第41話 これからも無能オーク

朝起きて、リビングに下りると、テレビの前で4人のちびっ子がはしゃぎ回っていた。

 4人とはすなわち、ぱんぴ~、にぶる、むすぺる、セシルちゃんのことだ。


(……なんか面白い番組でもやってるのかな?)


 我が家の朝のテレビはお堅い政治経済か、事件事故のニュースとチャンネルは決まっているのだが、今報道されているのは、……何だろ? 特撮? にしてもおかしな特撮だ。


 カボチャ頭のエセ紳士風の怪人と、ミノタウロスっぽい怪物が戦っているのだ。


(……なんぞ、これ?)


 怪人VS怪人の奇妙な特撮だ。ヒーローの類はいないのだろうか?

 ――あっ、画面が切り替わった。


 見たこともないおっさんおばさんが対面形式で座っている。

 彼や彼女が座る机には、それぞれ「~専門家」「~大学教授」やらの名札があった。

 何やら討論番組のようだが、普通そういうのは日曜の朝にやるものだろうに。


(今日は平日なのに……)


 食卓の椅子に腰掛け、頬杖をつく。何気なくテレビを眺めた。


『彼、パンプキンXの活躍により学校がダンジョン化するという一大事は避けられた訳ですが、さて、名も告げずに去った彼はいったい何者なのか、それぞれの専門家先生の意見をうかがっていこうと思います、まず――』


(……パンプキンX?)


 カボチャを被ったエセ紳士のことだろうか?


 映像は切り替わり、ミノタウロスっぽい怪人とカボチャの被り物をしたエセ紳士風の怪人との戦いが繰り返し流される。


 建物の2階か3階からの映像だろうか、お世辞にも画質はよくない。


 専門家先生はワイプの中であーだこーだと討論していた。


 曰く「彼は巨人の末裔に違いない! でなければ魔王と殴り合いで勝てるはずがない!」

 曰く「いや、大賢者の生まれ変わりだ! あの大魔法が何よりの証拠だ!」

 曰く「いやいや、彼は大精霊だ! あれほどの精霊の使役は人の手にあまる!」 


 議論は白熱し、収拾がつかなくなったのか、映像が次々と切り替わる。


 まず映ったのはカボチャを被った無数のチビ怪人がミノタウロスをミンチにしている映像だ。あまりに凄惨すぎたのか、映像の8割がモザイク処理されていた。


「あっ、ぱんぴ~なのだ!?」


 映像は切り替わり、ダムの放水のように水流を噴き出す学校が映し出された。


「――で、す!  ――で、す!」


 また画像は切り替わり、空に七つの太陽が浮かぶ。


「……ゾ! ……ゾ!」


 校庭の落ちると、凄まじい水蒸気を吹き上げ、画面は一瞬にして白く濁った。


「くま~! くま~!」


 なぜか、ぱんぴ~、にぶる、むすぺる、するとの4人がはしゃぎ回っているのだが……、正直、意味がわからん。はしゃげるほど面白い映像はなかったと思うけど。


『いえ、彼が何者であるかなど私たちが定義すべきではないでしょう』


 修道服の妙齢の女性は祈りを捧げるポースで厳かに言い放った。


『彼は女神様が遣わした救い主……救世主なのですから!』


(……んなっ、アホな)


 ナイスジョークと笑い飛ばそうとしたところで、スタジオが『おおっ!』と響めいた。


『確かに、確かに! 女神様の「祝福」とするならすべてに納得がいく!』


 と、そのとき。

 テレビ画面に新聞が飛んできた。


「な~にが! 女神の『祝福』ぢゃ! あんなチートと一緒にするでない!」


 出先は……セシルちゃんだ。

 専用のハイチェアの上に立ち、ふんふんっ、とセシルちゃんが憤慨していた。


「何怒ってんの?」


 はいなのだ、とぱんぴ~が新聞を拾ってよこしてくれた。

 新聞の第一面には、カボチャの被り物をしたエセ紳士の写真がでかでかと載っていた。


「カボチャの被り物って今流行ってるのかな?」


「悪い冗談ぢゃな。あんな珍妙なものが流行って堪るか!」


「でも、この人も被ってるじゃん?」


「ん?」


「ん?」


 お互いに顔を見合わせ、小首を傾げた。


「この人、ってか……これ、お主ぢゃぞ?」


「はぃ?」


 ちょっと言っている意味がわからないのだが、


「冗談、だよね?」


 いやいや、と首を横に振るセシルちゃん。


「え? まじで?」


 ……新聞の一面に載ってるんだけど?


「なんでぼくがテレビや新聞に出るのさ?」


 ……鬼リピートでめっちゃ流されてるんだけど?


「学校を救ったからぢゃろ?」


 セシルちゃんは当たり前のように言うけどさ。


「いやいやいや、学校を襲った魔王をちょっと倒しただけだよ? カボチャの被り物とかしてるしさ……、誰かに感謝されるどころか笑いものにされて、学校の修繕費とかを請求されるのがオチでしょ? テレビや新聞で取り沙汰されるようなことじゃないよ?」


「どんだけ自己評価が引くいんぢゃ、お主は……」


「あっ、もしかしてぼくをおびき寄せるための罠かな? 調子こいて名乗り出たら、いきなり手が後ろに回る、みたいな?」


「いやいや、お主の功績は立派なものぢゃ。感謝されこそすれ手が後ろに回ることはない」


「そうなの?!」


「それどころか学校がダンジョン化されていたら、暗黒神の一大拠点となり、この街全体が危機に陥っていたことぢゃろう。十分に勲章ものぢゃよ」


「そ、そうなんだ……」


 とはいえ、誇らしさなど微塵もない。

 隠し撮りされていた自分の活躍をテレビで見るに顔から火が出そうだ。


「やっぱり名乗り出た方がいいのかな?」


「いや、今さら名乗り出るのは無粋の極みぢゃな。こうやって正体探しをするのもまたエンタメの一つぢゃろうし、放っておけばそのうち飽きるぢゃろう」


「あっ、そうなんだ……」


 てっきり世間を騒がした責任を取らなきゃダメなのかとばかり。


 どうやらこれからも「無能オーク」のままでいいらしい。


 よかったよかった。



               おしまい

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転生ハイエルフの学園スローライフ ~超高濃度魔力で何でも楽々、今日も今日とて無能を頑張る~ かなきち @roki8786

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