味わう、などという生易しいものではない私はこの登場人物たちと、そしてこの物語と、誰よりも深く溶け合うことができた。創作を志し、挫折しそれでも筆を折ることをしなかった人間ならその気持ちの片鱗くらいは分かるだろう。自惚れだと言われてもいい私はこの物語と、深く深く溶け合ったと自信を持って告白しよう。
この作品が好きだ。そう、心から思わせてくれる作品でした。浮遊したような、交点を持たない言葉のやりとりが、少しずつ物語の輪郭を縁どっていきます。その基調は、「生」。「生きる」とも、「生み出す」とも読めるその一語が、「咲かない花」に交わりをもたらしていく。輝きは失われても、原石は失われない。という言葉を臆せず発したくなってしまった私は、この作品の持つ「生」の力に感化され、少し大胆になったのかもしれません。静かなダイブ。物語は、あなたに読まれるのを、きっと待っています。
絵を描くことに挫折した女子大生・未咲と自分のことを愚者と呼ぶ大学教授・藤代。同じ空間で珈琲を飲みながら、少しずつ心の距離を縮めていく様を描く。自分にしか見えない世界があることに気づかなかった未咲。藤代との交流をきっかけに彼女に変化が生まれます。しっとりと穏やかに紡がれる文章が読んでいてとても心地良い短編です。みなさんもぜひ珈琲を片手に読んでみてください。
このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む(225文字)