第30話 決戦、メルトアイズ
『ズドンッ!!!』
重苦しい発射音が静寂を切り裂く。
その魔弾は、一直線にニグルの心臓に食らいつこうと襲ってきた。
(ッ....早い!? なんて速度だ....!)
ニグルはその魔弾を紙一重で回避することも出来たはずだが、今は背後にシャーリィ達が居たのだ。
彼が避ければ彼女たちに被弾してしまう可能性があった為、ニグルは両腕でクロスガードの体勢を取りながら、魔術で部分的に強化した。
しかし。
「ぐぅっ!!」
彼の腕に襲ってきたのは焼け付くような灼熱感。
なんと魔弾はクロスガードと肉体強化の魔術を易々と貫通してきたのだ。
「せ、先生っ!」
シャーリィが思わず叫ぶ。
「問題ねぇ....これくらいかすり傷だよ」
「ニグル・フューリー、強がっているようだけどその傷、モロに行っただろ?」
シャーリィを心配させまいと強がるニグルに大して、メルトアイズが返したのは嘲笑だった。
「うるせぇ、お前を倒してメルディの人格に戻してやるよ」
ニグルは足に魔力を集中させる。
「我が肉体は、風のように気高くあれ、パワーステップ!」
ニグルがスペルを読み上げると、彼の足に風のような膜がまとわりつく、そしてその流れでメルトアイズとの距離を一気に詰める。
しかし、ニグルの背筋に冷たいものが走った。
「近距離だからって安心してるのか? アタシを舐めてもらっちゃ困るなぁ」
奴が嘲るように言ったその瞬間だった。
「ぐおぉぉっ!!」
再び、凄まじい精度の魔弾がニグルを襲い、見事に彼の肩の肉を食んでしまった。
ニグルが一方的に攻撃されている場面を二度も見せられ、二人にも我慢の限界が来ていた。
「も、もう見てられない! ボク達も加勢するしか....」
「ダメだ!!」
しかしニグルは叫ぶ。
「お前たちがまたあの力を使えばそれこそ学院都市上層部に危険対象として見られちまう! ここは俺がなんとかするから大人しくしてろ!」
「.......わかったよ先生....」
彼の怒号にビクッと身体を震わせた二人は大人しくなる。
「そうだ、お前たちはまだ子供なんだからもっと大人を頼れ」
「へぇ、まだアタシに一方的にやられてるってのに根性あるんだね」
「ああ、外道の魔弾に屈するほど、ニグル先生は甘くねぇんだよ」
薄ら笑いを見せるメルトアイズにも、ニグルは負けじと言い放つ。
「はぁ....魔弾だけじゃラチが開かないか」
その一言を皮切りに、メルトアイズの纏う空気が明らかに変わった。
「ならアタシも相応の得物を使わせてもらおう」
そしてメルトアイズの腕に淡い光が収束する。
「......なんだ?」
「光よ、我が手に収まるは殺戮の刃 クリスタル・サーベル」
メルトアイズの手には魔力の塊であろう光剣が握られていた。
「チッ.....それが学院長を一撃で倒したというナイフか」
明らかに莫大な魔力を秘めている光剣、その迫力に額から脂汗が吹き出る。
「なあ先生よぉ? 魔術師に過ぎないあんたに近接戦は行けるのか?」
メルトアイズは薄気味悪くニヤニヤと笑う。
(魔術師同士の戦闘で近距離戦はほぼほぼ起こらない....これは少しキツイな)
だがニグルは足元に落ちてる、ある物を拾い上げた。
「刃物を使ってメルディの体を傷つける訳には行かねぇしな、これで相手してやるよ」
それは短い杖であった。
「ぷっ....アハハハハ! そんな枝きれでアタシに勝とうなんて舐められたもんだな」
「我が手に人の身を超えた力を与えよ....フォース・フィンガー!」
ニグルは身体強化の魔術を発動させ、杖を魔力で包み込んだ。
「フン、お前の薄ら笑いが曇る様が楽しみだっ!!」
ニグルは杖をナイフのように構えると、メルトアイズの喉元目掛けて一気に突き出した。
身体強化の魔術も上乗せされて、その突きの速度は目を見張るものがあった。
しかし。
「そんな直線的な攻撃など当たるはずがないんだよ」
だが、メルトアイズには見抜かれていた、彼女はひらりと落ち葉のようにソレを躱す。
そして攻撃を外せば飛んでくるのは....勿論カウンターだ。
「元マジック・ドリームスが聞いて呆れるよ、さぁ終わりだ先生ッ!!」
「ぐぁっ!!」
(ちくしょう、これは深くいったか.....額がザックリと切れやがった....だけどな)
「俺はここで倒れる訳にはいかねぇんだよ!」
しかし生徒を守るという信念が、彼をつき動かしたのだ。
そして再び、奴との距離を詰めにかかった。
「残念だよニグル・フューリー、最後の賭けがこんな特攻なんてな」
メルトアイズは光剣を構え、突きの体勢を取った。
(.....やっぱりだ、魔弾の時から微かに気づいてたが奴が狙っているのは恐らく心臓....!なら俺が取れる策は1つしかねぇな....)
「見えたぞメルトアイズッ!! こうすればいいんだろ....」
「何っ!?」
なんとニグルは真っ直ぐ突っ込むフリをして、体の軸をずらしたのだ、それによりメルトアイズの刃は肩に突き刺さる。
「へへ、やっと捕まえたぞ、メルトアイズ....」
そしてその流れで彼女の腕を掴んだのだ。
「離せ死に損ない....至近距離で急所をブチ抜いてやるよ」
メルトアイズは光剣を持っていない方の手を僅かに動かした、そして猟銃のような射出器を顕現させた。
だが、その瞬間。
「それは見えてんだよ....!」
ニグルの片足が跳ね上がり、射出器を彼女の手から弾き飛ばしたのだ。
「まずいっ!!」
(ほら奴さん、初めて目の色が変わったな....)
両手の得物が一瞬にして機能しなくなったメルトアイズは明らかに動揺する。
「....なんてな」
しかしメルトアイズの目の奥が急に濁ったのが分かった。
「クリスタル・サーベルはもう一本作れるんだよ!」
なんと射出器を弾き飛ばされた手に、光剣が握られていた、それは一直線にニグルの命を刈り取りに来ていた。
「先生ッ!!!!」
二人が悲鳴に近い声で叫ぶ。
『ザクッ!!!!!』
肉を刺し貫く鈍い音が辺りに響いた。
「なっ....!?」
メルトアイズの眼前に広がる光景は、胸を刺し貫かれたニグルではなく、片手を犠牲に光剣を受け止める姿であった。
「さすがのお前もここまでは想定してなかったらしいな....」
「これはまずいッ....両手が....」
(ニグル・フューリー....この一撃に全てを賭けろ....!この一発で全てをひっくり返すんだ!!)
「メルディを返しやがれ!!この外道がッ!!!!」
そしてニグルは渾身の掌底突きを放った。
「がはっ.....!!」
それはメルトアイズの腹部にめり込み、彼女は大きく吹き飛ぶ。
「うぅ....ゲホッ....さすがだね、ニグル・フューリー.....」
「うるせぇ....とっとと消えやがれ、メルトアイズ」
ニグルは地面に倒れ伏す、メルトアイズのうなじに鋭い手刀を打ち込んだ。
魔術で死なない程度に強化された手刀は、彼女の意識を刈り取るのに十分すぎた。
「血を流しすぎたか....また医務室行き確定だ....な、へへっ....」
もうニグルも完全に限界だった。
彼はそのまま意識を失ってしまったのだ。
「先生っ....先生ってば!!」
遠くから必死に自分を呼ぶ声を聞きながら、彼の意識はまどろみに囚われていくのであった。
ウイルス錬成魔術師は魔術学院で教師に再就職します。 古書館のトマミン @soHendouHtori
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