第37話『魔王様の決断』


「――いいんですかヴァリアン様? 追う事も出来たと思いますけど」


「ああ、構わない。下手に追い詰めて恨みを買いたくないからな」



 勇者とメールド。

 あの二人を始末する事ができれば、ゲームのようにイリィナ様がアルトに殺される事は確実になくなるだろう。


 だが、もし始末しようとして失敗したら?

 その過程でゲーム通りにメールドが勇者を庇って死んでしまったりしたら?


 そんな事を考えると追う気にはなれない。



「しかし……改めてみると酷い惨状だな……」



 多くの魔族によって破壊活動が行われたジョバンニの街。

 もはや崩壊していない建物が見当たらないくらい破壊されつくしており、逃げ惑う人間ももはや見当たらない。



 さっきメールドが言っていた通り、この街に生き残っている人間はもう居ないのだろう。


 そうして俺が荒れ果てたジョバンニの街を見ていると。


「ねぇ、ヴァリアン」


 不意にイリィナ様が俺の名を呼び。


「私は……間違っていたのかしら?」


 何を思ったのか、そんな事を言い出した。



「私は半魔で、生まれつき弱者の側に居ると、そう思っていたわ。魔王の娘だとはいえ、だからこそ命を狙われる機会も多かったから。でも――」



 イリィナ様の視線がジョバンニの街の一画へと向けられる。

 そこには死体、死体、死体の山。

 人間の死体の山が出来上がっていた。


「そんな私なんかと比べるまでもなく人間はもろはかない。もちろん、話には聞いていたわ。人間は集団でこそ力を発揮する種族であって、単体ではそこまでではないって……ね。実際、その通りだった。一人一人は信じられないくらい弱かったわ。女子供なんて想像を絶する弱さに見えた」



 一般的な人間は魔族よりも弱い。

 魔族は子供であろうと魔術が使えて当たり前だが、人間はそうではない。

 成人しても魔術を使わない者の方が多いくらいだ。


 さらに、基本的な身体能力までも魔族の方が高いとなればイリィナ様から見て人間はさぞ弱くて脆い存在に見えた事だろう。



「同時に私は人間とは邪悪な存在であるとも聞いていたのよ。大勢で魔族をさらい、奴隷に落として欲望の限りを尽くす犬畜生って……ね。でも、この街で何人かの人間を見て私は――」



 そこで言葉を詰まらせるイリィナ様。

 けれど、察しはつく。


 実際にこの街で幾人かの人間を見て。

 それがみんな邪悪だなんてイリィナ様には思えなかったのだろう。



「私は惨めに殺されていく人間達を見て同情してしまった。そんな人間達を情け容赦なく殺す魔族達を見て、滅びるべきなのは私たち魔族なんじゃないかと思ってしまった。そもそも、今回の一件は人間側になんの落ち度もない。魔族であるジーの一派が勝手に動いて、その結果こんな事態になった訳だし」



「!? そ、それは違いますイリィナ様! 滅びるべきは魔族だなんて。そんな事を言わないでください! 別に魔族そのものが悪な訳じゃ――」



「ええ、そうね。今回、人間達を虐殺した同族も根っからの悪という訳じゃない。ただ、同族がやられた怒りをここで晴らしただけ。やられたからやり返した。それが彼らの中での認識だというのは分かってるの。でも――そこに終わりはあるのかしら? 復讐して、復讐し返されて。その果てには何があるの?」


「それは――」


「答えなんてわかりきってる。何もないわ。魔族と人間。その溝は私が思っていた以上に深い」



 誰かを失った怒り。

 その怒りを相手にぶつけて。

 それで相手も誰かを失い、その怒りをまた相手にぶつけて。


 それが復讐の連鎖だ。

 当然、こんなものの果てに何かがあるわけがない。



「――――――実はね。魔王として私がやるべき事についてなのだけど。私は魔族内部の掃除と悪である人間達への対処をするべきだと思っていたの」


 初耳だ。

 イリィナ様、そんな事を考えていたのか。

 そういえば、魔王として自分という存在を周りに認めさせたいとかは聞いていたが、魔王として今後どうしていくのかについては聞いていなかったな。


「けど、それよりも私は魔族は滅びるべきなんじゃないかって。この戦場の有様を見てそう思ってしまったわ。そもそも、復讐の決着なんてどちらかの種が滅びるしかないものね。理想は両種族が手に手を取り合う事なんでしょうけどそれは並大抵のことじゃ不可能でしょうし」


「そ、それはそうですが……ですがイリィナ様。その……」


 まずい。

 非常にまずい。


 イリィナ様がそんな事を言うなんて思ってもみなかった。

 別に魔族が滅びるとかそんなに気にしていない。

 俺の忠誠は魔族という種に預けているわけじゃないからだ。


 イリィナ様という一個人の為に俺は全てを捧げたいとそう思っているのだ。

 だから、最悪イリィナ様以外の魔族はどうなっても構わないとすら思っている。


 けど、ダメなんだ。

 イリィナ様の性格上、魔族が滅びるならば魔王である自分も滅びるべきだと考えるはずだ。



 それはまごうことなきイリィナ様の破滅エンド。

 俺が絶対に回避するべきものだ。


 だからこそイリィナ様の考えを否定したいのだが……何をどう言えばいいのか分からない。

 そうして俺が内心慌てていると。



「だからヴァリアン。私、決めたわ」



 決意を秘めた眼差しが俺を射抜く。

 とてもマズイ。

 本当にマズイ。


 なんとかイリィナ様には考え直してもらわないと。

 でも、イリィナ様って意思を曲げない所があるし。


 でもそんなまっすぐな所も素敵です!!



 ――なんて考えてる場合じゃない!!

 なんとか説得をしないと。

 言葉にして決意を完全に固められる前にどうにかしないといけなくて。

 だからっ。


「イリ――」


「私は――――――これから人間について学ぶ事にすると、そう決めたわ。一度魔族領には帰るけど、その後は留守を誰かに任せて人間領で色々と学ぶ事にしようと。そう思うの」



 …………………………アレ?

 思ってたのと何か違う?



「ねぇ、ヴァリアン。正史では確かさっきの勇者は学園に通う事になるのよね?」


「え? えぇ、はい。それはその通りですけど」


「そして正史では勇者は私を討つ。なら、今後の勇者の動向も気にしておくべきよね? だから、勇者の見張りに誰か付くべきだと思うの」


「えーっと……それなら俺が勇者の見張りに付きますよ。実を言うと、イリィナ様の許可さえもらえればそうしようと思っていましたし」



 イリィナ様にはまだ言ってなかったけど、勇者が通うユーシャ学園には俺も通う予定だ。

 そこで勇者がゲーム通りに通うのかどうか。通った場合、誰と仲良くなってどのルートへと向かうつもりなのか。


 その辺りを探るつもりだ。



「そうなのね。なら、好都合だわ」


「――と言いますと?」


 なんて言いつつ俺はほっと胸をなでおろす。

 いやぁ、良かった。

 とりあえずは最悪の事態にはならなさそうで本当に良かった。



 しかし……イリィナ様は何をお考えなのか。

 そもそもイリィナ様がユーシャ学園に興味を持つなんて思わなかったし。

 好都合ってどういうことなのだろう?


 

 そうして混乱している俺にイリィナ様は。

 とんでもなく突拍子のない事を言い出した。



「そのユーシャ学園。私も通わせてもらうわ」


「「………………え!?」」


 驚く俺とセーラ。

 当然だ。

 だって予想なんかまるでしていない事をイリィナ様が言い出すんだもの。




 とはいえ、冗談を言っている様子はない。

 イリィナ様。マジで人間を理解するために人間の学園へと入るつもりだ!?



 魔王であり、人間と魔族のハーフであるイリィナ様。

 そんな彼女がまさかの魔王を倒すための教育機関であるユーシャ学園への入学を決意した瞬間であった――




★ ★ ★



 あとがき

 

 初めにお詫びを。

 申し訳ありません!

 少し中途半端な感じですが…一旦ここで休載します!

 


 なんというか……色々と迷走して筆が乗らないのです。

 キオノピー登場以降はなんとなく筆が乗ったのですが、他作品に比べて筆がかなり重くなってしまった感を感じております。)汗

 これがスランプというやつなのか……分からん!


 というわけで。

 ちょっと息抜きに新作品の執筆に逃げます。

 今作品の続きも考えてはいるのですが、いつ更新するかは未定です。


 読者の皆様とはまた次の新作品の場にてまたお会いできれば嬉しいです!

 ではこれにてご免(ドロン)

 

 

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LV99の魔王様の配下。転生した先が前世でプレイしてたゲーム世界だったので、推しの魔王様をハッピーエンドへと導くために頑張ります @smallwolf

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