第2話 にどめとさんどめ

「……はっ!?」


「アリア、起きたのね。おはよう」


 目が覚めたら、わしの家じゃった。……なにが、起こったのじゃ?


「……賊はっ!?」


 母上は何言ってんの?と言いたげな顔をしておった。


「山賊?ああ、寝ぼけてるのね。早く目ぇ覚ましてご飯食べちゃいなさい」


 ……あれは夢だったのかの?しかし、嫌にリアルな夢だった。


 やけに痛かったし……。怖かったぁ。うぅ、あの恐怖と痛みを思い出すだけで涙が出てきそうじゃ。


 まあ、夢ならば問題ないじゃろう。

 気を取り直して食卓についた。


「む?今日のスープも根菜スープなのか?」


「え?昨日のとは違うはずだけど?」


 よく考えると、朝のメニューが根菜スープだったのはあの夢の中だった。


 となると、わしの記憶違いだな、と素直に謝らざるを得ない。


 しかし、夢と同じメニュー?


 なんだか不吉じゃな、と思いつつ朝食を食べ終え、サンダル作りの内職をし終えてから、外で本を読むことにした。

 そして、昼をだいぶ過ぎた頃、バーズがやってきた。

 それも、怒り心頭の顔で。


 重い音を立てて心臓が高鳴った。


 もしや、これでは、夢と同じなのではないか?

 二の句を継がせないように、バーズの言葉を遮る。


「決闘なら受けないからの」


「わかってんじゃねぇか!だがなぁ、エ……」


 やはりそうだ……ならば次は……。


「エフをかけるんじゃろう?なんてことじゃ。これでは夢と同じではないか……!」


「なんだ、そこまでわかってんのかよ。ならやることはわかるよな?」


 顔色がどんどん悪くなっていっているのが自分でもわかる。

 恐怖で脳が染まっていく。怖い、どうしたらいい?どうしたら生き残れる?わしはまだ死にたくない……。


「お、おい……大丈夫か?お前……」


 ぶちギレ状態だったはずのバーズがわしを心配するが、もう何も考えられる気がしない。


「……もう終わりじゃあ。わしはもう死ぬしかないのじゃあ!」


 絶望顔でそう語るわしを見て、バーズたちはどう思ったのかは知らないが、その言葉から10秒も立たないうちに伝令が伝えられた。


「山賊が攻めてきたぞ!60人ほどの集団だ!」


 やはり伝えてきたのはタダべーさん。


 そして次のバーズの言葉は。


「なっ!?マジかよ!……調子悪そうだが、あんまり無理するなよ。俺は親父とともに戦う。じゃあな」


 最後の言葉は、夢と違っていたが大筋は変わらなかった。

 そして、夢の通りエフに抱きつかれて泣きすがられ、そして殺された。


 ––アリア、死亡二回目。首を切り落とされて死亡。



「……はぁ、はぁ」


 そして、目覚めるといつものわしの家だった。


 どうなってるんだと困惑したが、これはおそらく死んだら戻るアレじゃろう。


 要するにエンドレスなんちゃらとか、魔法少女のあれとか、水銀の蛇による永劫回帰とか、異世界に転移して死に戻り続けるアレじゃ。


 どうにもわしの置かれているいる状況は、その中でも最後の例が近しいらしい。

 多分、これは夢じゃないだろう。


 夢にしてはあまりにもリアルすぎた。

 ……となると、歴史改変するしかないかのう。

 歴史と言っていいのかはわからないがの。

 

 まずわしは朝食を食べてから真っ先に村長の家に向かうことにした。


「ベイガル殿!ここにおるのじゃろう!?」


 村長の家の前でそう叫ぶと、武人として鍛え抜かれた体を持つ壮年の男性が現れた。


「おう、アリアちゃんじゃねぇか。どうしたよ。バーズなら今は……」


 村長のベイガル殿の息子はバーズで、奴が騎士を目指しているのも貧民から剣一つで騎士や村長まで成り上がったベイガル殿にあこがれてのことだ。


 つまり、村長は相当腕が立つ。

 それでも、あの山賊には勝てなかったようだけど。


「いや、それどころじゃないのじゃ。実は今日の夕方頃に、60人ほどの賊が攻めてくるようなのじゃ!これは嘘や冗談ではないぞ!確かな情報じゃ!」


「はっはっは、60人なんて賊鼠はこの辺にはいないよ。最近王都のほうがきな臭いからな。頭の良いアリアちゃんはどうしても怯えてしまうんだろうが、大丈夫だ。仮に来たとしても、60人くらいなら俺一人で片付けられる」


 平時ならその言葉も信じられたと思う。

 60人を一人で片付けられるということは特に。

 村長の強さは60人程度では揺るがない。

 500人居ても軽く片付けられるだろう。


 だが、事実として村長は負けた。

 どうしようもないが、これを信じさせなければ終わりなのじゃ。


「じゃが……!」


「息子が世話になってるからな、アリアちゃんには。だから時間は割いてやりたいところなんだが……俺もあんまり暇じゃない。さぁ、この本を貸してやるから読んできなさい」


 そこらへんにあった選計朝書という題名の本を取り出して、わしに渡してきたが今欲しいのはそれじゃない。

 そもそも頭に入っているわ。


 しかし、扉を閉められてしまってはどうしようもない。


 それからしばらく、大人たちに触れ回ったが誰も信じてくれないどころか村長がなんとかしてくれると言って聞く耳を持たなかった。


 そして……また、襲撃にあって死んだ。


 ――アリア、死亡三回目。賊に腹を踏みつけられて死亡。

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