【ショートストーリー】鏡の街の覚醒、心の結界を砕く時

藍埜佑(あいのたすく)

【ショートストーリー】鏡の街の覚醒、心の結界を砕く時

 かつて、「鏡の街」と呼ばれる小さな村がありました。

 家々はすべて鏡でできており、村人たちは他人の心が映し出されるその鏡を媒介に平和に暮らしていました。この「鏡の街」では誰も嘘がつけなかったからです。

 しかし、その平穏を乱す伝説が一つだけ存在していたのです。

 それは「鏡に映らぬ者」が現れた日、村は崩れ、心の繋がりは断ち切られるというものでした。

 村の小さな図書館に勤めるカイは、その伝説にとりつかれた青年でした。

 彼は毎日、伝説の手がかりを探して長い時間を過ごしました。

 ある日、カイは図書館の最も古い本の隅に挟まっていた、ちぎれかけたページを見つけます。

 そのページには不可解な図と文字が記されていたのです。

 その夜、カイの夢に一人の老人が現れました。

 老人は言いました。

「真実は常にあなたの目の前にある」と。

 カイは夢から覚めると、その言葉を頭でめぐらせながら図書館へと急ぎました。

 鏡でできた図書館の中で、彼は自分自身と向き合うことになります。

 日々、彼は発見した図と文字を解読しようと試みますが、何も進展はありませんでした。

 しかし、ある事件が発生します。

 村の鏡が一つずつ砕け始めたのです。村人たちは恐れ、まるで伝説が現実になったかのように怯えます。

 カイもまた、恐怖に駆られ何かをしなければと追い詰められました。

 伝説が現実になった時、カイはある直感に導かれます。

 彼は図書館の鏡に向かって、自分が見つけたページを掲げました。

 すると、鏡は光を放ち始め、砕けることなく揺らぎます。

 そしてカイの目の前に、夢で見た老人が現れました。そしてその老人は……鏡に映っていませんでした。。

 老人は笑みを浮かべながら語り始めました。

「全ては心の内にあり。鏡に映らぬ者とは、自分自身を見ることを恐れた者のことよ。真実は鏡に隠されてはおらず、お前がこれまで見たくなかったものだ。そして、この村を救うのは、他でもないお前自身だ」と。

 カイが見つけたページは、実は鏡に映らないものを映す魔法の鏡であり、カイ自身が自らの心に立ち向かう勇気を持った時にのみ、その力が発揮されるのでした。

 結局のところ、崩れるとされたのは街ではなく、心の結界であり、カイはこれを受け入れました。

 自らの心にある恐怖と矛盾、そしてそれを認めることで、最終的には他人との結びつきをより強固なものとするのです。

 鏡の街は崩れることなく、さらに美しい輝きを放ち始めました。

 カイは伝説が教えていたのは、個々人の心が互いに開かれることの大切さであったと悟ったのです。

 そして、彼の内面に隠されていた真実が、鏡の街を救ったのでした。


(了)

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