第8話 俺の、俺たちの悲願
救済ルートの存在しないヒロイン。
フィオナ・ハワード。
開発陣の『この子だけはどう足掻いても殺すよ^』というクソみたいな執念を背負わされた少女である。
フィオナの救済ルート、詰んでるなぁ。
業腹だが、この死亡ルートだけはどうしようもない気がする。
いや、フィオナを死なせないだけだったら方法はあるにはある。
が、それもなぁ·········という否定の気持ちが強い。
ぶっちゃけ、フィオナだけを救うなら魔神討伐の旅に参加させず、公爵家の屋敷に監禁していれば救うことはできる。
じゃあ魔神を討伐できずに世界滅亡じゃん·········というと、そうでもない。
何しろ、女神の力を扱えるのは王家だ。
フィオナ以外にも、フィオナの実姉である"アレクシア・ローレンス"だけでなく、フィオナの兄や何なら国王夫妻だって女神の力を扱えるのだ。
そして、魔神討伐の旅に加わるのは"フィオナ・ハワード"だけではない。
王家からも"アレクシア・ローレンス"が参加することになる。
つまりだ。
フィオナが女神の力を使わなかった場合、女神の力を代わりに使うのは誰なのか。
王家から参加し、女神の力を受け継ぐ第一王女。
アレクシア・ローレンスが死ぬことになる。
では、ゲーム本編のメインヒロインである"アレクシア・ローレンス"の死亡ルートを回避するには?
簡単なことだ。
元第二王女であるフィオナ・ハワードを犠牲にすればいい。
これがフィオナルートがサブルートである理由だ。
クソムカつくことに、フィオナの死亡ルートは、アレクシア・ローレンスの救済ルートなのである。
「でもなぁ······アレクシアもめっちゃ好きなんだよなぁ·········」
フィオナは最推しだが、このロストメモリアルというゲームは本当に魅力的なキャラクターで溢れているのだ。
その中でも語りだしたら止まれないほどの魅力を持つのが、"アレクシア・ローレンス"。
フィオナの死亡ルートにさえ目を瞑れば、多くのヒロイン達が死ぬ中で珍しく生存したままエンディングを迎えることができるヒロインの1人である。
語るも涙、全俺が号泣した"アレクシアルート"では、ガチ恋するプレイヤーが続出するくらいアレクシアは素直でいい子だ。
その類稀なる容姿も「ほら、オタクってこういうの好きでしょ笑」みたいな、イラストだけで一目惚れする
正直、フィオナの救済ルートだからといって死んでほしくないキャラだ。だが、このままではフィオナは死ぬだろう。
選べない。選べないよ俺······どっちとも大好きなキャラクターだもの(浮気)。
俺としては国王夫妻か王家の長男である王子を犠牲にすればいいと思うんだが·········まぁ無理だよね。知ってた。
現国王夫妻か、王太子である王子様が魔神の弱体化のためだけに命を捨ててくれるか? という話である。為政者として絶対に頷くわけがない。
それに比べて、後継者ではない、言い方は最悪だがスペアもある王女なら1人くらい······と王家が考えても仕方無いだろう。いや仕方なくねぇわ死ね。
だからこそ古の魔神討伐の真実を知る王家は、王女であるアレクシアを危険な旅に参加させたのだ。
最期に、その命を以て英雄とするために。
「フィオナを助ければアレクシアが死ぬ。 でもアレクシアを助ければフィオナが死ぬ·········か」
なんか·········なんか良い方法はないか? もうこのクソみたいなトロッコ問題が頭の中を堂々巡りして解決策が浮かばない。
解決策で1つだけ浮かんだのは、王家の血脈が受け継がれた貴族を見つけてそいつを犠牲にすればいいじゃん、と思ったのだが。
「いないんだよなぁ、クソ·········」
設定資料集を読み込んでなんなら暗記までしている俺だが、多く存在するキャラクター達の中で王家の血脈が受け継がれているという設定のキャラクターは居なかったはずだ。
それに、もし居たとしても「ヒロイン2人のために死んでください」などと·········俺には言えない。
確かにフィオナとアレクシアの2人は何としてでも救いたいが、他人を犠牲にして笑っていられるようなクズに·········俺は成り下がれなかった。
だが、このままでは選ぶことになる。
フィオナを魔神討伐に参加させず、アレクシアを見殺しにするか。
アレクシアの代わりにフィオナが死ぬのを、黙って見届けるか。
どちらかの死を、また見ることになる。
ギリィッと、噛み締めた奥歯から異音が響いた。
せっかくロストメモリアルの世界に転生できたというのに、悲願だったヒロイン達の救済ルートは八方塞がり。
死ぬ運命にある多くのキャラクター達を救いたいと願い、二次創作で救済ルートを描いていた俺でもフィオナが真に救われるルートは描けなかった。
どうにかしようと必死に足掻きたいが、足掻く方法すらも分からない。
なにか、何か無いか。
俺みたいな平凡な男でも閃くような、彼女たちを死なせずに済む、そんな冴えた方法は。
夕食の用意ができたとメイドさんに声を掛けられるまで、俺は静かに考え続けた。
☆
「─────フィオナ」
突然背後から掛けられた声に、少しだけ驚いて振り向きます。
慌てて振り返った先、そこには今日からお義兄様となったアーク・ハワード様がいらっしゃいました。
「あ、突然声を掛けてごめんね。 フィオナも食堂に呼ばれたのかい?」
「あ、はいっ。 準備が整ったからと、お呼びくださったので······」
アーク・ハワードお義兄様。
名門であるハワード公爵家の長男にして、初対面からずっと物腰柔らかに接してくださるお方。
「そっか、じゃあ一緒に行こうか。短い距離だけど僕が案内するよ」
お義兄様に優しく微笑まれ、無意識に緊張していたわたしの体から力が抜けていきました。
隣に並んで歩かれているアークお義兄様は、わたしに気を遣ってか、ゆっくりとした歩幅でわたしを案内してくださいます。
「どう、無理とかしていないかい? 体調が少しでも悪くなったらすぐに言うんだよ」
わたしに掛けられた心配そうな様子のお言葉に、わたしは一瞬だけ困惑してしまいましたが、咄嗟に「大丈夫です、ありがとうございますお義兄様」と返すことができました。
お義兄様は、わたしの患っている"病気"をご存知なのでしょうか?
いえ、もしかしたらテオドールお義父様か、エマお義母様がお教えしたのでしょう。
なにせ、わたしの"病気"についてはローレンス家で秘匿されているはずです。
それか、アークお義兄様にご挨拶させていただいた際の、エマお義母様が仰った『少し身体が弱い』というのを心配してくださっているのかもしれません。
アークお義兄様が気遣わしげにわたしを見ますが、わたし、今日は本当に体調が良いのです。
ですが、その寄り添っていただけるかのような優しさが、なぜかとても嬉しく思えてしまうのでした。
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