第2話
"大丈夫じゃない"
彼の言葉に何て返事をしようか迷っていると、彼は濡れた体を起こして抱えていた荷物を僕に見せた。
「びしょびしょ…」腕の中に大事そうに抱えられてたのはキャットフード。袋の封があいている。
「あ…でも、上の方は濡れてるけど、中は大丈夫じゃないですか。」「……本当だ!」
この人は、この猫達の飼い主?何でこんなところに寝てた?線路沿いの人の少ない道に倒れていた一人の男の人と数匹の猫達。キャットフードが無事だとわかると、にっと笑う。その笑顔に少し戸惑いを感じて、彼の隣にしゃがみ込んでいた僕は立ち上がった。
「えっと…じゃあ…。」雨も降り止みそうにないし、早く帰ろうと別れの言葉を口に仕掛けると、彼も立ち上がり僕の袖を掴んで言った。
「猫、好き?」「え?」「この子達、預かってくれない?」「…え?」
初めて会った目の前の人は、まるで友達に気軽に頼むかのように、僕に聞いてきた。
「いや…無理です…。」「どうして?」「どうしてって…」預かるってどういう事?いつまで?それに、知らない人の頼みなんてそんな簡単に聞けない。だって猫は生きてるんだから。荷物を預かるのとは訳が違う。荷物だって怖くてやだけど。
「無理ですよ…。預かるって…あなたの猫なんですか?」「…違う…。」「だったら…」
彼は視線を一度下に落とした後、また顔をあげた。ドキッとした。ばちっとあった視線の先の瞳は、碧く光って見えた。
「雨で死んだら可哀想。」「じゃあ、あなたが連れて帰ったら…」「だって、住んでるところ、動物は駄目なんだ。」「…だったら…」
諦めるしかないんじゃないか。
今一時的に助けたって…。
「お願い。
今日だけ。お願い…。」
何故彼のお願いを聞いたんだろう。
必死に見えた瞳のせいかな。
それとも本能で助けてあげたかったのかな。
結局僕は、五匹の猫を預かった。
明日必ず、ここで彼に返すことを約束として。
明日の16時に。またここで。
またいつか出逢えたら びーまい @vinluvb
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