第7話

パンドラの箱は僕の手中に落ちると言う悪夢のフィナーレ。

その後について少し話をするね。


翌朝の朝刊はまたもや僕の事で持ちきりだった。


『怪盗ナイトメア。


ビル一棟丸々盗むと予告状を出して、予告通りビルを跡形も無く消し去ってしまった。


そして先日ギリシャで盗まれたパンドラの箱を取り返しに来た女性だけを残して忽然と姿を消した』


先に警察に予告状を出したのは正解だった。

いいタイミングで来てくれたよ。


夕方。

僕は姉さんと一緒にピュラーの見送りに来ていた。


昨日の事なんか無かったかの様にピュラーは笑顔で姉さんと話しをしている。


姉さんもすっかりいつもの笑顔だ。


そして2人は再会の約束をして別れた。


姉さんはピュラーの乗った飛行機が見えなくなるまで見送っていた。


「義姉さん。

帰ろう」


「ええそうね」


姉さんは寂しそうだったけど笑顔だった。


「でも夢路」


義姉さんが急に怖い顔で睨む。


「義をつけるのは辞めなさいといつも言ってるでしょ。

私は正真正銘あなたのお姉さんなんだから」


それでこそ姉さんだ。


「わかったよ姉さん」


「うん、よろしい。

じゃあ、帰りましょう」


これでいい。

姉さんは何も知らなくていい。


超美人で可愛さまでも兼ね備えている姉さんにはやっぱり笑顔が似合うよ。


そして夜。

僕は秘密基地にあるお宝コレクションの一つに加わったパンドラの箱を堪能していた。


本当に開け口が分からない。

全く切れ目なんて見当たらない。


でもピュラーが開け方を知ってるって事は開ける事が出来るんだろう。


開けると世界が滅びる中身。

全く興味が無いと言えば嘘になる。


でも僕は開ける事は無いだろう。


『美学その11

芸術作品を汚してはならない

汚す奴を許してはならない』


この箱を全く傷付けずに開けるのは至難の技だ。

それこそ正規の開け方を知らない限り。


この箱を傷付けてまでの物が入ってるとは思えない。


この世界を滅ぼそうって気もサラサラ無い。


だって僕は欲しい物は奪い、行きたい所には行き、邪魔な物は排除する悪党だ。


そんな自分勝手に生きる僕がこの世界をどうこうしようってのがおかしな話だ。


それに僕は信じたいんだ。


この過酷で残酷で理不尽な世界。

それでもこの世界は、姉さんのように正しい者が幸せになれる世界だと。


そして僕みたいな悪党はいつか報いが来る。

必ず悲惨な最後を迎える。


そう世界は出来ていると。


そしてそんな世界でも僕は生きたいんだ。


その為の僕自身が僕の為に決めたルール。

それこそが美学。


自由に生き抜く悪党の美学。

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自由に生き抜く悪党の美学 横切カラス @yokogiru

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