第50話:人神
2年目の春
俺が本気で言ったからだろう、獣人族を助けに行くのを認めてくれた。
もの凄くかくごして行ったのだが、行かなくてもだいじょうぶだった。
「人間の分際で、俺たちが加護を与えた者たちをおそうなんて許せん!」
「前から人間の身勝手な言動には腹が立っていたんだ!」
「守護神の人神が強いからって調子に乗り過ぎだ!」
「ここで獣人族を見捨てたら酒を売ってもらえなくなる!」
「獣人族を1人もケガさせるな、ケガさせたら2度とあの酒が飲めなくなるぞ」
「「「「「おう!」」」」」
転移して直ぐに、全身から力が抜ける下級神たちの言葉を聞いた。
膝からくずれ落ちそうなくらい力が抜けてしまった。
それと、けっこう安心もできた。
下級神たちが本気で獣人族を守る気になってくれていた。
勇ましい、普段とは違う戦いの服を着ていた。
人間の騎士や兵士を軽々と叩きのめしていた。
「おのれ、下級神の分際で吾が支配する民の邪魔をしおって!
吾は、異界を支配する人神、イェーシュア様から力を授かった特別な存在なるぞ!
これ以上邪魔をつづけるなら、滅ぼすぞ!」
もうだいじょうぶだから帰ろうと思っていたら、とんでもない声が聞こえた。
「見ろ、異世界を支配する偉大なる人神から貸し与えられた軍団ぞ。
逆らう者は滅ぼしてくれる。
今日から吾がこの世界を支配する最高神だ!」
身勝手を絵にかいたような態度と表情の奴が空に浮かんでいる。
その周りを、天使にしか見えない連中が取り囲んできる。
この世界の人神をたぶらかしたのがあの神なら、この身は人間でしかないが、同じ世界の者として責任を取らないといけない。
「大地よ、俺を助けてくれる巨樹が必要とする豊かな地となれ!
巨樹よ、獣人族を守る盾となり、人神と天使を滅ぼす剣となれ!
大地よ、俺を助けてくれる巨樹が必要とする豊かな地となれ!」
エンシェントトレントに申し訳ないと思いながら、種を蒔いて願った。
俺が命じお願いできる最強の存在はエンシェントトレントだからだ、申し訳ないが頼らせてもらった。
地球の腐れ神にそそのかされた、この世界の人神と戦ってもらうのに、明らかに人神や天使より弱いと分かっている、妖精やエンシェントドワーフには頼めない。
人神と天使は空を飛ぶことができる。
エンシェントドワーフとエンシェントトレントは空を飛べない。
もっと弱いキンモウコウと金猿獣人族も空は飛べない。
妖精族は普段から飛んでいるのだが、高く飛べるかどうか分からない。
人神と天使たちはかなり高い場所から見下ろしてやがる。
「大地よ、俺を助けてくれる巨樹が必要とする豊かな地となれ!
巨樹よ、もっと強くなれ、人神と天使を滅ぼせるほど強くなれ!
大地よ、俺を助けてくれる巨樹が必要とする豊かな地となれ!」
俺の命令と願いを聞いてエンシェントトレントが巨大化していく。
大魔境神や東魔境神にいるエンシェントトレントよりも強大化している。
ハイトレントの外側にあって、全てを守ろうとしている。
「村長だけに戦わせるな、吾と共に戦え!」
「「「「「「おう!」」」」」
大魔境神の言葉を受けた下級神たちが飛び立つ。
あんなに弱かった下級神が人神や天使に勝てるのか?
「村長を守るのです、防御魔術を展開しなさい」
「「「「「おう!」」」」」
シェイマシーナの言葉に妖精族たちが俺の周りを固めてくれる。
大魔境神と下級神たちの前にも防御魔術が浮かび上がる。
妖精族の防御魔術で人神や天使の攻撃を防ぎきれるのか?
「儂らはじっと待つぞ、連中が地に落ちたら止めを刺す。
槍が届く所に来たら投げてたおすぞ!」
「「「「「おう!」」」」」
エンシェントドワーフは槍を投げて空の敵を倒すのか。
とんでもない高さにまで届く気がする。
問題は1度で全員を倒せるかどうかだ。
1度攻撃を受けたら、槍が届かない所まで逃げるはずだ。
「汚らわしい獣人に味方するようなモノは神とは言えぬ。
偉大なイェーシュアの教えに従わないモノは焼き滅ぼしてくれる!
やれ、偉大なイェーシュアの力を見せつけてやれ!」
この世界の神だから、エンシェントドワーフの力を知っているのだろう。
人神と天使たちは地上には近づかず、上空から火炎魔術を投げ落としてきた。
妖精族たちが展開した防御魔術が次々と破壊されていく。
それでも人神と天使が放つ攻撃を1度は防いでいる。
大魔境神と下級神たちが新しい防御魔術を展開して防いでいる。
「巨樹よ、スナバコノキのように種子を弾にして人神と天使を撃て!
種子の弾に人神と天使をマヒさせる毒をもたせろ。
その為に必要な魔力と栄養は俺から取れ!」
俺は以前調べた事のあるおもしろい木を思い出して命じた。
種子を鉄砲弾のようにうち出す木があった。
散弾銃のように、種子を12個に分裂させて時速200km以上でまき散らす。
巨樹は俺の願い通り、ツタを上空高くまで伸ばしてくれた。
限界まで伸ばしてくれたのだろうが、わずかに人神や天使には届かない。
届いていたら、そのまま巻き付いて地上に叩き落してくれただろう。
だが、届かない分を、散弾銃の弾のように分れた種子がおぎなう。
種子の弾が雨あられと人神と天使をおそう。
まさかエンシェントトレントの攻撃が届くと思わなかったのだろう。
いくつもの種子が人神と天使に叩きつけられる。
「なんじゃ、そんな事ができるのなら、儂らを上に運んでくれればよかったのだ。
そうすれば、自慢の槍で人神と手下を刺し貫いてやれたのに」
エンシェントドワーフのヴァルタルが恐ろしい事を言う。
だが、そうか、エンシェントトレントが土台になってくれたら上に行けるのか。
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