第6話 電神と【スマートグリッド】






 そろそろ宿に戻らないと、護衛の騎士団の方にもご迷惑が。



 ため池を離れ、バシルさんと私、並んで歩き始めました。




 そして話題は、あのことに。



「‥‥‥‥でも」


 少し。少しだけ彼との距離を詰めてみました。


 核心的な質問。


 あのため池での彼との問答が無ければ、畢竟ひっきょう有耶無耶にされていたであろう、質問。



「伺ってもよろしいかしら?」


「何だ?」


「私は聞き逃さなかったわ。貴方の精霊が、『徴収失敗。本体の寿命をもらう』と」


「あ~。それか」


 彼はボサボサ髪を乱暴に搔き上げて。その時、あの意思のこもった眼光がちらりと見えました。




「‥‥本体、って貴方自身の事でしょう?」


「‥‥まあな」


「何故秘密にするのです?」


「徴収失敗時の、精霊召喚の必要コストなんだ。コレ知ったら周りの連中、俺を気にして魔力徴収へのトライに及び腰になっちまうだろ?」


「‥‥寿命って、どのくらい取られるのでしょうか?」


「わからん。精霊アイツ曰く『一回あたりは大した量ではない』そうだ。‥‥大体俺があと何年生きるかもわからんのに、どのくらい削られたか憶測してもしょうがないだろ。‥‥それこそ無駄だ」


 彼は歯を見せて笑って。男らしい顔立ちに見えました。




「では、これはふたりの秘密、という事に?」


「ああ、そうしてくれ」




 彼を、私は少し誤解していたようです。「無駄」が嫌い。彼は確かにそうです。そしてその為に、人に対してやや礼節を欠いた言動をします。


 ですが、彼自身はもっと純粋で、わが身へのへいを厭わない強さと優しさ、そして、――美学があるようでした。




 ***




 王都へ到着。あの村の青年からは大魔力を徴収し損ねましたが、道々でまあまあの魔力を集める事ができました。



 まだ日も高いです。夜の酒宴までかなり時間もありますし。先に雷魔法を【ディオゲネスの灯】に流す事にしました。





 そこへ。




「お久しぶりです。バシルさん。エオスさん!」


 駆け寄ってきたのはヤリヤさんでした。


「お久しぶりです。ヤリヤさん。今からちょうど【ディオゲネスの灯】に雷魔法を流そうかと」




 すると、ヤリヤさんは少し困った顔をしました。




「いや~~。実は。あの魔道具を動かす方法を見つけたのです」



「何?」


「え? 凄い。ヤリヤさん。雷魔法の魔導士を?」


「いや~。そう言う訳では‥‥」






 塔の広間。この塔の最上階、魔道具設置階の、その一段下の階です。


 そこに、不思議な物が並んでいました。数は10台程でしょうか?


 それは、荷車の車輪を前後に2個つけて、その間の器械に人間が跨ぐように乗る物です。


 何でしょうこれは? 馬? いいえ。馬車の荷台ならともかく、こんな風に車輪を縦につけてしまったら、倒れるではないですか。



「‥‥‥‥これは盛大な無駄だな。どれ、徴収するか」


 バシルさんが【しこしこ電神でんじん】を召喚しようとすると。ヤリヤさんが食い下がります。


「待って下さい。これは無駄などではないのです!」


「オイオイ。こんな物役に立つ筈無かろうが。村に居た頃からオマエは変わり者だったな。前世がどうとか」


 詰め寄られたヤリヤさんが尚も抗弁します。


「これは【自転車】という魔道具です。コレに乗ってペダルを漕ぐと、車輪が回って電気が作れます」


「電気、だと?」

「雷魔法、では無いのですか?」



「‥‥おふたりと旅をする間、私はひたすら山に入り磁力を持つ石を探しました。そして得た磁鉄鉱を元に、発電機を作ったのです。電神でんじん風に言えば、人の無駄な運動を電気に換える器械。私がここに転生する前にいた世界の知識なのです。いずれ王都に流れる河で水力発電ができれば、【ディオゲネスの灯】を恒常的に灯す事も可能で、バシルさんが危険を冒して精霊を召喚しなくて済みます。これは、【しこしこ発電】なのです!」






 え? と、いう事は?




 世界は、人類は救われた?




 私達、以外の方法で?




 ‥‥‥‥つまり。





 私とバシルさんは顔を見合わせます。






「「私達の旅が、『無駄』だった、って事?」」





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【しこしこ電神】で世界を救え! 私達が奏でる! 異世界スマートグリッド!! いぬぅと※本作読んで作者への性癖認定禁止 @inu-to

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