第2話 秘密にしてくれますか?

 「......何......してるんですか?」

 「っ!?」

 

 『びくっ』と一瞬体が震えたと同時に、背中が徐々に冷たくなっていく感覚が襲ってくる。理解しているといったが、こんなことになると思っていなかったというのが正直なところだ。


 恐る恐る振り返ってみるとそこには、さっき夢の中に出てきたのとまったく同じ美少女がいるた。よく考えてみれば、今の俺の状況も話しかけてきた少女の声色も全く同じだ。


 (―――そんなことがあるのか?)

 

 でも、今はそんなことを考えられないほどにまずい状況だ。とりあえず、口止めが最優先だろう。


 「いや、別に何にもやってないけど......俺がここに居たってこと誰にも言わないでくれないか?この通りだ、お願いします」

 

 俺は地面に頭をつけ土下座をした。それを見た彼女は驚いたように目をまんまるとさている。そして、彼女は焦ったようにこう言ってきた。


 「顔を上げてください!う~~ん......わかりました。だけど、なぜ齋場君がここに居るのか本当の事教えてくれたら、いいですよ?」


 俺の名前が彼女の口から出たとき、とても驚いた。クラスでいつも寝ている俺の名前なんて覚えてる人は永伍以外にいないだろうと思っていたからだ。


 ここで俺が真実を言わなかったら、先生にチクられることは避けられないだろう。

俺は残された道は一つしかないことを理解している。


 「わかった、話す。話すから先生だけには言わないでいてくれ」

 「いいですよ。で、なんでここに来たのですか?」


 奏は深く深呼吸をしてから、喋りだした。


 「俺、おばあちゃんの影響でピアノが好きで、放課後によくここでピアノ弾いてるんだよ。それで、今日も弾こうってここに来たんだよ。これがすべてだ。もう話したぞ」

 「大体のことはわかりました。でも、本当にそれだけですか?」

 「いや、疑うなよ。本当だよ本当」

 

 やはり疑っているのか、彼女は眉を細めてこちらの顔を覗いてくる。

 

 「すいません。本当にただそれだけなのか気になったので......意外と理由かわいいんですね。」

 「うるさい、別にいいだろ」

 「あはは、からかっているわけではありませんよ。あっそうだ、ちょっと手伝ってくれませんか?」

 

 なんで俺が手伝わなきゃいけないんだよという言葉が出かけたがここで文句言うとまた面倒くさくなりそうなのでぐっと抑えるのが最善だろう。案外、冷静な対応ができているなと自分で思うが、それは、彼女が優しいく穏やかな雰囲気を漂わせているからだろうか。とくに、怒っているというわけではないだろう。


 (―――まあ、とりあえず事は片付いたのでよかった)


「この荷物を持てばいいのか?」

「はい。私はこっちを持つので齋場君はそっちを持ってください」

「あ、いいぞお前持たなくて。俺、二つ持てるだろうし。嫌なら持たないど」

「え?逆にいいんんですか?」

「ああ、口止めのお礼だとでも考えていてくれ。別にお前のためじゃないからな」

「わかりました、ありがたく思っておきます」


 軽い気持ちで言ってみたが意外と緊張した。一つだけでもだいぶ重そうだった。それを華奢な少女に持たせるというのは何とも気が引けるから、といった考えも含んで

いたがそれを言える勇気をあいにく俺は持ち合わせていない。

 

 『よいしょっ』と声を上げ足に力をこめる。思っていた数倍重かった。よくこの重さをあの体で支えられていたなとなぜか感心してしまったぐらいだ。


 「どこに持っていけばいいんだ?」

 「1年C組までです。本当に大丈夫ですか?結構重たいはずなんですけどね。」

 「大丈夫だ」


 あまり、男をなめてもらっちゃ困る。いくら何でもこれぐらいで弱音を吐く男ではない。歩き出してから数秒、沈黙の時間が過ぎていく。気まずいという感情が俺の心を支配していく。ふと、彼女の顔を見ると彼女も彼女でどこか決まりの悪そうな表情を浮かべていた。


 「なあ、一つ聞いてもいいか?」

 「答えられる範囲なら答えますけど、なんですか?」

 「失礼だけど、名前なんていうの?」


 (本当に申し訳ないと思っている。でも、会話の内容がこれしか思いつかない)


 「本当に失礼ですね。まあ、そこまで気にしてないのでいいですよ。私は、天満 咲桜と申します」

 「おう、ありがとうな」

 「一応ですけど、私はあなたの名前知ってますよ。齋場 奏君ですよね。いつもで授業で寝ている」

 「最後の一言は余計だ」


 といっても、授業中寝ているのは事実なので強く否定できない。もう一度彼女、天満さんの顔を横目で見ると、表情はさっきよりも柔らかくなっていた。それを見て俺も少し居心地がよくなったように思う。


 「じゃあ、呼び方は天満さんでいいか?」

 「逆に初対面から呼び捨てだったら、ちょっとあなたの人間性を疑ってしまいます。まあ、あなたはそんな勇気はなさそうですけど」

 「お?馬鹿にしたな?って言ってもまああってるけど......」

 「やっぱり、あってますね。まあ、それでいいでじゃないですか」


 そう言って、天満さんは『にこっ』と微笑んでいた。改めて、天満さんという人は完璧だと思ってしまう。小顔に大きくまるまるとした瞳、そしてくっきりとした二重が顔を引き締め、彼女の美しさを倍増させている。


 「どうしたんですか?私の顔に何かついています?」

 「いや......別に何でもないが」

 「それなら、いいんですけど」


(―――最悪だ、完全に見とれていた。変人と思われてクラス中に言いふらされたら俺の居場所がない)


 「............そんなに見られたら......はずかしいん...ですけど」

 「ん?なんかいったか?」

 「いえいえ!なんでもありません!教室、もうそろそろですよ」


 なんだか話をそらされた気がしたけれど、天満さんはあまり気にしてなさそうなのでとりあえずよかった。


 (―――それにしてもさっきなんて言ったんだろう)


 そんなことを考えているうちに二人の教室が見えてきた。教室に入ると、奏は荷物を教卓の上に置きそのまま教室を出ていく。下駄箱で素早く外履きに履き替え、昇降口を出ようとしたそのときだった。

 

 「あの......一緒に帰りませんか?」


 透き通っていている声は、どこかさみしそうな声色にも聞こえてきた。

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