第45話 その歌声を私に
「まずは誰が歌う?」
「じゃあ最初は私が歌っちゃう」
「伊藤さんは歌得意なんですか?」
「別に得意ではないけどお風呂で熱唱するくらいには好きかな」
「お風呂で熱唱ね、私も昔はやってたなー」
「ストレス発散にもなるからおすすめだよ」
「ううんっ、それじゃあ歌うね」
紗理奈は最近流行りの男性アイドルグループ曲を歌った。カラオケで歌うにふさわしい人気と盛り上がりを兼ね備えたいい曲だった。
「いえーい、いい盛り上がりだったね」
「お上手ですね」
「時雨ちゃんは嬉しいこと言ってくれるね」
「次は私か時雨のどっちが歌う?」
「それは西園寺さんが決めてください」
「そう? じゃあ先に私が歌おうかな。最後ってなんかプレッシャー感じるし」
「それではそうしましょう」
「久しぶりの結月の歌声だー!」
私が歌うのは昔から根強い人気を持つ曲。
きっと時雨も聞いたことがあるはず。
私が歌う姿を時雨は少しだけ口を開いたまま見ている。
自分の口が開いているのにも気づかないほど集中して聞いてくれているのはすごく嬉しい。
あと、そういうところが子供っぽくてとても可愛い。
「結月はやっぱり歌も上手いね」
「ほんとに何でもできちゃいますね」
「2人ともありがとー!」
点数は98点。我ながらかなり良かったと思う。
でと人の前……特に時雨の前で歌うのはちょっと恥ずかしかった。
紗理奈よりも一緒にいた期間が短いのも理由の1つだと思うけど、それ以上に時雨をパートナーとして意識しているからだろう。
「ふふ、次はいよいよ時雨ちゃんの番だね」
「……ですね。やっぱり自分の番が回ってくると緊張しますね」
「頑張ってね、時雨」
「……はい」
緊張した表情でマイクを握る時雨。
時雨の歌声が楽しみだ。
「じゃあ歌いますね」
「がんばだよ! 時雨ちゃん!」
「私も応援してるよ」
2人で部屋に置かれている備品のタンバリンを鳴らして応援する。
時雨が歌い始めたのは私が聞いたことのない曲だった。
チラッと紗理奈を見てみると不思議そうな顔をして時雨の歌声を聞いている。つまり紗理奈も聞き覚えがないのだろう。
時雨の儚げでちょっと弱々しい声がなんとも耳に優しい。
私の耳に恋人補正が掛かっているような気もするけどとても耳ざわりが良い。その歌声を私にもっと聞かせてほしい。
「ねえ時雨ちゃん。さっきの曲始めて聞いたんだけどどこで知ったの?」
「確かに私も気になってた。たまたまテレビで聞いて気に入ったとか?」
「私にもよく分からないんです。この曲をいつ、どこで、どんな経緯で知ったのか」
「時雨はこの曲気に入ってるの?」
「はい、気に入っています。なんだか聞いていると懐かしい気持ちになるんです」
「まあ今日は楽しみに来たんだからそんな難しいことは今考えなくてもいいでしょ。それよりも今日は時間一杯歌い尽くそー!」
「そうだね」
「ですね」
結局3時間、喉のケアのことなど一切忘れて3人で歌いまくった。
行く当ての無い同級生を私の専属メイドにしたら可愛すぎて毎日が天国 冷凍ピザ @HyperMissing
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