第7話

 次に目を覚ますと、俺はICUみたいな場所に入っていた。周りにビニールがかかっている。俺はステージ4の患者だし、「ここは何ですか?」なんて無粋なことを聞く気は起きなかった。田舎で倒れるなんて迷惑もいいところだ。ここの入院手続きはどうなってるんだろう。俺は保証人を頼める人なんかいないし、誰が手続きを取ってくれたんだろうか。幹事かな。もう、何を見られても恥ずかしくない。俺は〇んだ。この後は死体になって火葬場に行って燃やされるだけだ。俺は開き直った。


「江田さん、お話できますか?」

「はい」

 

 おばさんの看護師さんが声を掛けて来た。その人には〇ンコにカテーテルに管を入れられて、うんこをしたらお尻を拭いてもらった。俺はその人に全幅の信頼をその人に寄せていた。恥ずかしかったがすぐ慣れた。こういう人たちは、どうせ慣れてるんだ。


 俺はその人が好きだった。すごくいい人で、俺に恥ずかしい思いをさせなかった。こんなお母さんだったら、俺の人生は全然違ったものになったかもしれない。そう言えば、俺には優しく接してくれる人が誰もいなかった。俺はぼんやりとまどろんでいた。


「警察です」

 俺の目の前にスーツの男が座った。誰だろう。俺は身構えた。俺はもしかして身元不明者なんだろうか。まさか。携帯も財布も持っているんだから、調べてくれよ。それか、金払えってことか?ATMに行くのは無理だ。財布のクレジットカードで勝手に払ってくれ。


「何でしょうか」

「ちょっとお話を伺いたくて。あそこにいたメンバーについてですが」

「はい。何でしょうか」

 俺は意識をはっきりさせなければと意気込む。間違ったことを言わないように。回りくどくならないように。理路整然に。ビジネスと同じだ。看護師さんも見ているだろう。変なところは見られたくない。俺はしばらく意識がなかった割には正常な判断ができている自分が誇らしかった。


 俺は警察からあの会を誰が主催したか。それぞれのメンバーについて聞かれた。俺は的確に回答して行った。理由はわからなかった。俺はただの癌患者だ。


「すみませんが、ちょっと時間が長いので休憩を入れていただけませんか」

 そこにいた医師が割って入った。往診で何度か見てもらった先生だ。いろんな医者がいるけど、その人はまともそうだった。


「はい。すみません。体調の悪いところを」

「いいえ。でも、なんでこんなことをお聞きになるんですか」

「実は…びっくりなさると思いますが」

「はい」

 俺はぼんやりした頭で聞いていた。

「あなた以外、全員亡くなられたので…」

 俺は鈍器で頭を殴られたようになった。

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