第53話:エンシェントドラゴン
2年目の春
しばらくは、何の問題もなかった。
村人を中心に酒を造っては大宴会をして、楽しく暮らしていた。
大魔境以外の場所、東魔境や獣人国でも酒を造っては大宴会をした。
大魔境以外の場所では、その地の住民が参加して酒を造り大宴会をした。
仲が悪い妖精族グループ同士も、徐々に仲が良くなっていたと思う。
金猿獣人族とキンモウコウは、獣人国でも高い地位を得られそうだった。
キンモウコウが永住するのは無理だと思われていた獣人国だが、変わっていた。
人神と天使たちがエンシェントトレントの牢獄に封印され、その魔力と命力がエンシェントトレントに吸収されるのだが、短時間に全部は吸収しきれない。
エンシェントトレントが短時間に吸収しきれなかった魔力と命力は、周囲に散らされるようになっていた。
中級神である人神と、中級神と同じ強さの天使が100柱もいたのだ。
彼らから集められる魔力と命力は莫大な量だった。
集めきれない量だけでも、中級の魔境と同じだそうだ。
獣人国は中級の魔境と同じくらいの魔力が満ちる場所になった。
キンモウコウたちが子供を作り育てられるくらいの場所になった。
なので、キンモウコウたちは金猿獣人族と一緒に獣人国に移住できた。
完全に移住する訳ではなく、大魔境との二拠点生活になった。
定期的に収穫作業を行う、火口の避難村と東魔境を含めれば、4ケ所に家があるような状態になっていた。
こんな風な、忙しくても穏やかで幸せな暮らしが続けばよかった。
だが、そんな願いはかなえられなかった。
エンシェントドラゴンが火口の避難村を襲撃しやがった。
不幸中の幸いな事に、エンシェントドラゴンが襲撃した時は、他の場所、東魔境で酒造りをしていた。
もし火口の避難村で収穫している時だったら、大混乱になっていたかもしれない。
村民の中に死傷する人がいたかもしれない。
「村長、申し訳ありません、外に出していた酒が全部飲まれてしまいました」
火口の避難村に移住したのは、俺の造る酒が目的の、酒が大好きな妖精族だけなので、全員が獣人国の酒造りを手伝いに来てくれていた。
だから酒造りを終えて、大宴会を楽しんだ後で、火口村に戻ってからエンシェントドラゴンに襲われた事に気がついた。
崖の奥と地下に造った酒の貯蔵庫は無事だったが、地表に出していた酒が全部飲まれてしまっていた。
よく話を聞くと、俺の責任も少しあった。
村の酒は俺の責任で崖の奥と地下に造った酒の貯蔵庫に保管してあった。
だが、妖精族個人の酒は彼らが保管していた。
特に良い酒、エンシェントトレントの果実を原料にした酒は、亜空間に保管していたのだが、入れられる量には限りがあった。
だからハイトレントの果実を原料にした酒は地上に放置していたそうだ。
「エンシェントドラゴンは火口の避難村に居座っていないのだな?」
「はい、私たちが転移魔術で戻った時は、ハイトレントの酒を飲んでいました。
殺されないように、気をつけて転移魔術を使いようすを見ていましたが、地上にある酒を飲みほしたら、自分の巣がある方に戻って行きました」
「知っているエンシェントドラゴンだったのか?」
「村長に言われていましたので、全エンシェントドラゴンの住み家を確認して、何かあったら復讐できるようにしてありました。
私たちの大切な酒を飲んだのです、罰は受けてもらいます」
「罰を与えるのは好いが、エンシェントドラゴンに勝てるのか?」
「昔からドラゴンの弱点は酒と決まっています。
酒精の強い酒を飲ませて酔いつぶします。
酔いつぶせたら簡単に殺せます」
「いや、殺すのはかわいそうだ、まだ酒を盗み飲んだだけだろう?
盗まれた分は俺が保証するから、殺すのは止めてやれ」
「酒を盗むのは大罪だぞ、死刑が当然だ!」
横で聞いていたエンシェントドワーフのヴァルタルが本気で怒っている。
「大罪かもしれないが、俺の酒が美味いからだろう?
殺すのではなく、罰を与え、代価を払ってもらえばいいだろう?
妖精族の長寿薬を作るのにエンシェントドラゴンの素材が必要だったろ?
それを代価にもらえば良いのではないか?」
「村長、長寿薬の素材はエンシェントドラゴンの生き胆です。
原料にしようと思うと、エンシェントドラゴンを殺さないといけません」
「いや、別に殺さなくても、酔っている間に胆の一部だけもらえばいいだろう?
そもそも胆でないといけないのか?
胆から胆汁だけ取れればいのだろう?
この前見た、エンシェントトレントの牢獄。
人神と天使たちから魔力と命力を奪う牢獄。
あれを使ったら、エンシェントドラゴンから胆汁を奪えないか?
苦痛なく眠らせた状態で魔力と命力を奪えるのだろう?」
(やれるぞ、いたみをあたえることなくうばえる、たんじゅうもうばえる)
「エンシェントトレントがやれると言ってくれている。
火口の避難村にエンシェントトレントを成長させて牢獄を造る。
エンシェントドラゴンを捕らえて長寿薬の材料を手に入れる、いいな?!」
「村長には長生きしてもらわなければならん、村長に従おう」
1番怒っていたヴァルタルが認めてくれた。
火口避難村の妖精たちは、俺が飲まれた酒を保証すると言ったので、もう怒っていなかった。
俺は火口避難村にエンシェントトレントの種を蒔き成長させた。
地下茎では1人、表に出ている巨樹は100人のエンシェントトレントだ。
彼を人神と天使たちを捕らえた強さにまで成長させた。
エンシェントドラゴンが酒に誘われてくるように、火口避難村の地表にバーレーワインを大量に出して開封した。
俺のギフトだけで育てた大麦から造られているので、エンシェントトレントワイン並みに美味しいラガーだ。
バーレーワインに加えて、凍らせて水分を取りのぞき、酒精を67パーセントにまで高めた冷凍高酒精ラガーを開封してエンシェントドラゴンを誘った。
ドラゴンが酒で失敗するのは異世界でも定番のようだ。
冷凍高酒精ラガーを一気飲みして酔い潰れたエンシェントドラゴンを、エンシェントトレントが捕らえて牢獄に封じ込めた。
「やったぞ、これで村長を長生きさせられる!」
ヴァルタルが思いっきりよろこんでいる。
「直ぐに長寿薬を作ります」
シェイマシーナ、申し訳ない、元々不老長寿なんだ。
長寿薬は飲んだ振りするから、許して。
★★★★★★
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
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来訪神に転生させてもらえました。石長姫には不老長寿、宇迦之御魂神には豊穣を授かりました。 克全 @dokatu
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