掌編「コール&NOレスポンス」


「――この村から出ていけ!

 貴様らのようなろくに買い物をしない旅人はこの村にとっては不用なのだ!!」


 村長の怒声に、村人が賛同する。


「そうだそうだっ」

「出ていけ金なしの旅人ども!!」

「早く出ていけぇ!!」



『出・て・けっ、出・て・けっ、出・て・けっ――』



 村人総出で、出ていけコールが流れる。手を叩き、旅人を出口へと促すが……しかし言われた旅人はその場を動かない。どころか、その場で腰を下ろし、カバンから昼食を取り出した。


 そして、目を瞑り、周囲の出ていけコールを浴びながらも、腹を満たそうと昼食を取る。


『出・て・けっ、出・て・けっ、出・て・けっ――』


 もぐもぐ、と旅人はコールを気にしていないようで、ちらちらと村人を見ながらも立ち去る素振りを見せない。


『出・て・けっ、出・て・けっ、出・て・けっ――』


 コールは止まらない。


『出・て・けっ、出・て・けっ、出・て・けっ――』


「…………」


『出・て・けっ、出・て・けっ、出・て……けっ――』


「あ。おいそこ、ちょっと休んだだろ……コールをし始めたなら俺が出ていくまではちゃんとやり切れよ――あと、サボっていたらすぐに分かるからな? その都度、指摘していく……。

 さて、誰がサボりやすいのか、ここでデータが取れるな……逆に言えば誰が最後までコールを続けられるのか、村長への信仰度が試される……がんばりなよぉ?」


「う……」


「文句の前に。――いいから続けろ。俺はまだ村にいるぜ?」


『……出・て・けっ、出、て・けっ、――出・て・けっ――』


 そして、六時間後。


 すっかり、日も暮れていた。


 ……コールは、続いている。


『出て、け……出て、け……出て――』


「もう限界か?」


「お、お願いですから、もう出ていってください……っ」


 村長の必死のお願いだった。


「あいよ。そうやってお願いしてくれればこっちも素直に出ていくよ。迷惑をかけたいわけじゃないからな――。村に金を落としてほしいあんたらの気持ちも分かる……だがな。村人総出で旅人を追い詰めるこのやり方は見過ごせねえな。

 コールを始めたら最後までやり遂げる……ってことなら、こっちも『ああ、信念があるんだな……』と思って否定はしなかったが……そういうわけでもねえらしい。だったらやめとけ。『出ていけ』コールはお前たちの身を滅ぼすだけだ」


 旅人が立ち上がった。

 荷物を背負って、村の出口へ向かう。


「そんじゃあ、世話になったな、村長」

「……二度とこないでくれますか」

「それは金があってもか?」

「その場合はお待ちしています」

「現金なやつだ……まあ、そりゃそうか。分かりやすいのは嫌いじゃないぜ」


 ちら、と村を見渡す旅人。

 一面に倒れる、コールし続けて倒れた人たちに「お疲れ様」と、最後に労った。



 …了

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