イーリアと塩対応な婚約者
入江 涼子
第1話
私はセリエス公爵家の長女として生まれた。
割と、平凡な両親と何故か凄く美形で文武両道、完璧過ぎる兄が2人の5人家族だ。ちなみに、兄は上がガーライル、下はギルバートという。年齢はガーライルが24歳、ギルバートは21歳だ。末っ子で娘の私は18歳になっていた。
私は両親に似て、淡い栗毛色の腰まで伸ばした髪と濃い赤茶色の瞳と地味な色合いだし。顔立ちや体型も平々凡々と言えた。ちなみに、両親も年齢は父が50歳で母は49歳だ。
あ、年齢をはっきり言ったら。母に後で締め上げられるか。意外と母は怒らせると「最凶の公爵夫人」と呼ばれている。それくらいには、怖いのだ。
私はさてと考えを切り替えた。
王宮の夜会に現在、来ていた。ちなみに、婚約者のアーバイン・ハレルと一緒だ。まあ、アーバインは既に私から離れて友人達と雑談に花を咲かせているが。仕方ないので、私は壁の花に徹する事にした。セリエス公爵家の娘とはいえ、声を掛けてくる人はいない。
(……アーバインは凄く塩対応だしね。私を視界に入れようとすら、しないし)
あーあ、こうなるって分かっていたはずなんだけど。私は料理やお菓子が置かれたテーブルの方をちらっと見た。この際だ、やけ食いでもしてやろうか。そう思い立ち、私はテーブルの方に向かう。
取皿やフォークを手に取り、好きな料理を幾つか小分けにして盛り付けた。それらを口に運んだら、なかなかなお味だ。うん、やはり王宮の料理人が作ったなだけあるわね。私はしばらく、楽しむのだった。
「……イーリア、こんな所で何をしているんだ?」
「あら、アーバイン様」
「姿が見えないと思ったら、食事コーナーにいたのか。そろそろ帰るぞ」
私はアーバインに言われて、食べ終えた取皿やフォークを通りかかった給仕の男性に渡した。そうした上で塩対応で最悪な婚約者に顔を向ける。
「分かりました、行きましょうか」
「ファーストダンスも踊らずに、放っておいたのは謝る。けど、君は危機意識が足りなさ過ぎるんじゃないか」
「……どういう事ですか?」
「連れも無しでたった一人でいるのは駄目だと言いたいんだ、せめて。友人方と一緒にいたら良かったじゃないか」
「あら、それをあなたがおっしゃるの。私は何も悪い事はしていませんよ」
私が言うと、アーバインは珍しく黙った。普段はもっと、ネチネチと言うくせに。内心で毒づく。アーバインは小さくため息をついた。
「まあ、良い。行くぞ」
「はい」
アーバインは私に渋々、腕を差し出す。それに手を添えてゆっくりと会場を後にした。
ハレル侯爵家の馬車に乗り、セリエス公爵邸まで送ってもらった。アーバインではなく、御者にエスコートしてもらう。地面に降り立つとアーバインが声を掛けてきた。
「イーリア、また明日も来るから。そのつもりでいてくれ」
「はあ」
御者がタラップを片付けて扉を閉める。馬車はそのままガラガラと動き出し、行ってしまった。それをなんとはなしに見送った。
一人でドアを開け、エントランスホールに入る。メイドのベルとキーラが出迎えた。
「イーリア様、おかえりなさいませ」
「只今、戻ったわ。もう、今日は疲れたわね」
「そうでしょうね」
ベルが訳知り顔で頷く。キーラと目線を交わし合う。
「では、夕食の前に湯浴みをなさいますか?」
「そうするわ」
「では、キーラと二人で準備をしますね」
ベルやキーラと三人で自室に向かった。私は重く怠い体を引きずるように歩いた。
イーリアと塩対応な婚約者 入江 涼子 @irie05
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。イーリアと塩対応な婚約者の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます