第5話 夕暮れの海岸線で②

 「本当か?!じゃあ、さっそく教えてくれ」

 「しょうがないですね。そんなに信用がないなら教えてあげますよ」

 「いや、別に信用がないわけでは......」

 「わかってますよ。私達、今日初めて話したぐらいの仲ですもんね」


 天満さんは俺をからかっているのか、楽しそうな顔をしているがその中にはどこか悲しそうな雰囲気もあるように感じた。なぜ少し悲しそうにしているのか、その時の俺にはよく分からなかった。



 「よ~くい聞いておいてくださいね。一度しか言わないので」

 「実は.........私......」


 そういった天満さんは大きく深呼吸をして心の準備をしている。その数秒間は今まで吹いていた海風も突然やみ、二人がいる砂浜のあたりも静かになった。どれくらいたっただろうか。俺には、まるで時間が止まったようにも感じた。


 「やっぱり何でもないです」

 

 (―――ここまで、ためておいて言わないとかあり?!)

 

 拍子抜けした。その言葉が聞こえてきたと同時に、急にめまいがして視界がぐらぐらと揺れ始めた。もうすぐ秋だっていうのに、暑い日が続いていたからだろうか。そのまま、俺は砂浜に倒れこんだ。


 「ちょっと!大丈夫ですか?!しっかりしてください!!」


 その声かけに反応しようとしたが次第に意識が遠のいていく。最後に何か天満さんの声が言っていた気がするが、ほとんど聞き取れなかった。


 「その人........わたし......ですよ...」


 彼女が最後に放った言葉は海風にかき消され、奏に届くことはなかった。

 


 何時間眠っただろうか。あたりは薄暗く暗くなりっていた。奏は慌てて、周りを見渡す。ベンチに横たわっている俺の正面にある出入り口からひょこっと、天満さんが顔を出していることに気が付いた。


 「起きましたか。体調は大丈夫ですか?今、水をそっちに持っていくのでそのまま寝ててください。軽い熱中症でしょう。最近熱いからですね。」

 「あぁ、ありがとうな。体調は大丈夫だ。俺はどれくら寝ていたんだ?」


 自動販売機で買ったのだろうか。天満さんは水の入ったペットボトルを2本持ってこっちに向かってきながら、涼しい顔で説明してきた。


 「う~ん、大体一時間ぐらいですかね。今は因みに、五時です」

 

 俺が想像していたよりも寝ていなかったので、少し安心した。それにしても、俺は砂浜で倒れた気がしたんだけど......。


 「なぁ、たしか俺砂浜で倒れなかったか?......もしかして、ここまで運んでくれたのか?!別にいいのに」

 「何言ってるんです。急に目の前で倒れたらほっておけるわけないじゃないですか。さらに私が海に行こうと誘ったのが原因でこんなことに......」


 なんだ、そんなこと考えていたのかと俺は少し驚いた。別に俺が行きたかったかついていっただけなのに、責任を感じられたら罪悪感が残る。


 「別に俺は行きたかったから行っただけだ。あんまり、気に病まないでくれ。あと、俺を助けてくれたのが借りの返しでいい」


 そう言って天満さんの方をちらっと見ると少し顔を赤くして、ありがとうございますと言っているかのように『ペコっ』とお辞儀をした。彼女は本当に気にしていたのだろう。そんな彼女の様子を見ていると、自然にかわいいという感情が浮かんできた。


 そうだ、天満さんはよくクラスでも話題になっていたことを思い出した。周りの男子たちが『かわいいかわいい』と言っているせいで、俺の睡眠の邪魔だったのが印象に残っている。その時はまったく興味が湧かなかったが今、あいつらが言っていた意味が少しわかった気がした。


 (―――そういえば、俺の倒れ際に天満さんなんか言ってなかったか?)


 俺はふと思い出した。

 

 「天満さん?」

 「はい、どうかしました?別に、水の料金はいりませんよ」

 「いや、それはそれでありがたいんだが、一つ聞きたいことがあるんだ」


 聞くべきか俺は一瞬迷ったが、気になるには気になる。ここは、感情に任せることにしようという決断に至った。


 「倒れ際に俺になにか言ったか?」

 「べ...べつに何にも言ってませんよ!?」

 

 明らかに、焦っている。どうしたんだろう。これ以上聞くべきか悩むところだ。でも、今日初めてあった人に強引に聞き出すことはできないだろう。

 

 (―――相手がしゃべりたくないんだったらそれでいいか。)

 

 「まあ、いいや。もう五時二十分になるぞ。俺は帰るけど、お前はどうするんだ?」


 これ以上詮索しないと分かった時の天満さん表情は、誰が見てもわかるぐらいに安堵していることが丸見えだった。こういう所も含めて、クラスの男子たちは好きになったんだろうなと理解する。


 「......ここまで来たのに、別の列車で帰るんですか?それ、本気です?そんなに齋場君が私と帰りたくないならそれでいいですけど」


 天満さんはふてくされたように顔を『プイっ』と俺からそむけた。俺は、そんな彼女をみて慌ててフォローをする。


 「いや、そういう意味じゃなくて!ここまで俺運んできてもらってたり......俺といるのもう疲れたかなって」

 「そんなことないですよ。逆に楽しかったです!それじゃ、行きましょうか。早くいかないと日が暮れてしまいますよ」


 天満さんはそう言ってゆっくりベンチから立ち上がり、右にある無人改札のほうへ向かっていく。俺はそれを見て、あわてて自分のカバンを取り彼女のあとを追いかける。


 改札を出て右にある跨線橋からは沈んでいく夕日がきれいに映っていた。天満さんは目をかがやせて食い入るように見ている。


 (―――今の女子高生って、写真とかよくとってなかったけ?)


 「とっても綺麗じゃないですか?」

 「ああそうだな。天満さんは写真とか取らないのか?」

 「私写真より自分の目で見ていたい派なんですよ」

 「奇遇だな。俺もだ」

 

 俺は初めて天満さんと気が合った気がした。その時突然、少し前を歩く彼女は不意に俺の方を見てこういってきた。


 「齋場君との帰り道って楽しいですね!」


 その言葉は少しく嬉しくもあり、恥ずかしくもあった俺は顔に出ないようにと必死に抑えることで精一杯だった。


 「恥ずかしいんですか?」

 

 そう言った天満さんは、くすりと笑いすぐに前を向いて進んでいった。

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俺の青春の救世主は学校一の美少女です。てか、実は覆面シンガーってほんとですか? @stork-katsu

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