第2話 坂の途中の喫茶店
そのあと、三が日が終わってから見た夢は、閉店後の喫茶店に入って店主と会話する、という物語でした。
その街に来たときはたしかに空がよく晴れた昼で、私は幅の広い道路の横断歩道から「今日もよく晴れたな」などとその青い空を見上げていました。
しかし、すぐ次の場面で店を探しているときにはもう日が暮れていて、どこの店も「閉店」・「Closed」になっている。「困った。夕食が食べられない。いまどき、店は夜8時で閉まるのか」と思って歩いていると、なぜか私は坂道の途中にあった喫茶店のなかにいます。床が木で、店内も木調の落ち着いた内装の店で、コーヒー豆が容器に入れて飾ってあります。喫茶店が閉店していることには変わりがなく、店内の照明も落とされているのですが、私はその店の店主と何か話をして、わりと満たされた思いで、入ったのとは別の入り口から出ます。店主と話した話の内容は覚えていません。
出たところの街には、真っ白い蛍光灯の入った大きな看板をはじめとして、飲食店の看板が並んで輝いている。
私は満ち足りた気分になって、目が覚めました。
昨年、夜8時過ぎにある駅に着いて、その駅に立ち食いそば屋があるのは知っていたので「あの店でそばを食って行くか」と思っていたところ、その店は8時で閉店していて食べられなかったことがありました。新型コロナウイルス感染症の流行(「コロナ禍」)前には夜10時ごろでも開いていた店なのに、です。「しようがないな」とほかの店に行ってみてもやはり閉店していて、「いまどきは駅の店が閉まるのがこんなに早いのか!」と驚きました。
たぶん、それの影響だと思います。
「コロナ禍」で店を開ける時間を短くして、人出が戻ったら今度は人手不足、しかも原材料価格高騰でコストを切り詰めざるを得なくなり、それで開店時間を短くしているのでしょう。
あと、働き方改革や「DX」というのが奏功しているのかどうかはわかりませんが、たしかに夜遅くまで働いている人が「コロナ禍」前より減ったのでは、ということは感じます。
路線による違いとか、ダイヤ編成とかいう要素が関係するので一概には言えないと思いますが、少なくとも私のばあい、帰宅のために乗る電車は、午後6時台や7時台が混んでいて、午後10時台になるとかえってすいています。「コロナ禍」前には10時過ぎの電車のほうがずっと混雑していたのに、です。
そういう事情も「駅のお店」の営業時間にも影響しているのかも知れません。
ところで、目が覚めてから考えてみる気づいたのは、その情景が、これまで住んだ街や訪れたことのある街からいろんな要素を組み合わせてできていたということです。
昼に空を見上げていた場所は、年末に訪れた街の交差点に似ていましたし、喫茶店は私が東京に出て来て最初に住んだ街にあった店です。しかも、内装は、その店よりも、十年ほど前によく行っていた店に似ていました。その喫茶店から出た場所は、私の知っている「繁華街というほどではないけど、大きい通りの「裏路地」で、飲食店の集まっている場所」に近かったと思います。
しかも、それぞれの場所がそのまま出て来るのではなく、実在の場所は平坦なのに坂道になっていたりとか、生活道路沿いの店が幹線道路に面していたりとか、アレンジが加えられていました。
目が覚めた後で、「夢のなかの情景ってそういうふうに作られるんだな」という納得感がありました。
(おわり)
今年の初夢についてのエッセイ 清瀬 六朗 @r_kiyose
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ホルン!/清瀬 六朗
★18 エッセイ・ノンフィクション 完結済 15話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます