●4人……以外にも誰かいた?
高いところから眺めるのが好きなおいら。そう、このビルの天井裏で暮らす小さなネズミさ。
人間の世界をガラス越しに見るのが、いつもの楽しみなんだ。
今日もそんな日常だったんだけど、いつもとはちょっと違うんだ。
地震で止まったエレベーター、そこには4人の人間が閉じ込められている。
不安にかられる彼らを、おいらは天井裏からじっと見ている。
おいらには言葉はないけど、彼らの話は全部聞こえてくるんだ。
でも彼らが知らないことが一つある。このビル、実は違法建築の手抜き建築でもうすぐ倒壊するんだ。おいらには分かる。ほら、沈む直前の船からネズミは逃げるっていうだろ? それそれ。
そろそろ新しい住処を探さないと……そんなことを考えながらも、彼らの会話に耳を傾けた。
祐介さんが言ったんだ、「まずは深呼吸しよう」と。
彼はいつも思いやりがあって、みんなのリーダーだった。
渉くんは少しパニックになりながらも、祐介さんの言葉に力をもらってた。
雅さんは、いつものように落ち着いてたけど、美月さんへの気持ちだけは隠しきれていないようだった。
「祐介さんがいればなんとかなる……かも。」
美月さんはそう言って、祐介さんをちらっと見た。その目には明らかに特別な感情があった。
渉くんは美月さんを励まし、ダンスの話で気を紛らわせようとしてたんだ。
みんな、それぞれの秘密を胸に隠しつつ、お互いを支えてる。
祐介さんはリーダーとしての責任を果たし、渉くんとエレベーターの操作について話す。雅さんは、ファッションの話で美月さんを励まし、美月さんは彼女自身の借金について心を開いた。
借金……そんなものおいらには関係ないけど、彼女の心配事が本当に大変そうだって感じた。
アラート音が鳴り、僕の心も少し揺れた。
危険が迫ってるんだ。
でも、祐介さんが皆を落ち着かせ、雅さんが勇気を持って前向きな話をする。
彼らの中の恋心や秘密がゆっくりと解き明かされていく。
「みんな、普段は隠しているものなんだね。」
祐介さんがそう言ったとき、僕も何だか共感してしまった。僕にも隠してること、つまりこのビルの秘密があるから。でもそれはしょうがないよね、僕には人間語は話せないんだし。
そして救出された彼らは、笑顔でお互いを見送った。彼らの絆は今回の体験でさらに固くなったんだろうね。
だけど、僕には彼らと違う道がある。
このビルの未来が危ないことを知っている。
もうすぐこのビルを離れて、新しい家を探さないといけない。
そう思いながら、僕は静かに天井裏を後にしたんだ。
最後に彼らにそっと告げたい気もしたけど……「ちゅーちゅーちゅー! ちゅちゅちゅ!」……やっぱり無理だ(笑)。
彼らの世界は彼らのもの。
僕は僕の道を行くだけ。
彼らの未来は、まどろっこしいけど希望に満ちている。
僕の未来は、もっと直接的でシンプル。
生き残るために、次の家を見つける。
ただそれだけのこと。
さて、どこかいい場所はないものかな。
(了)
【短編小説】エレベータに閉じ込められた4人、秘められた各々の物語 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi
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