なりそこないピエロ
頭野 融
第1話
「やあやあ、どうも、こんなときは僕の出番だ」
あ。うるさい奴が来た。うるさい。音量がでかいという意味じゃなくて、邪魔という意味でうるさい。てか、こんなときって、さ。
「うるさいとか、言わないっ。僕は僕にできることをしてるだけなんだ。うざいラインが沢山きて、おまけに外は雨。明日は用があって早く寝なきゃいけないけど、やさぐれたい、そんな夜なんだろ? 心が落ち着かなくて、嫌なことばっかりだもんな。僕の出番じゃあないか」
一々うるさい。どれも図星だから仕方ない。図星なのは、このピエロが僕の意識の内から生まれたものだから当然だけど。だからこそ、仕方ない。ねえねえ、そういえばお前、知ってる? 僕はこいつに名前を与えるのも癪だから、いつもこいつとかお前とか呼ぶ。それに名前を与えるなら、僕の分身みたいなものなのだから、僕の名前になってしまう。冬希なんて、こいつには勿体ないと思う。僕にも勿体ないと思うけど、勿体ない度で言えば、こいつの方が高いと思う。僕、何言ってんだろ。
「なあ、僕やさしい、だろ。きみの気持ちが『うるさい』間は黙ってやってたんだぜ。なんだか、あれみたいだな。『やあやあ、我こそは――』っていう名乗りの間は攻撃しない、みたいな」
もう、そういう喩えがうるさい。
「悪かったな、秀逸な喩え、で」
やってられない、こいつにイライラしていたら、何が嫌だったのか忘れた。どれも大したことない気がしてきた。おい、もういいよ、早く帰れ。お前の養分になるようなネガティブな気持ちは消えたからよ。
「へいへい、帰りますよ、残念、残念」
どうやら、本当に消え去ったらしい。あいつって案外、物分かりが良いんだな。
「あいつの心が落ち着いてよかった、これでこそ生きがいってもんよ――」
なりそこないピエロ 頭野 融 @toru-kashirano
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