最終話 おかねのつかいみち

 少し前の出来事。


「そっか、覚えてないか……」


 京ちゃんのイトウさんを覚えていないと言う言葉がとても悲しかった。


 何故なら少し前、イトウさんと京ちゃんが一緒にいた所を見ていたからだ。


 イトウさんと京ちゃん、なぎさんが対峙していた時、何故か私は裸で近くに放り出されていた。

 その時、今迄私が何をしていたのか全く記憶が無い。実は服を着てない事も気付いてなかった。


 意識が朦朧としながらも皆に気づかれない様隅に隠れる。

 2人が何を話しているのか何となく聞こえるが、意味がよく分からない。


 暫くするとイトウさんが私に近づいてくる。


「闘いが終わるまで出て行くのは待って!

 きっと、京なら大丈夫」


 イトウさんは京ちゃんをかなり信用しているかの様な口ぶりで私に話した。どうやら私の知らない間に京ちゃんとイトウさんはそんな関係になっていたらしい。

 そう言い残すとイトウさんはそのままどこかへ行ってしまった。


 少し悲しく不安になりつつも、何が起こっているのか状況もよくは判らないまま、なぎさんと京ちゃんをそのまま見守っていると京ちゃんがなぎさんを倒してしまった。


 そして謎の巨大プラモの登場と同時にビルが一回り小さくなり、ビルの形も変化する。何が起こっているのかさっぱりわからないが私は京ちゃんに駆け寄る。


「京ちゃん!」

 

 しかし、京ちゃんはお金になり崩れてしまう。


 私は泣きながらそのお金を集め、途方に暮れた。


 しばらく後、なぎさんが事切れる直前に確か「杖なら全ての願いが叶う」と言っていたのを思い出した。

 そして私は藁に縋る気持ちで落ちていた杖を探し出し、杖を振りながら


「京ちゃんを生き返らせて欲しい!」

 と杖を振る。


 散らばったお金が集まり、やがて京ちゃんの姿を作り出す。

 そして、意識のない裸の京ちゃんの姿がそこに現れた。


「京ちゃん、京ちゃん!!」


 私が呼びかけると、京ちゃんは意識を取り戻す。

 しかしその後、京ちゃんに言われ2人とも裸になってしまっていた事に気付き、服が欲しくなった私は杖を振り服を出そうと試みる。


 が、恥ずかしさもあり勢いあまって杖ごと投げ飛ばしてしまった。

 杖が壊れ、宝石の部分が外れてしまう。

 仕方ないので杖と宝石をくっつける様に杖を振る。


 服も何とか出て来た。

 京ちゃんに何が起こっているのか聞いてみるが、どうやらさっきまでの記憶が無いらしい。


 この杖で生き返らせると、以前の記憶を失ってしまう様だ。


 ……あれ?この状況。さっきの私と同じ状況?

 もしかして、私もさっき生き返ったの?

 なら私はいつ死んだの?

 そして、誰が私を生き返らせたの?


 何故、今私ここに居るのかもわからないが、ここ数年の記憶、大学生の時からの記憶はちゃんと持っている。京ちゃんにも確認したけど同じ生活や同じ会社で働いていた記憶がある。

 数年前の話でもやたらはっきりと思い出せる。


 それにこの杖、願いを何でも叶えるわけでは無く、この場にあるお金や資材を使って願いを叶えるらしい。

 つまり、杖があってもこのお金や資材が無ければ京ちゃんは生き返らなかった、と言う事になる。

 巨大プラモはこのビルを、京ちゃんは自分の変化したお金から生き返ったのを目にしたので恐らく間違いないだろう。


 何と無く全容が見えて来たが、京ちゃんも死んでた事を聞くとショックだと思うので私は京ちゃんにその事を伝えない事にした。


 そしてそのしばらく後、辺りに落ちていた杖、盾らしきもの、剣、ナイフは宙を舞い、空に消えていった。


 そしてその後、気付けば何故か私はなぎさんの勤めている会社のビル(私達が屋上に居たビル)から少し離れた所でそのビルに向かって歩いている。


 少し先を歩いている京ちゃんを追いかけて。


 そして今に繋がる。


 なぎさんと京ちゃんが闘っていた記憶と、さっきまで仕事をして、その帰りになぎさんの会社に向かっている記憶。

 同じ時間の、別の記憶。

 私はどちらもはっきり覚えている。


 京ちゃんはさっきよりもイトウさんに関する記憶が完全に消えてしまっている。

 恐らくなぎさんも2人で殺し合いを演じてたなんて思ってないのだろう。


 やはり私達がビルの屋上から瞬間移動したタイミングで何かあったのだろう。


 何故私がそれを覚えているのか。

 それは恐らく、さっきの宝石の欠片を持っているからなのかも知れない。

 杖は消えたが、杖の砕けた宝石は私がポケットの中で握り締めている。


 暫くすると仕事を終えた、なぎさんがビルから出て来る。


 なぎさんが生きていた事に少し違和感を感じながらも、私達は飲み会をするお店へ向かう。


 なぎさん、京ちゃん達との学生時代からの楽しい思い出もある。

 もう一つの謎の物騒な記憶は私の中だけにしまっておこう。


 これでいいんだ、これで。

 昔からも、これからも私達3人楽しくやっていける!


 所で、私と京ちゃんは社会人になってからお付き合いさせて貰ってます。

 幼い頃から20年以上かかったけど漸く彼氏彼女の関係になれました。

 いつも仲良くしてますが、大学4年生のクリスマスの時珍しく大喧嘩をして暫く口を聞かなかった事もありました。


 あの時は京ちゃんが服をプレゼントしてくれて、それがとても嬉しくてすぐに着替えてみたけど服は大き過ぎてブカブカでした。

 それを見た京ちゃんは


「引っかかる所がない身体だから、服が下に落ちちゃうね」と一言。

 それでも折角貰ったとても嬉かったプレゼントと私を同時に傷つけられた事がとても許せず、今までで一番長い喧嘩に発展しました。

 あの喧嘩がなければ、もしかすると大学時代から付き合えていたのかもしれないけど、あの喧嘩のお陰で今はもっと仲良くなれている気もします。


 何だかとても、とてもとても色々な事があった気がするけれど、私達はこれからも幸せに生きていける自信はある。


 これからどんな生活が待っているのか、とても楽しみです!


「京ちゃん!なぎさん!早く行こ!お腹空いたよー」


「じゃあ行こうか」

 京ちゃんが答える。


 皆でお店に向かう私。


 その時、長い黒髪のとても綺麗な女の人が向かい側から歩いてくる。


 そのまま私とすれ違っただけだが、その美しい女性はすれ違いざまに私に軽く微笑んだ気がした。

 京ちゃんもなぎさんも、こんな絶世の美人さんに気付かなかったのだろうか。

 とても綺麗な人なのに、何故か私の中に奇妙な感覚が残る。


 が、私は気にせず2人の元に駆け寄った。


「今日は沢山飲むぞー!」

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おかねのつかいみち ゔぃれ。 @vilettaprisken

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