第5話

ピュラーはあんなメモを見てもさっきまでと変わらない感じでディナーを楽しんでいた。


それが痩せ我慢なのか、最後の夕食ぐらい楽しく過ごそうと思ったのかはわからない。


でも姉さんも楽しそうだからいいや。


「ありがとう。

凄く楽しかった」


ディナー後、ピュラーが笑顔で姉さんにお礼を言った。


これでもう関わる事は無い。


「私も楽しかった。

明日空港までお見送りに行くね」


え?

行かなくていいよ。

多分いないし。


「いえ、そんな悪いわ」


「気にしないで。

私が行きたいだけだから」


ピュラーは曖昧な笑顔で再度断ってから別れを告げた。


きっとこれが今生の別れになるね。

あの住所はホテルなんかじゃ無かったし。


「さあ、姉さん帰ろ」


姉さんはまだ心配そうにピュラーの後ろ姿を見ていた。


「ねえ夢路。

さっきの人本当にお兄さんだと思う」


「そう言ってたよ」


十中八九違うだろうけどね。

そしてピュラーはこの後間違い無く酷い目に遭う。

でも僕には関係無い。


だって僕達の周りには物騒な連中はいなくなったから。


え?助けないかって?

嫌だよめんどくさい。

僕になんの見返りも無いし。


『美学その8

他人に施しをしてはならない』


僕は悪党だから施しはしない。

他人がどうなろうがどうでもいい。


見返りも無く助けるなんて時間の無駄さ。


「私はなんか嫌な予感がするの。

私やっぱり――」


僕は走り出そうした姉さんの手を取って止めた。


「他人の家族の事情にあんまり首を突っ込むのは良くないと思うよ」


「それはそうだけど……」


「父さんと母さんも心配するから帰ろう」


僕は姉さんの手を引っ張って家に帰った。


家に帰ってからも姉さんはどこか暗い顔をしていた。

まだ気になってるみたい。


そんな顔しないでよ姉さん。

姉さんがそんな顔してると僕も悲しい。


「姉さん。

本当に明日見送りに行くの?」


「ええ、そのつもりよ」


「でも来なくていいって言ってたよ」


「そうね。

でもこれは私の我儘だから」


姉さんは人が良過ぎるよ。

そんなの我儘でもなんでも無いよ。


「僕はそろそろ寝るね。

おやすみなさい」


「おやすみ」


僕は自分の部屋に入ってから、窓から夜空に飛び出した。


僕の服は魔力に包まれてナイトメアスタイルへと早替わりする。


『美学その9

他人の不幸は蜜の味

身内の不幸は排除する』


義家族は僕にとっての唯一の身内。

その不幸はどんな手を使っても全部排除するんだ。


明日空港にピュラーが来ないと姉さんは悲しむ。


そんなの許さない。


僕は姉さんにはずっと笑顔でいて欲しいんだ。

だからその障害になる物は全て排除する。

どこまでも自分勝手に我儘に。


だって僕は悪党だから。

それが悪党である僕が出来る唯一の事だから。

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