第6話

僕は廃ビルの屋上に降り立つ。

一つ下の階から自称ピュラー兄の声が聞こえる。


「いい加減にパンドラの箱の開け方を教えてくれないだろうか?」


「嫌です」


ピュラーの声の後に叩く音が聞こえる。


僕は透視してみる。


下着姿で椅子に拘束されてるピュラー。

その周りに4人。


さっきの音はピュラーを鞭で叩いた音だ。

痛々しい痣が体中にある。


なんか原始的な拷問してるな〜


「君達親子は本当に強情だ。

父親も結局死ぬまで吐かなかった」


自称兄は深い溜息を吐いた。


「次は君が死ぬぞ」


再び鞭がピュラーを襲う。


ピュラーは気丈にも男を睨みつけた。


「これ以上鞭打ちして君に死なれたら困るんだ。

そう言えば君を助けてくれた姉弟がいたね」


「あの人達は何も関係無い!」


「元はと言えばお前が巻き込んだんだ」


確かに。

ピュラーが来なければ姉さんがあんな顔する事なんて無かった。


「関係無いのにお前のせいで死ぬ事になるとは可哀想に」


「辞めろ!」


「なら吐け!」


鞭がピュラーを襲った。


さて僕はどうやって登場しようかな?


やっぱりここは真っ正面から行きますか。


僕は普通に階段で降りていく。


入り口の前に立っていた2人が僕に気付いてマシンガンを向ける。


僕は気力で身体強化をして引き金が引かれる前に近づいて手刀で2人の首を胴体から切り放した。


では行きますか。


扉を蹴って吹き飛ばす。

中の4人がビックリしてこちらを見た。


「俺はナイトメア。

今宵、悪夢へ誘う」


僕に銃口が向けられる。


『動くな』


霊力を込めた言霊で全員の動きを止める。


魔力でリボルバーを生成して、魔力の弾を一発づつ込めていく。


別に手動で込める必要無いんだけどね。

姉さんを殺すとか言った奴らには近づいてくる死を実感してから死んでもらうんだ。


弾を込めたリボルバーの銃口を額に向ける。

そしてじっくり焦らしてから引き金を引いて殺していく。


4人始末したらカードを投げてピュラーを拘束していた縄を切る。

そして力を駆使して治療する。


騒ぎを聞きつけた奴らの仲間が入り口からマシンガンを連射してくる。


その迫り来る弾を超能力で停止させた。

そして180°回転させて奴らを蜂の巣にしてやった。


「ではパンドラの箱は俺が頂く」


自称兄が机に置いてあったパンドラの箱を僕は取った。


やったー。

これで僕の物。


「ダメ!

それは――」


ピュラーの足元に魔力弾を撃ち込んで黙らせる。

そして手を掴んで無理矢理階段の前まで引っ張って行く。


「登れ」


「え?上に?」


僕は銃口を向けて階段を登らせる。


屋上に出た僕はピュラーを追越してビルの端で綺麗な月明かりにパンドラの箱をかざす。


凄く綺麗だ。

この洗練されたレリーフに月光の色がとても合う。


「それを返してください」


「もうこれは俺の物だ」


「それは私達が代々守って来た物です」


「だから?」


僕はピュラーに近づいて、ブラジャーを剥ぎ取った。


「キャ!」


ピュラーは胸を隠して疼くまる。


僕はリボルバーに残った一発に更に魔力を込めて発射する。

威力の上がった魔力弾が、登って来た奴らごとペントハウスを粉砕した。


「守る?

笑わせる。

現にお前に何が出来る?

奪われた物を取り返す事も出来やしない」


ピュラーは蹲ったまま僕を睨む。

その目には悔し涙で潤んでる。


「私だって力が欲しい。

でも無い物仕方ないじゃない。

それでも私はパンドラの箱を守らないといけないの」


「それが役目だからか?」


「そうよ。

それを開けると世界が滅んでしまう」


「そうか」


僕はもう一度箱をじっくり堪能する。


「俺はこの箱に惚れ込んだ。

中身などどうでも良かった。

だが、それを聞いて興味が湧いて来た」


「そんな……」


「だから」


僕は顔をグッと近づけて仮面越しにピュラーの潤んだ瞳を覗き込む。


「俺はお前の役目事奪う。

もうお前に俺からこれを奪う事は出来ない。

これからお前の役目は生きる事だ」


「生きる事?」


「生きて作り続けろ。

俺が絶望する事の無い世界を」


僕の魔力がオーロラ色になってビル全体を覆う。


サイレンを鳴らしたパトカーがビルの周りに集まって来た。


そのビル自体もオーロラ色のガラス細工のように変貌する。


「グッド・ナイト・メア」


僕が空のリボルバーの引き金を引いたと同時にビルは砕け散って細かいカケラが月光を浴びながらキラキラと舞う。


足場の無くなったピュラーがカケラの中を落ちて行く。


僕は逃げるとしよう。


『美学その10

正義は絶対勝つ』


僕みたいな悪党は正義には勝てない。

生き延びるには逃げるしか無い。


だから僕は警察から逃げるしかない。

先日も警察から逃げていたように。


僕はオーロラのカケラと共に溶けるように消えた。


ビルの建っていた所に蹲るピュラーと一枚のカードを残して。


『予告状通りこのビルとパンドラの箱は奪わせてもらった。


怪盗ナイトメア』

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