Chapter 6 あなたは私の誇り
「……申し訳ございません」
レイラの長い前髪が、彼女の目元に影を落とした。
「すべてわたくしのしたことでございます。愚かなわたくしに、これ以上グレース様のお側にいさせていただく資格はございません。なんなりと処分を」
「……理由を……聞かせてちょうだい」
レイラはしなやかに背筋を伸ばした。最後ぐらい失礼なく、礼儀正しく。そう決意したのが分かる雰囲気をまとって。
「わたくしは幼少期よりグレース様にお仕えする身でございました。しかしわたくしの要領が悪いために至らぬ点が多々あり、家族には呆れられてばかりいました。また内気な性格のために親しく付き合うような人はおらず、常に孤立しておりました。そんなわたくしに唯一温かく接してくださったのが、グレース様でございます。グレース様は従者であるわたくしを何度も遊びに誘ってくださり……誠に勝手ではございますが……友と呼べる存在だと感じておりました。……しかし」
既にみんなの注目の的は、ロッティからレイラへ移り変わっていた。
「成長するにつれ、わたくしは従者としての責任と仕事の量が増えました。一方でグレース様は素敵なお方ですから、学園にご友人が何人もでき、彼女らと交遊されることが多くなりました。わたくしはグレース様がご友人と過ごした思い出を楽しそうに語られるのを聞きながら……なぜわたくしは彼女らのようになれないのでしょうと、苦悩いたしました……」
一定の高さが保たれていたレイラの声が震えだす。
「そして今日、パーティードレスに着替えた後で思ったのです。グレース様が学園の皆様に不信感を抱けば、またわたくしと親しみ合ってくださるのではないかと……! ……わたくしは自分のアクセサリーボックスからロケットペンダントを持ち出し、ひどいことを書いた紙を入れて……」
言い終わらないうちに、グレースがレイラを抱きしめた。巣立つ子どもを見送る母親がするような、愛に満ちた抱擁だと私は思った。
慌てふためく彼女の背中に腕を回したまま、グレースは言った。
「そのペンダント、私が六歳のときにプレゼントしたものでしょう。あれから相当な年月が経っているのに、まだこんなにも綺麗だなんて。大事に保管していてくれたのね」
彼女は目を見開いて、「覚えていてくださったのですか?」と尋ねた。
「当たり前じゃない。……ねえ」
「……はい」
「私は学園のみんなの素晴らしさを知ってほしくて、あなたに彼女たちのことを話していたのよ。あなたは真面目だから、従者という立場に縛られているのかもしれないけれど……私にとってあなたは昔からの友達だから」
レイラがグレースの肩に顔をうずめた。
ステンドグラスから夕日が差し込む。その柔らかさに影響されてか、誰一人として荒ぶった様子を見せなかった。レイラとグレースの香水が混ざり合って、心が落ち着く甘みのある香りがさりげなく広がった。
ダイヤモンドの海にも負けないくらい神々しい空間で、グレースはレイラをさすり続けた。
……そういえば、ロッティは?
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