第51話:永劫の牢獄

2年目の春


 エンシェントトレントの枝が、種の弾を受けて上空から落ちて来た人神と天使たちをからめとっている。


 ただ殺すのでは芸がない、こちらの力にする方が賢い。

 何より、長く獣人族を苦しめた奴を簡単に殺さない。


「大地よ、俺を助けてくれる巨樹が必要とする豊かな地となれ!

 巨樹よ、枝葉を強化して人神と天使を閉じ込める牢獄にしろ!

 大地よ、俺を助けてくれる巨樹が必要とする豊かな地となれ!」


 俺の命令、想像に従って長く伸びていた巨樹の枝葉が姿を変えていく。

 手足の自由を奪い、首と胴も完全にしめつけている。

 他の枝が何重にも重なって牢獄となり、人神と天使たちを閉じ込める。


「大地よ、俺を助けてくれる巨樹が必要とする豊かな地となれ!

 巨樹よ、枝葉を変化強化して人神と天使から魔力と命力を奪え!

 人神と天使がどのような手段を使っても魔力と命力を奪える変化をしろ!

 大地よ、俺を助けてくれる巨樹が必要とする豊かな地となれ!」


 俺の命令、想像に従って巨樹の枝葉が姿を変えていく。

 枝葉に食虫植物のような部分や棘が現れる。

 捕らえている人神と天使に棘が刺さり食虫植物がからみつく。


 これで中級神以上の力を持っている人神を完全に捕らえられるのか?

 イェーシュア配下の天使軍団を閉じ込め続けられるのか?

 獣人族が安全に暮らし続けられるのか?


「巨樹よ、エンシェントトレントよ、だいじょうぶか?

 人神と天使を捕らえ続けられるか?

 外から天使の援軍が来てもだいじょうぶか?」


(だいじょうぶだ、あんしんしろ、にがさない、とらえつづける)


 期待していなかった答えが直接返ってきた。

 妖精族に巨大蚕かマーダビー連れて来てもらって、通訳してもらうつもりだった。

 それなのに、頭なのか心なのか分からないが、直接答えが返ってきた!


「直接話ができるようになったのか?」


(ひとがみとてんしのちからをうばった、めいりょくをうばってしんかした)


「そうか、命力を奪ったら進化できるのか。

 普通の木がハイトレントに進化したのも命力の関係か?」


(おおくのまりょくをえる、おおくのけいけんする、それもしんかする。

 だが、われらほどになるとしんかするのにめいりょくがひつようだ)


「そうか、良く分かった、教えてくれてありがとう。

 エンシェントトレントの中でも力をつけたから、だいじょうぶなんだな?

 援軍に来た天使が外側から攻撃して来ても、だいじょうぶなんだな?」


(だいじょうぶだ、あんしんしろ。

 つねにつちをゆたかにしてくれていたら、だいじょうぶだ。

 あらたなてんしがきても、あたらしいろうごくをつくってとらえる)


「分かった、少しでも危険があれば、獣人族を移動させようと思っていた。

 だがそこまで自信があるなら、獣人族を移動させるのは巨樹に失礼だな。

 このままここに獣人の国を創る、任せたぞ」


「ひきうけた、まかせろ」


 巨樹、エンシェントトレントがここまで言い切ったのだ、信じるしかない。

 だが問題は獣人族だ、彼らはとても不安に思っているだろう。

 強大な神々の戦いを見せつけられたのだから。


「ヴァルタル、シェイマシーナ、獣人たちが安心できるようにしたい。

 ここにエンシェントドワーフと妖精族を移住させられるか?」


「妖精族は何の問題もありません。

 村長の酒を代価にいただけるのなら、多くの妖精族が集まります。

 村にいる妖精族も定期的に転移して見張ります」


「大魔境に住むエンシェントドワーフは難しいと思う。

 他の魔境に住むエンシェントドワーフも、独りが好きな奴が多いから難しい。

 だが、村長の酒が代価なら、定期的に来て守るくらいはするだろう。

 村長、絶対にエンシェントドワーフでなければいけないのか?

 村長の酒が代価なら、エルダードワーフやハイドワーフが大量に移住するぞ」


「まずはエンシェントドワーフから移住する者を探してくれ。

 むりなら、交代で警備してくれるように話してくれ。

 同時に、エルダードワーフとハイドワーフの移住話も進めてくれ。

 俺の酒程度の代価で良いのなら、いくらでも渡す」


「まってくれ、村長の酒を安売りするのは止めてくれ。

 必ずエンシェントドワーフに交代で警備させる。

 エルダードワーフとハイドワーフの移住も絶対にさせる。

 だから、どの酒を代価にするのか、量をどれくらいのするのかは、儂らに決めさせてくれ、頼む」


「俺の願いをかなえてくれるのなら、酒の種類と量はヴァルタルに任せる。

 全てのドワーフたちとの交渉なんて俺にはむりだ。

 ヴァルタルに頼むしかないから、代価は任せる」


「うむ、絶対に村長の願いはかなえて見せる、安心してくれ」


「妖精族との交渉はシェイマシーナに任せたいが、だいじょうぶか?」


「はい、だいじょうぶです、おまかせください。

 村長の願い、獣人族が安心して暮らせるようにする。

 必ず実現させてみせます、ご安心ください。

 代価の方も、村長や村に損をさせないようにします」


「たのむ、シェイマシーナになら全て任せられる」


「はい、安心してお任せください」


「ヴァルタル、シェイマシーナ、いつも任せきりでも申し訳ない。

 2人のお陰で俺も安心して暮らせている。

 この通りだ、ありがとう」


「なにを言っている、儂こそ村長のお陰で幸せに暮らせている。

 頭をあげてくれ、いたたまれなくなる!」


「ヴァルタルの言う通りです、村長に頭を下げられたら身の置き所がなくなります。

 私たち妖精族の方が、村長のお陰で幸せに暮らせているのです」

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