第52話:住み分け
2年目の春
ヴァルタルとシェイマシーナは、俺の願いをその日のうちにかなえてくれた。
ヴァルタルは大魔境に住むエンシェントドワーフだけでなく、他の魔境に住むエンシェントドワーフにも話をつけて、獣人国を警備する戦士を決めてくれた。
ヴァルタルが言っていた通り移住してくれるエンシェントドワーフはいなかった。
だが、エルダードワーフとハイドワーフの移住を決めてくれた。
これで屈強な戦士と武器職人を、獣人国に永住させられた。
シェイマシーナは獣人国に永住する妖精族を見つけてくれた。
大魔境と東魔境以外の魔境に住んでいた妖精族らしい。
今俺の村に住んでいる妖精たちとは仲が悪い者たちだそうだ。
妖精族にも仲良しグループがあるそうだ。
最初に俺と仲が良くなった妖精が嫌いな者たちは、大魔境村に住むのはどうしても嫌だったそうだ。
そんな妖精たちも、俺の酒はどうしても欲しいそうだ。
俺が定期的に酒造りを行う予定の獣人国は、村の妖精族が移住する前に自分たちの縄張りにしたいと思っていたそうだ。
だから、俺の提案が全てかなった訳ではない。
大魔境村の妖精族が隊を組んで獣人国の警備をする事はできなかった。
仲の悪い妖精族が同じ国にいるのはケンカの元だから、住み分けができるのなら、それが1番なので、自分の考えはひっこめた。
「シェイマシーナ、妖精族のクループはどれくらいに分かれているんだ?」
「それはもう、数限りなく分かれています。
その時々で、仲良くなったりケンカしたりします。
昨日仲が良かった者たちが、明日には大げんかしている事もあります。
逆に、仲が悪かった者同士が、次の日には仲が良くなる事もあります」
「だが、獣人国に移住する妖精は、ずっと村の妖精と仲が悪のだろう?」
「はい、めずらしく長くケンカしていますので、住み分けさせました。
妖精族のケンカが原因で、村長の願いをダメにするわけにはいきません。
ですが、何かがきっかけで、仲良くなるかもしれません」
「そうか、そう言う理由ならしかたがないと言うか、分かった。
いつか仲良くなってくれたら良いな」
「妖精族はその気になれば永遠に生きられますので、気長に待ってください。
人間の寿命だと、生まれてから死ぬまで仲が悪い事もあります」
「そうか、人間の感覚で考えてはダメなのだな」
「はい、ですが、村長にも永遠に生きていただきます。
ですから、私たち妖精と同じ感覚になっていただきます」
「ああ、そうだな、そうなれたらいいな。
それと、今思いついたのだが、山の盆地にある避難村だが、あそこにも仲の悪い妖精族を移住させられないか?
これがきっかけで仲良くなれるかもしれない。
何より、村に住む妖精族の戦力を分散させなくてすむ。
イェーシュアはもの凄く身勝手なんだ、また天使を送って来ると思う。
村の戦力は分散させたくないんだ」
「そう言う事でしたら、これまで声をかけていない妖精族に話をしてみます」
「そうしてくれ、ただ、これまで良くしてくれた、村の妖精族が嫌な思いをしないようにしてくれ。
もちろん、シェイマシーナが嫌な思いをしないようにな」
「ありがとうございます。
村長に心配をかけないように、仲の悪過ぎる妖精には声をかけていません。
声をかけたのは、仲が悪いと言っても仲直りできそうな妖精です」
「そうか、それなら安心できる。
集める妖精は、シェイマシーナが話できる者たちにしてくれ。
何かあったら、シェイマシーナに妖精族は任せる事になる」
「ありがとうございます。
村長の信頼を裏切らないように、ケンカする事のない妖精に声をかけさせていただきます」
「それと、最後の確認だが、火竜が戻ってきた時はだいじょうぶか?
火竜は戻ってこないと何度も聞いているが、心配でしかたがないんだ。
人神と天使が差別して奴隷にしようとしたのは、獣人だけじゃないかもしれない。
もし竜族にも同じことをしていたら、エンシェントドラゴンが昔の巣に逃げてくるかもしれない」
「そうですね、人神と天使が直接行う差別と攻撃を考えないといけませんでした。
私たち妖精は、転移魔術で逃げられましたが、神官や狩人に狙われていました。
竜族は強い者が多いので狙われる事は少なかったですが、異世界から天使が来ていたのでしたら、攻撃されていたかもしれません」
「ああ、それが心配になったんだ。
エンシェントドラゴンが火口の避難村に戻ってきても、安全に逃げられる妖精だけを選んで移住させてくれ」
「分かりました、相手が強大なエンシェントドラゴンでも、確実に逃げられる妖精だけを選んで、火口に移住させます」
シェイマシーナが良くやってくれたので、エンシェントドラゴンが昔巣にしていた、火口の避難村に多くの妖精族が移住してくれた。
そのお礼として、ハイトレントの果実をワインにした酒の残りは、移住妖精が自由に飲んで良い事になったが、その分エンシェントトレント産の酒は制限された。
すべてシェイマシーナが交渉してくれたので、俺には精神的にも肉体的にも何の負担もなかったし、時間も使わずにすんだ。
その時間を、エンシェントトレントの果実を使ったワインを造りに使った。
決して無理をしない、ゆったりとしたペースで造った。
穀物を原料にした酒造りにも使った。
大魔境のエンシェントトレントの果実を使った酒造りは、村人の義務になっているが、東魔境などの他の場所は自由参加になっている。
自由参加になっているのだが、ほぼ全員がよろこんで参加してくれる。
特に大魔境神と東魔境神、下級神たちは全力で手伝ってくれる。
彼らが手伝ってくれるので、信じられないくらい速く酒が造れる。
その8割が村の共有酒になるので、蓄えておく場所が直ぐにいっぱいになる。
頼めば全部エンシェントトレントが蓄えてくれるのだが、心配性の俺は、強大なエンシェントトレントでも1人には任せきれない。
だから、自分でも酒の貯蔵所を次々と造った。
ギフトの使い方が徐々に分かっていたので、地下でも山の中でも鍾乳洞のような住居と貯蔵所を造る事ができた。
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