俺の青春の救世主は学校一の美少女です。てか、実は覆面シンガーってほんとですか?

@stork-katsu

第1章

第1話 音楽室での出会い

 「......何......してるんですか?」

 

 振り返ると、たくさん荷物が入った段ボールを重そうに抱えながら顔だけをこちらに向け、立ち尽くしている一人の少女がいた。

 

 制服から見るに、うちの学校の生徒だろう。胸元には[1-C]と書かれたクラスバッチが輝いていた。彼女の腰あたりまである飴色の髪は、夕日にあたりまるで絹糸のような光沢を放ち、窓から吹き込む海風で髪が金色の渦を捲いてきらきらと震えるいる。制服をまくりあげ、そこから出ている腕は今にも折れてしまいそうなほどに細いが、透明感とハリがある肌は奏が今まで見たことがないほどに綺麗だった。

 

 それにしても、華奢な体であるのにもかかわらず、制服の上からでもわかるほどにスタイルが際立っている。百年に、いや千年に一度の美少女といっても過言ではないと思うくらいパーフェクトという言葉が似合う美少女である。

 


 この時は、彼女、天満 咲桜てんま さくらなど俺にとって一人の同級生に過ぎなかった。

 いずれ、後戻りできない関係になるとも知らずに―――



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 「奏、どれだけ寝れば気が済むんだ?」


 呆れているような、小馬鹿にしているような声が聞こえたと同時に、頭に鈍痛が走った。誰かと思ったが、俺に話しかけてくる奴は一人しかいないことを思い出す。

 

 それにしても、なんだか妙にリアルな夢を見ていたような気がするが、所詮、夢は夢だ。あまり、気にすることはないだろう。

 

 まだ激しく痛む頭を持ち上げると案の定、目の前には大館 永伍おおだて えいごが呆れた顔でこちらを見ていた。永伍は保育園からの幼馴染で、俺、齋場 奏さいば そうが今いる柏原高校1年c組の学級委員を務めている、いかにも陽キャという言葉が当てはまる男だ。

 

 「ふぁ~~~、今、何時?」

 「とっくに6時間目は終わってるけど、寝すぎにもほどがあるだろ。やっと起きたか。てか、ほんと変わっちまったよな、お前。中学生の奏はあんなにも......」

 「いや、それ関係ないだろ!ほんと、誰にも言うなよ?振りじゃないからな。お前、すぐに『ポロっ』って口滑らしそうだし」

 「安心しろ、言わないに決まってるだろ......たぶん...な」

 「おい!」

 「冗談だよ、冗談」


 永伍はにかっと笑いながら自分の席の方へと帰っていく。一瞬、信用していいのか迷ったが知られている以上取り返しのないことに気がついた。

  

 そう、俺には誰にもばれたくないことがある。高校生になってから授業・休み時間など関係なく寝ていることが多い俺だが、中学生の頃は正反対の真面目キャラだったのだ。特に勉強とスポーツは力を入れて努力をしてきたつもりだ。

 

 高校に入って変わってしまった理由は、簡単に一語で表すと「疲れた」というのが一番当てはまるだろう。そのことをこの高校の生徒で唯一、中学校が同じだった永伍だけが知っているのだ。

 

 『秘密』というほどではないが、今の俺からじゃ想像はできないだろう。

 

 このまま穏やかで何も起こらない高校生活、そして努力をしなくてもいいこの日常生活が奏にとって最も望んでいたことだ。

 

 永伍にはいつも助けてもらってばかりいるので、なかなか頭があならないのが現状である。特に体育の授業、クラスで孤立している奏と自らペアになろうとする変わり者は全くいないと言っていいが、永伍だけは奏をいつも誘ってくれていた。さらに、高校に入って授業を真面目に受けなくなった影響が顕著にでてきているのか、宿題はさっぱりなのだが永伍は回答をいつも見せてくれている。

 

(―――なんだかんだいって、俺の高校生活に永伍は欠かせないのかもしれない......)


 「おーーい!何ぼーっと考えてるか知らないけれど俺は帰るぞ。お前は今日も行くのか?」

 「今日は予定ないし、行こうかなって思ってるけど」

 「くれぐれもばれないようにしろよ。もしばれたら、職員室で何時間説教くらうかわからないぞ」

  

 そんなことはとうに理解しているので、俺は「はいはい」と適当に返事をしながら、窓から差し込んだ夕日を浴び茜色に染まったバックを机の横から持ち上げすっと席を立った。俺は永伍が教室を出て右に進み昇降口へと向かっていくのを横目に見ながら、真逆にある2階へと続く階段に向かう。

 

 なぜ音楽室なのか。答えは単純で、俺はおばあちゃんの影響でピアノがとても好きだからだ。特に、最近流行り始めた『cherry blossom』の曲は自分で弾いていてとても気持ちがいい。

 

 階段を上がり、そのまま廊下を進むと音楽室が見えてきた。俺の学校の音楽室はとてもボロく、なんと築55年だそうだ。なので、よくドアを開けるときに『キィーーー』と大きな音がなる。俺はそっとドアノブに手を置いて10秒ほどかけて開いて、一番奥にある窓側の電子ピアノに向かっていき、音量を最小にする。

 

 準備ができたので、弾き始めようと白鍵に手を置いたときだった。

 

 「......何......してるんですか?」





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