6
キスはしてきたのに、付き合おうとも何とも言ってくれない男。
「何か言いたげだね?」
「そんなことありませんよ」
「そこは素直じゃないね」
私から言わせたいのか?
告ったほうが負けって訳ではないけど、シロくん相手だと都合良く手の平の上で転がされそうで、まだ伝えたくないと思ってしまった。なんとなくだけど。
適当にお店を見て回って、暗くなって来たら公園に誘われた。巨大なクリスマスツリーがライトアップされているそう。
周りのカップル達の目的地もそこなのか同じ方向に進んでいる。
「俺達も手を繋ぐ?」
みんな腕を組んだり、手を繋いだりしている。……繋ぎたいけど、反応を面白がられてる気がして素直になれない。
大きな手を見つめるだけで無反応な私に「ははっ」と笑い声が聞こえた。シロくんの癖なのかな、楽しそうでキューンとなってしまう。
「凪は嫌かもしれないけど、人が増えてきたからはぐれないように繋ごうか」
「……嫌ではないよ」
「じゃあ、好き?」
嫌の反対は好きってか?
片眉を上げて返事を考えていると、覗き込むように顔が近づいてきた。
「俺のことは好き?」
「……」
「素直な凪が可愛いと思うけど」
「……好き」
近寄りすぎと思ったら、またキスをされた。人目なんて気にしないマイペースさに“ろくでもない男”が上書きされる。
人に言わせておいて自分は言わない。いつもこうなのかな?
今付き合っても他の彼女と同じくすぐ終わっちゃいそう。シロくんが言わないなら曖昧な関係で暫く様子を見ようかな。
「不満げ?」
「うん」
素直に頷く。不満だらけですよー。
苦労は目に見えてるのに惹かれちゃう。
「じゃあ、これあげるから機嫌直して」
コートのポケットから真っ白な封筒が出てきた。開けていいと言われたので中身を確認する。
「ライブのチケットだ!」
「半月も先だけど」
「絶対行く! ありがとう!」
これは嬉しい! 楽しみだな。
「うわっ、思った以上に混んでる」
シロくんが嫌そう。確かにツリーの周りにはカップルや家族連れが多くて、これ以上近付くのは無理かも。
「ここからでも綺麗だからいいよ」
キラキラ眩しいそれに目を細める。
繋いだ手の温もり、シロくんのきれいな横顔、来年の今日はこれがどんな思い出になっているのだろう。
遠くから聞こえてくるクリスマスソングに合わせてシロくんが鼻唄を歌う。それが心地好くて、目を閉じて耳を傾けた。
その声で、愛だけ囁いて。 音央とお @if0202
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。その声で、愛だけ囁いて。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます