第8話

 ――2年後。以前に話したように、俺はとうにFreedomを退会していた。だが、そんな俺の元に、「Freedom利用者から詐欺罪による逮捕者が出た」という噂が飛び込んできた。

 逮捕されたのは、あの前田だった。何でも、あれから「自分の事業との協業を認めるように」Freedom社に強引に迫っていたらしい。一方、他の利用者からは前田の傲慢なやり口に対するクレームが頻発。Freedomの法務部で調査に乗り出したところ、前田は自身が気に入らないユーザーを脅迫し、かつサムズアップ出版から本を出すように持ちかけていたという。だが、同社から出した本が大ヒットすることはなく、前田は最初からFreedomユーザーの作品をタダで利用するつもりだったと判断された。

 これらの結果を踏まえ、Freedom社は前田に対して「詐欺罪及び脅迫罪」の疑いで刑事告発したのだ。

「あのとき手を引いて、正解でしたね」

 今でも付き合いが続いているOさんは、すっかり馴染みとなったカフェでそう言って笑った。OさんはまだFreedomで時折活動をしているため、その後の会員の動きについても詳しい。

 俺の作品と間違えられた佐々木は、あれから前田のやり方に不満をぶちまけた。彼も前田と付き合いがあったが、個人情報の一部を前田に漏らしたらしく、それをきっかけに佐々木は親族まで脅迫された。佐々木はノイローゼ寸前にまで追い込まれたらしい。

 俺に噂を持ち込んだ鈴木は、結局二重スパイの役割を果たしていた。ある意味見事としか言いようのない手腕だが、盛んに前田や彼が結成したサークルの宣伝を重ね、さらに、あちこちで根も葉もない噂話を無責任にばらまいていたこともあり、結局皆からの信用を失った。

「……やっぱり、欲を出しすぎるのは良くないんですね」

 俺は、コーヒーの湯気の中に顔を埋めた。自分が巻き込まれずに済んだ安堵感はあるが、一歩間違えば、俺も佐々木や鈴木と同じような目に遭っていたかもしれなかったのだ。

「人間、身の丈に適した努力の積み重ねこそが、結局は成功に結びつくのかもしれませんよ」

 Oさんはそう言って笑うと、店の名物であるアップルスコーンを一つ、俺の皿に載せてくれた。

 本当に、Oさんの言う通りだ。まずは、Oさんのおごりである眼の前のスコーンを楽しむことにしよう。

「では、遠慮なくいただきます」

 俺は笑顔を浮かべると、Oさんの好意の塊を口一杯に頬張ったのだった――。

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詐欺師~Digital Tattoo2 篠川翠 @K_Maru027

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