの?」
「お礼を言いに来たのよ。私の代わりに真相を解き明かしてくれたじゃない」
「あー、いいよそんなの。簡単なことだったし。ほら、レイラってハイネックのドレスに短いペンダントを合わせていたでしょ。デコルテが開いた服なら似合うけれど、襟が立ち上がった服に短いものを合わせたら、首回りが窮屈な印象になっちゃうじゃん。だからどうしてもペンダントがそれじゃなきゃいけない理由でもあるのかなぁって観察してたの」
「そんなところまで見ていたの? あなたって私立探偵みたいね」
「探偵は嫌だなぁ。かわいくないから」
そんな理由? 彼女らしいと言えばそうだけれど。
「ところで、どうして私を助けてくれたの? あのとき犯人捜しをしてって言われたのは私だったんだから、わざわざあなたが前に出る必要はなかったでしょ?」
「ん、それねー」
ロッティは何て説明すればいいのか考えるふうに目を右上に向けたあと、「見てられなかったんだよね」と言った。
見てられなかったって、私が?
「アメリア、プールサイドで悲鳴が聞こえた瞬間に全力疾走してたじゃん。それこそパンプスを脱ぎ捨ててまで」
そう言うと、ロッティは私の足に目線を投げかけた。
「場所が離れているんだから無視できるのにさぁ、一目散に向かっていったでしょ。あれで思ったの。ああこの子、演技してないほんとの王子様だって。そんな子が犯人捜ししてよって頼まれたら、壊れるくらい頑張っちゃいそうだからね」
「……それで助けてくれたの?」
「そ」
小さなロッティは背伸びをして私を見上げた。背伸びをしたところで私の口元あたりまでの高さにしかならないけれど、それでも十分だと言いたげな顔つきをしていた。
かと思うと、彼女は頬を思いっきり持ち上げた。
「あと私、いっぱい食べる子って好きだから」
「それは誰にも言わないで!」
さっきまでよりボリュームを三段階くらい上げた私の声を聞いて、ロッティは飛び跳ねるように笑った。
彼女の頭のリボンが風に舞うのを見て、それとちょうど同じ形のチョコレートが、あのとき食べたフォンダンショコラに飾られていたことを思い出す。
夢見がちでマイペースなお嬢さんモードになったり、鋭い眼光で相手を追い詰める切れ者モードになったりするこの子って、砂糖やミルクの配合量によって甘くも苦くもなるチョコレートみたいね。
Ribbon chocolate 杏藤京子 @ap-cot
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます