第8話

 事情聴取の時は状況がつかめなかったけど、最終的には次のような事件だったらしい。


あの日。メンバーの誰かが暖炉の煙突に細工をして、意図的に一酸化炭素中毒を起こそうとしていたようだ。みんな気付かぬまま、酒を飲みチーズフォンデュなんか食っていた。変な臭いがしていたが、アルコールランプとワインの匂いだと思っていた。チーズフォンデュの火が引火して爆発しなかったのは不思議だし、もしかしたら俺はすごい偶然で助かったのかもしれない。


 あのままだったら、長時間一酸化炭素にさらされて全員亡くなっていただろう。しかも、しばらくは誰にも気付かれないままで。


 俺が途中でトイレに行って、救急車を呼んだせいで事件が発覚してしまったことになる。


状況からして犯人は幹事ではないかということだったが、証拠がなく、動機がわからないまま捜査は打ち切られた。


 どうやら幹事は奥さんから離婚を切り出されていて、自暴自棄になっていたらしい。そのせいで、同級生たちを道連れにしようと思ったのではないかということだった。彼以外の誰かが煙突に細工をするのは難しく、彼の家族はもう何年も別荘には来ていなかったそうだ。


 しかし、翌々日はその別荘で子どもを含め家族で話し合いが持たれることになっていた。もしかしたら、旧友たちを集めて、一酸化炭素中毒を起こす予行演習をしていたのかもしれない。うまく行けばみんな〇くなってしまい、何もなかったら、煙突の細工を見直す。


なぜ、幹事は友人を道連れにしたのかずっと考え続けている。元々お互いに妬みあっていて足を引っ張りたかったのか、自分だけ不幸になりたくなかったのかと想像する。それとも、楽しいサークル仲間で永遠にパーティーを続けたかったのか。案外、後者なのかもしれない。そのメンバーの何人かは、大学時代の友達といるのが一番楽しいと言っていたからだ。俺には理解できないが、歪んだ価値観の人間同士気が合うのだろう。


 これが、サバイバルゲームなら俺は勝者だ。俺しか知らないゲームの結末。


  散々な目に遭ったけど、俺だけ生き残ったことで、頭ひとつだけ勝てた気がしている。人生は長さじゃない、中身だというが、◯んでしまったら、どんなに吠えたところで意味がない。


 俺はあの看護師のおばさんをデートに誘い、田舎と東京で遠距離のまま交際している。寝ぼけていた時はおばさんに見えていたが、彼女はまだ二十代だった。メイクをすると北川恵子ばりのいい女だ。今は彼女が俺の治療とメンタルをサポートしてくれている。俺はまた失われた青春をたどり直している。俺がこれまで経験したことのないすべてを彼女が与えてくれているみたいだ。俺は新しい治療法に望みをかけ、諦めずに前に進んでいる。


 俺は日々こんな風に記憶を書き換えている。


 死の恐怖を乗り越えるためにそうするようになった。


 何が現実に起きて、何が俺の妄想なのかはもう区別がつかない。

 俺にしかわからないことだからだ。


 だけど、そんなのどうだっていい。


 もう、何もかも俺に取っては意味がなくなってしまった。

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同窓会 連喜 @toushikibu

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