第9話 君が笑っていてくれるなら
食堂で開かれたフィオナの歓迎会。
俺が食堂に向かっていると、ちょうどフィオナもメイドさんに連れられて歩いていたのでつい声をかけてしまった。
部屋では結局フィオナを救う方法を見つけることができず頭を抱えていたが、まだ魔神が復活するまでは時間がある。
悠長なことかもしれないが、魔神復活までに何らかのフィオナを救う方法を見つけ出せばいい。
もし見つからない時は────この
さて、せっかくのフィオナの歓迎会なのだ。
「フィオナが、我がハワード家に来たことを祝して。 皆の者、乾杯!」
「「「 乾杯っ! 」」」
手に持って掲げたグラスを、父上の言葉に合わせて持ち上げる。
てっきり乾杯だからグラスを打ち付け合うのかと思っていたのだが、貴族ではグラスを少しだけ持ち上げるだけに留めるようだ。
まぁテーブルがデカいせいか、腕を伸ばしてもグラスが触れ合わないもんね───
そして貴族ならコース料理的なものではないのか、と思っていたのだが......どうやらデザート以外の料理は各人の前に並べて出される方式のようだ。
俺の中の"アーク・ハワード"の記憶でもコース料理は見たことがなかったが、やっぱり世界が変われば常識も変わるのか。まぁ"俺"は元の世界の貴族の常識なんて知らんけど(適当)。
父上と母上はなんか高そうなワインを呑んでいるが、俺とフィオナのお子様組はなんか甘いジュースだった。
このジュースすごく美味しいんだけど、なんかエナドリっぽい味がするんだよなぁ······と微妙な表情を浮かべていると、背後に控えていたメイドさんが「お注ぎいたします」と言っておかわりをくれた。
なんか身体に悪そうな味だから、次のお代わりは控えよう······と思っていたら空になったグラスにいつの間にかお代わりが注がれていた。仕事早いね、さすがメイドさん。あ、もう本当に大丈夫です。あ······
「どうだフィオナ、我が公爵家のシェフは腕が良いだろう?」
「はい、どれもとても美味しいです」
「そうかそうか、いっぱい食べるんだぞ。 たくさん食べればフィオナも背が伸びるだろう、わははっ!」
「え、あ、はい、ありがとうございます」
「たくさん食べたらよく育つからなぁ、ほれ、アークなんてよく食べるからこんなに大きくなって──」
ほろ酔いなのか、ワインをグイグイと呑んでいる父上がフィオナにダル絡みしていた。
おい母上、父上のダル絡みを止めてやれよ。
と視線を母上に向けると、グラスが小さかったのか高そうなワインをラッパ飲みしている母上の姿を見て、そっと視線を戻した。
おい、何が名門たる公爵家だよ。名門が泣くぞ。
母上はお酒に夢中で父上を止めないので、渋々俺が助け舟を出すことにする。
「ははは、父上、その言葉はレディに失礼ですよ」
「む......? そうか、確かにそうだな。 すまないフィオナ」
「いえ、わたしが小さいのは理解していますので......」
あ、父上のデリカシー皆無な発言のせいでフィオナが少しだけシュンとしているじゃねぇか!
それに父上、フィオナが幼い見た目なのは"魔力供給過多"が原因だって知ってるだろうが! 飯食ってどうにかなるなら俺がフィオナにたらふく食わせてるわ!
フィオナを悲しませたノンデリカシー親父が禿げますように······と心のなかで真剣に祈りを捧げていると、先程までシュンとしていたフィオナが姿勢を正してこちらに頭を下げた。
「改めまして、この度はわたし───フィオナを名誉あるハワード公爵家に迎えてくださりありがとうございます。 公爵家の名に恥じぬよう精進いたしますので、不束者ではありますがよろしくお願いいたします」
静かに聞いていた俺と公爵夫妻は、フィオナが言い終えると同時に思わず笑みを浮かべる。
本当にいい子だなぁ。
フィオナは自己評価がめちゃくちゃ低いが、それは生まれてからずっと"魔力供給過多"で周りに迷惑をかけてきた、と思っているからだろう。
王家で彼女は腫れ物のように扱われてきたと設定資料集には書かれていた。
まぁ、王家からすればフィオナの病は厄介事だからな。公爵家への養子だって、言い方を変えればお払い箱にされたようなものだ。
だがこの公爵家で、少なくとも俺だけは、フィオナの絶対的な味方だ。
それだけは、例えこの身が"アーク・ハワード"であったとしても、知っていてほしかった。
「フィオナ、僕たちはもう義理とは言え兄妹なんだ。 遠慮なんかしてほしくないから、何かあったらすぐに言うんだよ」
「はは、アークも良い顔をするようになったな。 フィオナよ、アークの言う通り我々は家族だ。 もう君は私達の可愛い娘なのだよ、なぁエマ」
「ええ、私もこんなに可愛い娘ができて嬉しい限りですわ。 私はあなたの母親なのですから、いっぱい甘えてちょうだいね」
酒癖は悪いが、やっぱり公爵夫妻は立派な人達だ。
アーク・ハワードの件さえなければ、ハワード公爵家はますます発展していったことだろう。
それもひとえに、人間が出来ている公爵夫妻だったからだと思う。
しかしその平穏をぶち壊し、善良な公爵夫妻を手に掛け、フィオナを凌辱したのはここで呑気に座っている
笑顔で歓談するフィオナと公爵夫妻。
その姿を見て、やはりアーク・ハワードは異物なのだと······本来、彼らと同じ空間にいてはいけない存在だと。
そう思った。
☆
宴もたけなわ、と言うべきか。
かなりの量があった料理の数々をペロリと平らげ、デザートも食べ終えた俺は、運ばれてきた紅茶を手に父上とフィオナの話を笑顔で聞いていた。
「そうかそうか、フィオナは手芸に興味があるのだな?」
「はい、その······あまり身体を動かせなかったので、その代わりに色々とやってみたくて······」
「うむ、実はエマも手芸が好きでなぁ、昔はよく手袋なんかを───」
うんうん、
フィオナは今のところ趣味は手探りな状態みたいだが、フィオナの編んだマフラーとかだったら俺は全財産で買う覚悟があるよ。
フィオナお手製のマフラーなら使用用、観賞用、保存用で3つ買いたい。
あ、でも
「───まぁ、ローレンス家がそうだったのですか?」
「うむ、我が祖母はそれはもう厳しいお方でなぁ。 フィオナにとっては大祖母であるが、いやはやローレンス家にしては珍しく気の強いお方で──」
妄想に耽りながらフィオナの手編みマフラー(幻覚)を愛でていた俺は、公爵である父上が放った何気ない言葉に────思わず立ち上がってしまった。
立ち上がった衝撃で椅子は倒れ、けたたましい音を立てる。
いきなり椅子を蹴って立ち上がった俺に、全員が驚いた顔でこちらを見るが、それどころではなかった。
「ち───────父上。 いま、なんと?」
動悸が激しい。
まさか、聞き間違いか?
いや、でも、まさか────?
「ど、どうしたのだアーク。 いきなり立ち上がるでない、驚くではないか」
「そうよアークちゃん、貴族としてはしたないわよ。 それに我がハワード公爵家とローレンス家が親戚の関係なんてことは······ああ、アークちゃんに話したことはなかったわね?」
「ふむ、そうだったな。 アーク、お前の
「───────────は?」
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