Chapter 5 ビターな事実
折りたためられた紙を見て、私は呟いた。
「紙の両端が少し持ち上がっているわね。というより……丸まってる?」
「そう。そうなんだよ、アメリア」
ロッティの眠そうな目が見開かれた。グリーンフローライトの色をした瞳に光が反射して、太陽の日差しがよく当たる新緑の森だわと思ったけれど、瞬きをした直後に彼女の目はいつものとろんとしたものに戻っていた。
彼女は寝起きっぽい、気力のない声で語り始めた。
「紙ならまっすぐ机につくはずでしょ。でもこれは机からちょっと浮くみたいに、べろんってなってたよね。普通に折りたたんだだけじゃあ、あんなふうにならないよ。だから犯人は紙を折った後で、さらに丸めるって作業をしたってこと。さあ、なんでそんなことをしたのかな。ポケットの中に入れるにしても、バッグの中に入れるにしても、わざわざ丸める必要はないじゃない? そこに隠し持つなら折りたたむだけで十分だもん。ってことは、さ」
ロッティはそこで言葉を止めて目を細めた。
「私、思ったの。これは丸い形のもの、あるいは紙を丸めないと入らないようないびつな形のものに入れられていたんじゃないかなーって」
みんなの注目を集めながら話すロッティを私は初めて見た。学校では自分の席で本を読んだり、ぼうっと空や花を眺めていたりしているから、人前が苦手なのかと思っていた。他の子もそうらしく、彼女の話に否定も肯定もしなかった。
そんな状況でロッティはゆっくりと歩き始めた。まるで自分の陣地を広げていくような歩き方で、頭からつま先まで見られていることを気にも留めていなさそうに、彼女は前へ進んでいった。顎を引き、付け根から足を動かし、そして……。
ロッティはレイラがつけているペンダントの、ハートの形の部分に手を伸ばした。
「これ、ロケットペンダントだよね」
……ロケットペンダントって、ケースがついたタイプのことよね。昔、ドレッサーでヘアセットをするのに興味を持ちだした頃、ママに教えてもらったわ。確か中世に誕生したもので、中に写真や紙を入れておけるっていう……。
え、待って。それじゃあ。
立っているだけで精いっぱいな私とは違って、ロッティは余裕そうにしている。
「レイラは怪しまれることなく廊下に出て来れるよね。だって、レイラってグレースの家に仕える家系の子なんでしょ? グレースの妹のイザベラに対しても、侍女みたいに接するのは当たり前だし。だからイザベラが帰ってきたとき、玄関へ彼女を迎えに行きますって言えば……」
ロッティはレイラの耳に唇を近づけ、「堂々とパーティーを抜け出せる」と囁いた。
信じがたいけれど、これまでの情報から導き出される可能性はただ一つ。
「……レイラがあの紙を用意したの……?」
レイラは何も言わず、そしてまったく動かなかった。これならいっそ唾を飛ばして暴言を吐きながら手当たり次第に物を壊された方が、まだ感情が見えるから怖くないわ。
そう考えてしまうほどに、レイラの様相はとても生身の人間のそれとは思えなかった。
そんな彼女と同じように顔から血の気が引いている女の子がいる。
グレースだ。
十秒もかからずに到達できそうな距離を、一歩ごとに踏み出すべきか迷う素振りを見せながら、グレースはレイラに歩み寄った。時間稼ぎをしていたのかもしれない。この騒動についてどう切り出せばいいのか思案するのに、十秒ではあまりにも短すぎるから。
口は開閉できるのに声が出ないらしく、グレースは何度か息を吸い込んだ後、最初の一音にやや詰まりながらもようやく「本当なの?」と発した。
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