第5話後処理のやるせなさ

圭吾は絶体絶命な状況から御薬袋みなえ はるかに救助され、危険な状態から回復することができた。時間がたつにつれ先ほど経験した出来事を鮮明に思い出し、助けられてばかりで何もできなかった情けなさに慟哭していたが、遥の言葉を聞くことで時間がたつにつれてぐちゃぐちゃになった情緒が落ち着きを取り戻し、立ち直る元気が出てきた。


「恥ずかしいところを見せてしまいすいません…。」「そんな暗い顔をしないで。私は気にしてないし、魔物に襲われて怖い思いをしたんだからたくさん泣いていいんだよ。」と御薬袋さんが俺の背中をさすってくれる。暖かい手で優しくさすってくれたおかげで悲しみで蝕まれていた心が温まることができた。(遥さんのおかげで心身共に助けられたな。俺もこんな人みたいに…)などと心の中で思いながら遥さんと共に歩いているとこの町で唯一ある避難所に着くことができた。「圭吾くんここまで本当にお疲れ様。私はまだやることがあるからここでお別れだね。」と俺の背中を軽く押して先ほど通って行った道に戻っていった。「遥さん本当にありがとうございました!あなたのような人に助けられて嬉しかったです!」と大げさに手を振りながら腹の底から声をだした。遥さんはもう一度こちらに振り向き手を振り返してくれた。そして遥さんは何か思い出したかのような顔をしてこちらに同じく大きな声をかけてきた。「最後に言っておかないといけないことがあった!圭吾君、今は普通に歩けているけど全身ボロボロで瀕死状態の体にただの回復薬を使っただけだからちゃんとお医者さんに精密検査をしてもらって体を見てもらうんだよ~。あとこの数日間は休息をとって安静にしていてね~。私との約束ね!」「わかりました!遥さんもこれからも頑張ってください!」と声をかけると笑顔でうなずいて今度こそ歩いて行った。

遥さんが見えなくなってから少したって俺は避難所に入り先ほど言われた通りに医者を探すことにした。


避難所に入った瞬間空気が一気に重く暗いものになった。周りを見てみると体育座りをし、顔をうずめた中年の男性が「死にたくない…死にたくない…死にたくない!」と小さなぼそぼそとした声を出し、時折発狂したかのように大声を出していた。他にも「まま…、ぱぱ…どこにいるの…」とカサカサな声を出し、涙が切ってもなお泣き顔をしている3歳ぐらいの子供がいたり、完全に心がおれ膝から崩れ落ち微動だにしない学生がいたり、「私の歩は、歩はどうなったんですか!」と発狂し外に出ていこうとしている女性がおり、女性の旦那と思われる男性が「やめるんだ!歩はもう…。もう…。それにお前も失ってしまったら俺はどうしたいいかわからない!だから外に出ないでくれ!」と泣きながら女性を外に出さないようにしているなど、このような負の感情を持っている人たちが大勢避難所にはいた。この地獄のような光景を見たことで気持ち悪くなり心がこの空気に浸食されそうに感じた。周りには助けてあげないといけない人たちがたくさんいるが俺は何も行動を起こすことや、声をかけることはできない。だがこんなネガティブなことを考えて心を痛めたところでなんの意味もない、ましては余計しんどくなると思い込み、今は自分のことだけに集中して医者を探すために避難所の奥まで歩くことにした。

医者がいるところは歩いていたらすぐに分かった。医者がいる場所はやはり怪我をした人であふれかえり、簡易ベットがそこら中に引き詰められたくさんの人が苦悶の表情を浮かべ寝かされており、医者の方々はせわしなく動いており、今は話しかけられる状態ではなかった。なのでまだ動くことができる俺は自分の治療を後回しにして先に自分と一緒に助けられたであろう颯雅と一天を探すことにした。


程なくして簡易ベットに横たわってる颯雅と一天を探し出すことができた。颯雅は背骨、両足にギプスをつけられており、全身が包帯で巻かれている状態だった。

一天の状態はよりひどく、片足切断、全身ギプス、酸素マスクの装着、そして何より背中から生えていた自慢の白い羽が片方なくなっていた。あまりにも生々しい、友人の惨たらしい状態を見てしまいもっと早く逃げれていれば、二人を助けることができるぐらいの力があればという後悔の念にさいなまれ、その場で立ちすくしてしまった。

ただ突っ立っていることしかできず、特段傷ついている彼らにできる行動は全くないので、ここは医者に任せることにし、鬱屈とした気持ちを心の奥にしまい込んでこの場を後にした。



二人の無残な姿を見た数十分後にけが人の診察をしていた医者に体を見てもらうことができた。

「骨と内臓の検査を行ったがとてもきれいな状態だったよ。今話してもらった状況を聞いた限りだとありえないぐらい健康体だね。よっぽど回復薬の効果がよかったぽいね。まぁしばらくは安静にしていてね。お大事に。」

「ありがとうございました。」といい、これからどうすれば良いかを考えながら邪魔にならないところで座り込んだ。

(今回は運よく助かったけど次同じことがあればどうなるかわからないよな。どうすれば良かったんだろうか。あと自分のことばかり考えていたけど母さん、父さんは無事なのだろうか。)とまとまらない思考で避難所に設置されていた公衆電話で母さんに電話をかけることにした。

「圭吾!大丈夫!けがはしていない⁉、お母さんニュースを見てから心配で心配で…、とにかく声を聴けて本当によかったわ。」と泣きそうな、少し安堵をしている声で話してくれた。「うん。けがのほうは大丈夫。ただ友達の颯雅と一天が魔物に…俺は何もできなっかた!どうしたらよかったのかわからなかった!今もどうすればいいか全く分からないよ…」と泣きそうになりながら心の奥にあった鬱憤を晴らすように言葉を吐き出した。

「圭吾は優しいね。でもお母さんは圭吾がそんなに思いつめることはないと思うの。大丈夫圭吾は悪くない。悪いのは全部魔物なの。だからそんなに思いつめないで。とにかく声を聴けただけでも良かったよ。お母さん今すぐに圭吾に会いに行きたいけど警告が出てるから、すぐには圭吾のもとにいけないからしばらく避難所に待っててね。本当に無事でよかった。」と優しい声に包み込まれ自然と涙が零れ落ちていた。電話の利用時間が来たので電話を切り、また今後どうすれば良いか考えるために座り込むことにした。


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