【ショートストーリー】数学者レオンの論理的な恋

藍埜佑(あいのたすく)

【ショートストーリー】数学者レオンの論理的な恋

 レオンは数学者として大変有名だった。彼は数学の美しさに魅了されており、数式や定理に囲まれた生活を送っていた。彼は感情や人間関係には興味がなく、恋愛などというものは非論理的で無駄なものだと思っていた。


 ある日、レオンは大学で講演をするために旅に出た。そのとき、彼は偶然にも美しい女性と出会った。彼女の名前はアリスといい、レオンと同じく数学者だった。彼女はレオンの講演に感銘を受けて、彼に話しかけてきたのだ。


 レオンはアリスに対して、初めて今まで抱いたことのない感情を覚えた。彼は彼女の知性や魅力に惹かれ、彼女の笑顔に心を奪われた。彼は自分が恋に落ちたことに気づいたが、それを受け入れることができなかった。彼は恋愛が非論理的であるという信念を捨てることができなかったのだ。


 そのためレオンはアリスとの関係を数学的に分析しようとした。彼は彼女との相性や未来を数式やグラフで表そうとした。彼は彼女との会話やデートを論理的に計画しようとした。彼は彼女に対する感情を定量化しようとした。しかし、どれもうまくいかなかった。彼は数学で恋愛を説明することができなかったのだ。


 アリスはレオンの態度に不満を感じていた。彼女はレオンが自分を愛していることを知っていたが、彼がそれを素直に表現できないことが特に不満だった。彼女はレオンに対して、感情をもっと自由に表現することを求めた。彼女はレオンに対して、恋愛は数学ではなく、心で感じるものだと言い放った。


 レオンはアリスの言葉に戸惑った。彼は自分の感情をどう表現すればいいのかわからなかった。彼は恋愛を心で感じることができなかった。いや、正確にはその状態の自分を客観視することができなかった。彼は自分の論理を捨てることができなかったし、アリスとの間に溝ができることを恐れた。


 レオンはアリスとの関係を修復するために、清水の舞台から飛び降りるつもりで最後の試みをした。彼はアリスに対して、自分が考えた数学的な愛の証明をプレゼントしたのだ。


 それは次のようなものだった。


$$

\begin{align*}

&\text{命題:レオンはアリスを愛している。}\\

&\text{証明:}\\

&\text{(1)レオンは数学者である。}\\

&\text{(2)数学者は数学を愛する。}\\

&\text{(3)数学は真理である。}\\

&\text{(4)真理は普遍的で不変的である。}\\

&\text{(5)アリスは数学者である。}\\

&\text{(6)アリスは数学を愛する。}\\

&\text{(7)アリスは真理を愛する。}\\

&\text{(8)レオンも真理を愛する。}\\

&\text{(9)レオンとアリスは同じものを愛する。}\\

&\text{(10)愛するものが同じであれば、互いに愛し合うはずである。}\\

&\text{(11)ゆえにレオンはアリスを愛し、アリスはレオンを愛している。}\\

&\text{(12)これは真理と同じく普遍的で不変的である。}\\

\end{align*}


 アリスはその証明をじっと見つめていた。

 そして、彼女はゆっくりと目を上げてレオンを見て、突如、クスクスと笑い始めた。

 最初は小さな笑いだったが、やがて彼女はお腹を押さえて大笑いを始めてしまった。

 レオンの真剣な表情がさらにその笑いを加速させているようだ。

 レオンは戸惑った。彼が作った証明はとても真剣なものだった。そして彼は、その証明がアリスに笑われてしまったことに少し傷ついていた。しかし、その一方で彼は、アリスの笑顔に心が暖かくなるのを感じた。


「あなたって、本当に大天才で……そして大馬鹿ね!」


 アリスの言葉にレオンはさらに戸惑った。

 天才と馬鹿は明らかに相反する概念であり、それを同列に扱うアリスが理解できなかった。それは「0=1」と言っていることに等しい。

「アリス、君はいったい何……」

 レオンの言葉が途切れた。

 それは彼の唇に重なってきたアリスの唇によってだった。


(了)

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【ショートストーリー】数学者レオンの論理的な恋 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi

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