第10話 届かぬ君に捧げるセレナーデ
ハワード家が、王家の親戚?
アーク・ハワードの曾祖母は、元第三王女?
頭が真っ白だった。
なんで、と言葉にしようとしてグッと飲み込む。
本当か? 今聞いた情報は本当なのか?
だってそんなこと、ロスメモ本編では語られていない。設定資料集でも、公式イベントでもそんな情報は聞いたことがない。
俺が、いや"アーク・ハワード"が。
王家の血を引いている?
魔神を弱体化させる、選ばれた血を受け継いでいる?
────信じていいのか?
そんな、そんな都合の良いことが。
──────いや、逆か?
だから俺がアークに転生したのか?
だが、今はそんなことはどうだっていい。
もし、もしもそれが、本当ならば。
救えるのか?
彼女を、いや彼女たちを、その
ふと、フィオナと目が合った。
透き通るような紺色の瞳。
驚きと困惑が入り混じった表情でこちらを見る姿に、狂おしいほどのほどの感情が溢れてきた。
彼女を見て、数瞬。
冷静さを、取り戻す。
「──────あ、はは、申し訳ありません。 少し興奮してしまったようです」
明らかに俺の声は震えている。
だけど今はそんなこともすべてが些事に思えた。
「ビックリしたわよ、もう。 でもアークちゃんもいきなり王家の血を引いているなんて言われたら、驚いちゃのかしらねぇ」
「はっは、そうだな。 だがアーク、いかに王家の血を引いていようと我がハワード公爵家はローレンス王家に仕える身だ。 そのことを忘れてはならんぞ?」
「──はい、承知しています。 ああ、それと·········体調が優れないので、ここで失礼しますね。 父上、母上、フィオナ。 ───お休みなさい」
食堂の面々の返答もロクに聞かず、震える足で食堂を出る。
途中、慌てて追いかけてきたメイドさんが心配そうに肩を支えようとしたが、丁寧に断って自室へと戻った。
荒れ狂う感情を抑え込んだまま、フラフラとした足取りでソファに腰を下ろした俺は、先程聞いた情報をなんとか飲み込もうとする。
が、無理だ。 冷静でなんかいられるわけがない。
───見つかった。 ようやく見つかったのだ。
探していた光明が。
なんとも簡単な解決策が、見つかったのだ。
「···············っ、」
俺の目的は、フィオナ・ハワードを救うこと。
だが、フィオナを救うとアレクシア・ローレンスが死ぬことになる。
その原因は、魔神を討伐するために命を燃やして女神の力を使うからだ。
そして、女神の力を振るうことができるのは王家の血脈を受け継ぐもの。
そして─────なんという偶然か。
この、なんの関係もないと思っていたアーク・ハワードに、王家の血が流れていると。
ああ、いたじゃないか、こんなところに。
犠牲にしても構わない、クズな悪役が。
「くっ·········。 くくっ············ははっ、」
声が、思わず零れ出る。
ああ、今だけはクソッタレな開発者にも、なんならアーク・ハワードにも感謝してやってもいい。
こんな設定を、付けていやがったのか。
むちゃくちゃだよ、開発者。 せめて設定資料にくらい載せておけっての。
だが、いいよ。 許す。
例え後付の設定だろうと、公開する気のなかったボツ設定だろうとどうでもいい。
大事なのは、彼女達の死亡ルートを覆せる可能性があるということ。
フィオナとアレクシア、同時に2人を救うには。
このアーク・ハワードの、命を使えばいい。
さぁ、アーク・ハワードに転生した"俺"よ。
2人を救う解決策は出たぞ。
あとは、俺がやり切るだけだ。
惚れたキャラクターのためなら、命だって惜しくはない。 そうだろ?
覚悟は、ずっと決まっていた。
この世界をロストメモリアルと認識した時から、ずっと。
俺が、
望外の幸運で転生できた俺に課された、1つの使命。
フィオナの為なら死ぬ覚悟を。
くくっ、安心しろよ、アーク・ハワード。
俺はお前みたいに、お前の使い方を間違えねぇ。
だからアーク、テメェは特等席で黙って観てろ。
この俺の──────いや。
悪役公爵子息の、冴えた命の使い方を。
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第一章、ここまでお付き合いくださりありがとうございました。
次回からは、本格的にフィオナを助けるために動き出す「羽ばたく君へのバディヌリー」編となります。
悪役公爵子息の、冴えた命の使い方【一章完結】 犬 @szk8101919
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