第34話 自己栽培10

「くそ、なんなんだよ!」



 言いたい事だけ言って消えた絶猫に毒づき私は落ちているイヤホンとマスクを拾った。



「こちらメンマ。応答願いします」

『ッ! メンマ! おい大丈夫か!? 無事なんだな?』

「はい、指令。何故か絶猫に助けられてしまい……」

『あの行き成り消えた理由はそれか。無事ならいいがあいつは何なんだ。いや、今はいい。それで何を聞いた?』

 



 私は簡潔に聞いた情報を話した。奴の目的、魔法、そして病気の事。――そして近々何か起きるという事。


「どうでしょう。敵の情報ですし鵜呑みにするのも危険かと思いますが……」

『……いや、そういう点で奴が嘘をつくとは思えん。恐らく事実だろう。だが奴も二石を追っていたのか。そうなると不用意に人造部隊を出すのは危険かもしれん。奴の魔法がどこまで汎用的かわからないが、下手をすれば取り込まれることになる』



 そうか。私の魔法なら時間を戻して元に戻れるが、普通はそんなこと出来ない。



「でも魔法使い相手にも効くものでしょうか」

『可能性はゼロじゃない。同じレベルの魔力量ならともかく人造レベルの魔力量じゃ抵抗もできんはずだ。下手すれば魔力という土台があるから、余計危険かもしれん』

「了解です。私はもう動けます。奴の場所は?」

『博士が追走している。ここから10km先の場所へ逃げているようだ。迷いがない動きから考えてもう1つの拠点があると考えていい。地図を送る。魔力を使って移動して構わん。急げよ』

「はい」




 腰を落とし魔力を溜める。イメージするのはあの炎のように燃える魔力の動き。限界まで魔力を膨れ上がらせるがあの燃えるような魔力にはならない。やはりただ乱暴に魔力を増やすだけじゃだめなのか。流石に土壇場で上手くはいかないか。

 私は諦めてビルの屋上から跳躍する。スマホに届いた地図を見て私はビルの屋上を、壁を蹴り、走った。途中人に見られるが気にしてはいられない。



 移動しながら考える。私の魔法について。絶猫の言葉が頭に残る。魔法はもっと自由なのだと。そうだ。よく考えれば私は自分の時間以外に、物の時間だって戻せていた。勝手に他の人はどうせ無理なのだと心の中で思ってしまっていた。


 蹴った壁が衝撃でヒビが入るが、その後に元に戻る。壊れた屋根が、手すりが、すべて元に戻っていく。同じだ、人も同じ。私の力があれば人の時間だって遡れる。




 屋上から地上を見る。完全に警察による封鎖は間に合っていないようだ。だが幸い人は少ない。これなら直接降りても問題はなさそうだ。そのまま重力に従い私はアスファルトの道路へ落ちる。割れたアスファルトと舞い上がる煙。だがそれも逆再生のように戻っていく。



 同じだ。これと同じ。




『メンマ殿! 大丈夫ですか?』

「博士。二石はここですか」

『ええ。この廃棄されたラブホテルの中です。ただ中ですが――』

「大勢の二石がいる?」

『ええ。その通りです。全部で11名。魔力量もあのマンションにいた子らよりも高いようです』



 つまり本命か。



『1人の二石がここから出ていきました。恐らく足を確保するのでしょう。そちらは浅霧殿が動いております』

「多分その二石は被害者の方だと思います。本体は多分動いてないはず……行きます」

『どうか気を付けて。帰りにラーメンでも食べに行きましょう』

「はい!」



 封鎖された入り口を軽く押す。ガランと大きな音を立て、破壊される。隠れる必要はない。日が入らないのか中はそこそこ暗い。所々日が差す場所はあるが、随分ボロボロの場所のようだ。ラブホなんて入った事ないが、ロビーのような場所だ。大きな割れたモニターがあり、受付のような場所もある。人の気配はない。という事は上か。



 

 

 腰を下ろし力を溜め、跳躍する。天井に向かって拳を振るい破壊する。轟音と共に2Fのフロアへ移動した。



「常識を知らねぇのか! 普通床をぶち抜くって思うかよ!」

「お前に言われたくはない」



 驚いた顔でこちらに攻撃を仕掛ける二石。だが恐らく偽物のはず。だが被害者だ。攻撃するわけには行かない。修復された床の上に立ち、そのまま足を広げ態勢を低くする。そして目の前の二石の足を掴み、体勢を崩す。魔力量を確認し、自身の魔力を抑えて腹を殴った。



「すまん」

「ぐぁあ!?」


 二石が悶絶している間に立ちあがると既にもう1人の二石がこちらへ刃を向けて走ってきている。



「ゴキブリ野郎が! さっさと死ねぇや!」



 魔力を研ぎ澄ませ。自分の魔法を意識しろ。さっきは失敗した。まだ自分の魔法を信じられていない。根源魔法が願いなら、私の気持ちに答えてくれるはず。




 閃光のように脳内に蘇る記憶。一度だけ祝ってくれた自分の誕生日。父も母も幸せそうで初めて3人で過ごすことが出来た最初で最後の思い出。私はあの頃に戻りたかった。戻ってやり直したい。違う選択をしたい。3人でまたご飯を食べたい。そんな過去へ戻る事が私の願いならどうか答えてくれ!




 迫りくる魔力を込めた刃。だがあの時喰らったほどの脅威も魔力も感じない。見様見真似で魔力を流す。チェーンソーのように回転させ、細く、鋭く、速く!

 手刀で魔力を流し迫りくる刃を切断する。そして空いた左手で二石の腹に触れ魔法を使う。私の魔力が二石の身体を浸食するように浸透していき、二石の顔が別の顔へ変わっていく。




 思わず笑みが浮かぶ。掴めた、これが魔法の解釈を広げた感覚か。




 元の姿に戻った高校生が膝から落ちて倒れる。それに呼応するようにさらに二石が現れた。その数7人。私を見て殺気を帯びた目でこちらを見ている。




「二石双護ッ! お前を天国ヘブンへ堕とすぞ!」



 

 私はそう叫び走った。血走った目でこちらへ襲い掛かる二石たち。繰り出される攻撃を避け、身体に触れる。身体を捻り、迫る二石に触れる。触れた二石はその場で身体が変異し、元の姿へ戻っていく。残りは一番奥にいる1人だけ。



「て、てめぇ! マジでなんなんだ! ここにいるのは完成品にちけぇんだぞ! 魔力だって遜色ない、一番俺に近いんだ! だってのに、めちゃくちゃにしやがって! 台無しだ、全部台無しだぁああ!!」



 一番奥にいた二石に肉薄し、突き出されたナイフを躱し、顔を掴む。そして魔法を使った。







 二石の顔は短髪の男の顔へ変わる。






「油断したなぁ。おいぃ!」



 後ろからそう聞こえ、私の首に何か刺された。この感じまさか注射器か。

 



「あれだけ暴れて、腕まで吹き飛ばしたってのにどういう魔力してんだ? まあいい。俺の血を直接入れてやる。いくら魔力があろうとてめぇくらいの新米なら問題ねぇ。お前の身体を――」



 そう言い終わらない所で二石の身体は固まり、首に刺した注射器の中身は戻っていき、首から針が引き抜かれ、二石の腕は頭上まで上がり、後ろ方向へ数歩戻っていく。


 先程の奇襲を逆再生するかのように。



 そしてまたこちらへ向かって走り出す。



「油断したなぁ。おいぃ――ッ!?」


 振り襲られる注射器を破壊し、胸を強く打つ。その衝撃で後ろへ吹き飛び二石は壁に激突し床へ倒れた。

 


「なんだ、何が起きた? てめぇ……ごほっさっきまで後ろを向いてたはずだろ……」



 呼吸すら苦しそうな二石の傍へ歩みを進める。


 


「わ、悪かった。もう動け――」



 そう話している途中で私は二石の顔を殴り気絶させた。








 


 ラブホテルの中にいた中高生は全員救出され、病院へ運ばれた。二石は手錠を掛けられ、気を失った状態で天国へ護送されていく。その後、地下へ戻った私は寝ている坂口さんの顔を元に戻した。少し話しただけだが、多分あまり記憶には残っていないだろう。ちょっとむなしく感じるがまぁ仕方ない。




「桜桃殿。お疲れ様です」

「桜桃。活躍だったと聞いたぞ」



 帰りの道。私を待っていてくれたのか、2人のルームメイトが立っていた。



「剣崎さん、それに桑原さんも。あれ退院したんですか?」

「ああ。ついさっきな。まったく腹が減ったよ」

「折角です。3人でご飯食べに行きませんかな」



 ご飯か。何か激動な一日だったけど、そういえば何も食べてないや。




「いいですね。行きましょう」

「ふむ。偶には付き合おうか。それで何を食べるのだ?」

「任せて下さい。近くにいい店があるんです」




 今日は本当に魔法による被害というものを強く感じた。これだけの騒動でこれだけの人が死んでいても、ニュースにもならないし、ネットにも流れない。それでも、ああいった被害者が、今まで多くいたのかもしれないと思うと、少しはこの仕事も頑張ろうと思えてくる。




 今日は随分昔の事を思い出した気がする。振り返ればつらい思い出だったけど、それが今の原動力になっていると思えば悪くないのかな。





「――桜桃。ここは何がお勧めなのだ?」

「……拙者。帰りたくなったのですが」



 私は笑い2人の肩を叩く。




「いいですか。ここは戦場です。喋ってはいけません。食べ残しは重罪です。遅いとロッドが乱れ場が混乱します」

「え? ロッド? なんですそれ?」

「残すつもりはないが……なんだこの気迫は……」




 食券を3枚渡す。




 

「ね、ねぇ。桜桃殿?」

「し。静かに」

「えぇ……」





「はい、3番さん」

「ニンニク・野菜マシマシ、脂チョモランマで」

「チョモランマ? え、何語?」

「はい、4番さん」

「え、え――じゃ、この人と同じので……」

「はい、5番さん」

「くっ。腹を括るか。同じもので」






 さて、明日からまた頑張ろう。





「戦場を甘く見るからそうなるのです。修行が足りませんよ、2人とも」

「いや、いやいやいや! おかしいでしょう!? なんですあのもやしの数!?」

「くそ、かえって筋トレをしなくては。脂を取り過ぎたわッ!」

「またリベンジしましょうね」



 店の外で死体になっている2人を見ながら私はそう思った。





ーーーーーーーーー

これで第1章は終了です。

とりあえず10万文字越えられてホッもしました。

第2章はまた、ストックが出来次第更新して行くと思いますが、更新頻度は落ちるかと思います。


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