第8話 運命への挑戦

「うおおおおお!!!」


 雄叫びをあげながら、何度も何度も切り込む。


「くそっ、はぁ……はぁ……」


 アーキスはそれに対応するのに必死になっているようじゃ。

 ……戦いの優位が、徐々にわしに傾いてきたのか?

 

「なぜ、体もできてねぇガキのくせにそこまで戦えるんだ!おかしいだろう!くそっ……」


 最近のわしは他の賊を軽く殺し尽くしてもアーキスに殺されて負けるのじゃが、今回のこやつはやはり少し弱い。

 それでも、決定打がいまいち与えられない。


 賊共の持っていた剣も、あの上質な鎧の前に刃こぼれしてきた。

 村長の剣を借りたらいいのかもしれないが、それをさせてくれる隙はなさそうじゃな。

 村長は気を失っているし、すぐ近くには同じく気を失ったバーズ以外の人もいない。

 ……厄介じゃなぁ。


 この戦いを見守っている村人たちは大勢いるが……彼らが援護したところで、ただ殺されるだけだ。


 そもそも、アーキスが真っ裸だとしても皮膚に刃が通らないだろう。

 わし相手でも、心臓に刃を突き立てたとしても若干の切り傷を負う程度で肝心の場所には到達なんてしなさそうだのう。


 ともかく、ここは挑発でも何でもして賭けに出てもらわないとジリ貧かの。

 現状わしが優勢でも体力差が出てしまう。


「お主、元騎士なんじゃろう?振る舞いからして、わかるぞ」


「それが、どうした!……オラァっ!」


 アーキスが水平に剣で薙ぐ。


 せっかくここまで来て死ぬというのも嫌なので、その攻撃は大事をとって避ける。


「それなのに今は山賊をやってるってことはどういうことなんだろうなぁ?騎士の誇りはどこに行ったのじゃろうか?なぁ、なぁ?」


 こうなったら自分でも言い過ぎなんじゃないかというくらいに煽ってやる。

 これで乗ってきたら万々歳だ。乗ってこなくても心を惑わせられれば上の上。

 何も起きなくてもこっちに不利には働かないはずじゃ。


「あぁ、賊なんてやってるくせに名乗りなんて上げてしまう恥知らずじゃったのう。つい忘れてたわ。その調子なら、騎士としてもきっと能無しだったんじゃろう?ひひひ……ああ、わかるぞ。お主は弱い。弱い、弱い。このような童女一人すら殺せないのじゃから。悔しかったらせめて我が首を刎ねてみせよ」


 そう嘲りながら剣を振るい続けていると、


「黙って言わせておけば……このクソガキが!うおおおおおお!!!」


 と言いながらアーキスが後退したあと、猛スピードで突進を仕掛けてきた。

 こやつは騎士の誇りというものをどうにも捨てきれていないらしいから、乗ってくる可能性はあると思っていたけどここまで単純とは思わなかった。


 その程度でわしを殺すつもりか?……ひひひ、嗤えるぞ。


「『シルト』」


 無詠唱で無魔法による防壁を作り出し、それによって一瞬動きの止まったアーキスの頭部をめがけて剣を投擲する。


「うぎっ?!!」


 アーキスは思いっきりぶっ倒れて、頭から血を流して、ピクピクと動いている。

 フリかもしれないので、徐々に後退しながら村長の剣を拝借する。

 そして、アーキスに向かってもう一回剣を更に投擲した。

 ……しかし、どうやら既にアーキスは死んでいたらしい。


「この戦い、わしらの勝利じゃ!!勝鬨をあげい!!!!!」


 勝利宣言の言葉を叫ぶと、村人たちが喝采を浴びせた。




 そして、戦いが終わった3時間後。村長宅の裏庭で宴会をしていた。


「いや〜、アリアちゃんはすげえよ!村長ですらほとんど一方的にやられてたアイツを倒しちまうんだからよお!」


「いや、それほどでもないぞ。あそこまで有利に戦えたのは、村長とバーズのおかげでもあるからの」


 照れ隠しも兼ねて、村長とバーズに責任を押し付ける。

 でも、別に間違ってはいないと思う。

 多分、アーキスは足に傷を負っていた。動きが多少鈍かったのはそのせいだ。


 わしの実力だけでは、善戦するのがやっとだったじゃろう。

 そしてその傷をつけたのは二人のうちどちらかだろう。


「のじゃ女……いや、アリア。俺はなにもできずにやられちまったんだ。こんなんじゃ誰も守れねぇ。くそっ!俺には何にも……」


 しかしバーズはだいぶ落ち込んでいたようだった。


 ライバル視していたやつが実は勉強だけじゃなく剣術も魔法も自分より達者だったと知った上、自分は何もできなかったのにそいつには大活躍されたら不快にもなろう。


 いや、不快というより、さっき言ったように単に落ち込んでいるといったほうが正しいかな。

 それに、さっきまでの戦いぶりを他の人たちから聞いて、ドン引きしないだけ、相当好人物だと思う。

 初周のアレがおかしかっただけで、こやつは割といいヤツだと思うぞ。


「いや、この勝利はお前のおかげでもあるぞ」


「親父!?」


 ベイガル殿がやってきたようだ。

 顔には赤みが差していて、だいぶ酔っているようじゃの。


「お前が時間を稼いでくれたおかげで、アイツに手傷を負わせることができたんだぜ」


 ちょうどそこにいた、村長の副官であるサザムさんの手元にあった酒瓶をひったくって飲みながらそう言った。


「でも、俺はそれくらいしか……」


「だが、そうやって自分を省みることができるようになったじゃねぇか。前のお前は無駄に自身家だったが、今のお前は反省ができる。成長したじゃねぇか」


「あ……」


 なんだか良い雰囲気になってきたので、わしも久しぶりの夕食を楽しむことにした。

 しばらく楽しんだが……なんだかやたらと褒められて、それは悪い気はしなかった。


 なにやらわしを戦女神の化身(アヴァターラ)と喩える人もいたけど、やっぱり照れくさい。

 わしに畏怖やらなんやらのマイナスの目線を向ける人も数人いたが、全員で生き残れたのだからそれで良い。


 ……そう、今回の死者はなんとゼロなのじゃ!


 だから、特に親しい身内同然と思っている人たちに嫌われないのならばそれで良い。

 身内に嫌われて、その未来を回避するために目立たないようにやり直すなんてことがなくて本当に良かった。


 ……はぁ〜っ!やっと終わったのじゃ……っっ!!

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