第6話
終いに俺はどうしようもなく吐き気がして、トイレで便座を抱えてゲエゲエやっていた。最後に胃液が出るだけになった。俺は気を失いそうになり、最終的にスマホで救急車を呼んだ。
幹事に迷惑なのはわかっているけど、もう立ち上がることもできなかった。俺は来るべきではなかったのだ。しかし、俺は確かめたかった。格差は一生なくならないのか…という、どうでもいいことを確かめたくて仕方なかった。人の苦労は平等じゃないのか?彼らも本当は苦労しているんじゃないか。死ぬまでにそれを確かめたかったのだ。
俺は現実を理解したし、納得が行った。
運のいい人は一生ついてる。
そうでない人は一生沈んだままだ。
彼らは決して俺の方には降りて来ないし、セックスはしたとしても、恋人にも友達にはなれない。まして、結婚なんて絶対しないのだ。よほど落ちぶれない限りは。外国人と結婚した女は、他に行く当てがないから俺でもいいかと妥協しようとしたのだろう。
俺だって別に釣り書きを背中に貼って歩いている訳じゃないから、初めて会う人には俺がどんな素性の者かなんてわかりっこない。この女も残念ながら離婚してしまったけど、格下の男と目出度く再婚したということにしたいんだろう。五十路にもなれば、再婚しただけでも自慢になるかもしれない。
俺が〇〇出身だなんて、地元の人しか知らない。俺は誰にも話したことがないからだ。俺は故郷を捨てたし、親族も切った。
俺はなぜ結婚しなかったのか。もしかしたら、〇〇出身だったからかもしれない。もちろん、それでも普通に結婚している人だっている。そういう人の方が多いし、俺みたいに一生独身でいる必要なんてないんだ。俺だって、誰かに打ち明けさえすればよかったのに。
しかし、俺にはそれができなかった。誰にも弱みを見せたくなかった。俺は強い人間だ。そう思っていないと生きていけない。俺は一生一人だ。それでいいんだ。
「トイレで倒れてます…インターホン鳴らしてもらえば、開けてくれると思うので」
俺は119番に電話しながら気を失った。
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