年末年始の夢
北嶌千惺
第1話 辰
白い景色と薄青い澄んだ水辺。
遠くの方で糸のようなものが漂っている。
一歩足を進めると、波紋が一つ広がった。
一歩。また一歩と足を進める。
波紋が重なる。
糸のようなものが八の字のように動いている。
足を出す速度が増す。
糸のようなものが徐々に接近しているのが分かった。
糸のようなものはだんだんと太くなり、顔が付いているのが分かった。
髭を生やし、体に鱗が付いたものが龍だと認識したのは、その龍がすぐ横を風を切るように通っていった時だった。
驚いて背後を振り返った。
龍は暴れるように辺りを飛んでいる。
よく見ると、龍の体の一部に何かが刺さっているのが分かった。
何故かは分からなかったが、足は龍に臆することなく進んでいた。
龍は再びこちらへ突進してきた。
龍が近くまで来ると、手で足元の水を汲んで、龍の顔にその水をかけた。
すると龍は落ち着いたのか、瞼をパチクリさせて驚いてみせた。
涙を浮かべる龍の体の後ろに回り込んで、龍が痛みを訴えている箇所を軽くさする。
龍は低く唸る。
両手に力を込めて、刺さっていたものを引き抜こうとしたが、なかなか抜けなった。
そこで足元の水を何度かかけた。
何の効果があるのかは知らないが、水をかけていると刺さっていたものがするりと抜けていくのが分かった。
刺さっていたのもが抜けた時、龍は喜んだのか雄叫びを上げながら上空へ舞って行った。
水辺で呆然として龍を待っていると、龍は急降下して降りて来た。
辺りで風が吹き、水しぶきを上げた。
両手で持っていた刺さっていたものを、龍は前足をかざして小さな太陽へと変えてしまった。
龍は笑い、辺りをグルグル飛んでから、満足そうに天へと飛んでいった。
龍がいなくなると、辺りが静まり返った。
よく分からないまま星を抱きしめた。
暖かい。
何とも思っていなかった辺りが一気に明るくなり、白けていく。
誰かの声が聞こえたような気がした。
聞いたことのある声に、意識が薄れていく。
******
目を覚ますと、そこには見慣れた天井があった。
部屋の外から声が聞こえた。
蕎麦と聞こえたような気がして、寝ぼけ眼で炬燵から体をずるずると脱し、上体を起こす。
炬燵の上にはパソコンとお絵かき用のタブレットが置いてあった。
画面には年賀状用に描いた辰年のイラストの龍が、太陽を抱きしめて富士山から登るようにして真中を陣取っていた。
龍の背後では星が瞬いていて、『謹賀新年』と書かれていた。
本当にこれでよかったのかと思ったが、既に年賀状は出してしまっているので仕様がないと思い、年越しそばを思い描きながら部屋を出た。
二時間後、除夜の鐘が鳴った。
年末年始の夢 北嶌千惺 @chisato_k
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